1-24.アルティ決め6
次の日、ヘイドは早速掲示板に張り紙を張った。大した内容ではなかったが、興味ある人は午後三時にヘイドの部屋の近くのラウンジスペースに来てほしいということだった。意外にまだ掲示板に張り紙を張っているアルティは少なく、ヘイドはほっとした。実は、ほかのアルティよりも出遅れていたので、焦っていたのだ。
ネネは朝食を食べ終わると、早速中庭に行った。そこでは多くの生徒がいたので、一瞬にしてまた囲まれたが、もうアルティに属しているとわかると面白いくらいに散っていった。はじめからこうすればよかったのですね、とネネは思った。彼女はよさげな生徒を探して歩いた。ネネは大体人の強さはわかる。その人の魔力量を感じれば。しかし、高度な魔法を使える人は自分の魔力量を隠すことができる。
しかし、この高校では逆にそのようにしている生徒はよく目立つ。なぜなら、ある程度の魔力をみんなが持っているからだ。
面接の時間までに目ぼしい人は見つけられなかった。他のアルティもこのようなことをしているがあまり人は集まらないらしい。しかし、ネネの知名度のおかげあろうか、三十人ほど集まった。ネネとヘイドは全員と面接をした。採用するかしないかは、ネネたちが決めることであった。決して六人採用する必要はない、そう思ってネネは臨んだ。
ネネが採用したのはたった三十人中一人であった。
それがイオという桃色のロングヘアの少女である。振る舞いも普通であったが、少しぶりっ子じみているところがあった。ネネは、これは女子に嫌われるタイプですね、私は気にしませんけど。彼女の魔法のレベルは他の生徒とは一段階上にあった。問題は性格ですかね、ネネはそう思った。
とまれこうまれ、ネネのアルティのメンバーは六人確定した。その日はもうメンバー探しをやめた。明日のことを考えながら、ネネはベッドに寝転んだ。
「面白くなりそうですね。」
彼女は独り言を言って目を閉じた。
次の日、ネネとヘイドは一緒にメンバーを探すことにした。そして、庭園をぶらぶらと二人で歩いていると、なにやら人が集まってがやがやしているのを見かけた。ヘイドは気になったらしく、ネネも他に何もないので見に行くことにした。
「ちょっとすみません。」
ヘイドは人をかき分けるようにして、中に何があるのか覗いた。そこには、リテラともう一人、ヘイドの知らない金髪でぼさぼさの髪の少女が対峙していた。
どうやら喧嘩のようである。全く、何やってるんだリテラは、とヘイドは思った。
「おい、てめー貴族だからって偉そうなこといってるんじゃねーぞ。」
金髪のほうがリテラを脅していた。
「あら、私の勝てるのかしら、口だけではないのよね?」
ネネがやっとヘイドの横に到達した。
「面倒くさそうですね。そして彼女あれだけ痛い目に合っていて懲りないんですね。」
「昔からあんな性格だったから。」
「リテラさんとは幼馴染なんですか?」
「うん、小中高一緒になるかな。」
「そうですか・・・」
ネネはなんだかもやっとした。リテラに関わるとろくなことがないことは身をもって体験済みである。金髪の少女が少しかわいそうに思えた。しかし、手を出そうとはしなかった。
「何で喧嘩しているのだろう?」
ヘイドは言った。
「どうせろくでもないことですよ。まあ、魔法で勝負するなら勝敗は明らかでしょう。」
「リテラ、か?」
「ええ、彼女は強いですから。」
「そうか、」
ヘイドは何か考えているようだった。
「じゃあ、行かせてもらうわよ。」
リテラは手を金髪の少女に向けた。そして、稲妻をかき集めたような塊を金髪の少女に向かって放った。その時、ヘイドが急に飛び出して行った。ネネは予想外の行動すぎて止めることができなかった。
「やめろ。」
ヘイドはもう一人の少女をかばうように体を張り出して叫んだ。驚いたリテラであったが、稲妻の塊をそらすだけの余裕はあった。それは逸れて、どこかへ飛んでいってしまった。
「もう、なんで止めるのよ。」
金髪の少女に向かって言った言葉とは大違いで優しかった。
「争いはダメだろ、しかもこんなところで。」
リテラはヘイドが言えば納得しただろうが、もう一人は別だった。
「おい、何しやがんだ、てめーぶっ殺されたいのか?」
あまりきれいな言葉ではないですね。しかし、悪い人ではなさそうだった。その人はヘイドに杖を向けた。
ヘイドは無茶を勝手にしますね、そこが彼のいいところでもあり、悪いところでもあるのですがね。
杖は魔術師なら大体もっている。それは魔法を発動させやすくする道具であり、術式が綿密に組み込まれている。魔法使いになるとそれがないほうが寧ろ自分流の魔法が発動できるため、使う人は少ない。
そして、彼女は丸腰のヘイドに向かって魔法を放とうとしている。このままどうなるか見るのも一見の価値があるが、ヘイドがかわいいそうなので、助けることにした。
「はあ、これは私が出て行くしかないですかね。」
ネネは一瞬にして、その金髪の人、そして、リテラの武装解除をした。金髪の人の杖はネネの手に飛んできた。リテラの武装解除と言うのはつまり、ネネはこの空間においてすべての魔法を無効化したのだった。金髪の人は唖然としていた。
