1-26.アルティ決め8
ネネが次にメンバーに選んだのはカイだった。ネネはその日の午後に廊下を歩いていた。その時、すれ違いざまにカイが声をかけた。
「おい、そこの君、俺のものになれよ。」
ん、まさか私にそのようなことを言う人はいないでしょう。ネネは振り向きもせず、歩き続けた。しかし、次の瞬間カイはネネの肩をぐっと掴んだ。
「君だよ、俺が話しかけてるのは。」
ネネは怒った。
「私に気安く触るなんて万死に値します。」
ネネはこの学校に来てからはじめて魔力を全開にした。彼女から溢れた魔力が多すぎて、紫色のオーラがゆらゆらと覆った。美しい黒髪もまた風によってゆらゆらと揺れて、威圧感が増した。そして、彼女の目は紫色に変わった。彼女は全力になるとここまで姿が変わってしまうのだ。
カイはオーラによって強制的に手を振り払われた。そこまで焦ってはいなかった。ただ、あ、怒らせちゃったなと思っていただけだった。しかし、ネネのただならぬ姿に少し怖くなった。
「今から私と戦いなさい。健闘したら許してあげましょう。」
ネネはそう言って、周りのものが壊れないように結界を張った。そして、空間が狭かったので、少し広げた。カイはここで焦った。空間を広げる魔法なんて見たこともないし、聞いたこともなかった。今更後悔しても無駄だった。
「はい、わかりました。」
カイは態度を改めた。
「逃げないだけましですね。まあ、どちらにしろ半殺しですけどね。」
ネネは不気味に笑った。
「俺は男だからな。」
「さあ、どう料理しましょうか、この罪人を。」
罪人というのは流石に言い過ぎではあった。普段冷静なネネがここまで怒るのは珍しかった。ただナンパしただけなのにな、とカイは思った。
「いつでもいいですよ。」
ネネは微笑んだ。
「では。」
カイは覚悟を決めた。もうどうにでもなってしまえ。カイは自分の得意な風魔法と雷魔法の合わせ技の竜巻(カイ命名)を演唱してネネに向かって撃った。
「やりますね。」
ネネはそう言ったものの、それを人差し指で触ってうち消した。大きな音を立てていた竜巻は急に収まって、きらきらと光った。
「ではお返ししますね。」
ネネは竜巻は撃たなかったがその代わりに風魔法を連射した。カイは体をかがめて、走りながら必死に避けた。彼に掠りはしたが、直撃はしなかった。カイの制服の袖が破れた。
しかし、ネネは手を緩めることなく、次に氷魔法を連射した。またもやカイを掠って鋭い氷の刃が右腕、左の腿を通り過ぎた。紅の血がそこから滲むようにして出てきた。カイは地面に転がったが、動きを止めるとやられてしまうので、動き続けた。カイは息が上がった。
ふと、ネネは攻撃をやめた。
「切り札があるのなら早めに出しておいた方がいいですよ。」
「そうしたほうがよさそうだな。」
カイは大技の準備にかかった。彼は両手を大きく広げた。
「少し時間がかかりそうですね。」
「いや、時間はかからねーよ。」
カイは両手を一気に合わせた。その瞬間ネネは魔法障壁によって閉じ込められた。ネネは身動きができなくなった。
「ほう、これは中々やりますね。まあ、これくらいのものでしたら。」
ネネは魔法障壁を素手で破った。魔法障壁は本来魔法を防ぐものであったが、このような使い方をしたカイにネネは少し感心した。
「魔法が効かないなら物理的に壊せばいい話ですから。しかし、このアイデアは使えますね。」
ネネはそう言って空間を戻して、結界を解除した。
「これくらいで許してあげます。まあ、私を感心させられたと言うことで。」
「はあ。」
カイはすっかり縮こまってしまった。
「そういえば、あなた私のアルティに入らない?」
「はあ?」
「まあ、この状況であなたに選択の余地はないですけどね。」
「そうみたいだね。もしかして俺に惚れた?」
どうやらあまり反省していないようですね。
「殺しますよ。」
「はい、すみません。」
「では、追って連絡しますので、保健室でも行ってきてください。」
ネネは床に垂れた血を魔法で綺麗に掃除して、ついでにカイの出血を止めて、その場所を立ち去った。