「あなたですか、ヘイドに寄生虫のようにまとわりついて。」
「そうですね。」
ネネはもう否定することすら面倒であった。
「兎に角、争いごとはよくないですよ。私が言うのもなんですけど。」
ネネは付け足した。
「おい。お前、俺の杖を返せ。」
「あっ、はい、どうぞ。」
ネネはすんなりと返した。その人はすんなりと返されて驚いていた。
「いざとなれば、どうにでもできるので。」
ネネは微笑んだ。
「お、おう。」
なにかに、怯えているようだった。まあ、まさかこんなかわいい私に怯えるわけないないですよね。
「ところで、あなた、私のアルティに入りません?」
この奇想天外ぶりにヘイドは驚いた。
「ま、まじか。」
彼は声を漏らした。
「あら、自己紹介がまだでしたね。私は、ネネ・アンジェラと申します。」
「お、俺はサヤカだ。」
「で、入りますか?」
「この状況で聞くか、それ?」
「少なくとも私にとってはあの馬鹿な人よりは大事なことなので。」
ネネはさりげなくリテラを謗った。
「まあ、考えてやらないこともない。」
「じゃあ、入るということですね。」
「おい、飛躍しすぎじゃねーか。」
「てっきりそういうことかと。」
そこにしびれを切らしたリテラがネネを攻撃しようとした。しかし、彼女は攻撃することができなかった。なぜか魔法が使えないのだ。今までこのようなことは一切なかった。ネネはそれに気が付いたが無視して話を続けた。サヤカは黙っていた。
「で、どうしますか?このまま続けますか?それとも私たちのアルティに入りますか。」
「どうやら、選択肢は一つみたいだな。」
彼女は息を吸った。
「仕方ねー、てめーらのアルティとやらに入ってやるよ。俺はお前のことが気に入ったのでな。」
人の好みはわからないものだなとヘイドは思った。
「あら、私もあなたのことが気に入りました。奇遇ですね。」
「ああ。」
サヤカはそう言ってその場をネネと一緒に離れた。リテラは何か言いたげだったが、魔法も使えずに困惑していて、突っ立っていた。気が付くと人混みもネネもサヤカもいなくなっていた。
「まあ、どうせ部屋でまた会えるからいいでしょう。」
彼女はそう言ってその場を立ち去った。
ネネはサヤカになぜ喧嘩していたのか、理由を聞いた。
「特に大したわけじゃねーんだけどな。俺はやつと同じ部屋でよ、あいつが貴族ぶって俺を軽蔑してくるからよ。頭にきて手を出しちまったというわけよ。」
まあ、二人とも血の気の多い人たちそうですから当然と言えば当然でしょうかね。
「そうですか、とりあえず手を出すのはやめてくださいね、これからアルティで生活する上では。」
「あん?ああ、むかつくやつがいなければな。」
「で、これからどうしましょう?」
「メンバーを探すか?」
ヘイドは聞いた。
「とりあえず、昼食を食べましょうか。」
三人は昼食を食べた。まだ、時間が早いということもあり、食堂には人は少なかった。ヘイドはこそこそとサヤカに聞こえないようにネネに話しかけた。
「何でこいつを入れたんだ?」
素朴な疑問だった。ネネのアルティであるから、ヘイドは文句を言うつもりはなかった。しかし、ネネは一風変わった人をアルティに入れている。まるでその人の能力はどうでもいいかのように。これまで、もっとまともで、普通の人にも声をかけていたし、かけられたこともある。しかし、不思議なことにネネはそのような人を一人も採用しようとはしなかった。
「面白いからですよ。」
ネネはそう答えた。
「ほかの基準はないのか?」
「私だっていろいろ考えているのですよ。」
ネネはそれだけ言った。ヘイドはそれ以上は聞かなかった。
「おい、お前ら何ひそひそ話してるんだ?」
「何も。」
「私がどういう基準で人を選んでいるかということですよ。」
「で、どんな基準で選んでいるんだ?」
「それはもちろん面白いかどうかです。」
ネネは微笑んで答えた。サヤカも笑い出した。ネネはくすくすと笑った。
「は、は、は、最高だな、ネネ。」
サヤカは笑ってそう言った。笑いすぎて涙が出かかかっていた。ヘイドは何が面白いのか、わかるような、わからないようなそんな気がした。
それから、少しして、彼女たちは思い存分笑った。
「やっぱ好きだわ。」
サヤカはそう言った。
「私も。」
どうやら、サヤカとネネは波長がぴったりと合うらしい。ヘイドはわからなかった。なぜこんなにも違うのに、仲が良くなるのか。人は見かけによらないものだなと思った。
「そういえば、俺、あいつと部屋同じなんだよな。どうするか。」
「あいつって、リテラのことですか。」
「ああ。」
「うーん、それなら少し狭くなりますが私の部屋で寝ますか?布団ならありますので。」
「まじか。じゃあ、そうさせてもらうわ。」
ヘイドは遠慮というものがないな、そして、あまりこの人は好きではないかもしれないと思った。
「では、相部屋の方にはそう伝えておきますね。」
ネネはそう言った。
「よろしくな。」




