1-20.アルティ決め2
しかし、事の顛末はそこで終わらなかった。それはいったん置いといて、ネネは大変な一日を過ごした。まずはお昼を学校の食堂で食べているとき、見知らぬ人に話しかけられた。
「ネネ・アンジェラさんですよね?俺のアルティに入ってくれませんか?」
「いや、私たちのアルティに。」
「僕らのアルティがいいですよ。」
このようにいろいろ言われて静かに食事もできない有様であった。
「食事の邪魔をしてくるなんて、怪しからん人々ですね。」
しかし、それは食事中にとどまらなかった。あらゆるところで、あらゆる人がアルティに入ってほしいと頼みに来た。
「正直迷惑ですね、これは早めに入るところを決めたほうが面倒くさくないですね。」
ネネは校内を探検していたが、声をかけられるのに愛想をつかして自分の部屋に戻った。
ネネの部屋にはもう一人、カナ・ダンフリーズという魔法使いがいた。『無口の魔女』の名の通り、彼女は一言もしゃべらない。しかし、その代わりにテレパシーを使うのだ。テレパシーというのは、要するに相手の脳波を読み取って行うものであり、どんな相手にも使えるが、それは一方的なものにすぎない。
例えば、ネネがヘイドの感情を読み取ることができても、ヘイドはテレパシーが使えないので一方的なものになってしまうのだ。それに加えて、テレパシーという魔法は使える人が極端に少ない。相手とよほど仲がいいか、仕組みを理解しているか、必要に迫られて経験的に使えるようにしかならない。
「ただいま。」
カナはリビングにはいないようであった。寝室を覗くと疲れているのか、彼女はベッドで寝ていた。カナは無口だった。彼女はネネと同じ黒い髪で、背がとても小さく小動物のようでかわいかった。しかし、無口なので本性はネネ以外にはばれてはいないが、心の中でえげつないことを思っていたりする。はじめにあった時もそうであった。
「こんにちは、私はネネ・アンジェラと申します。よろしくお願いします。」
カナはそれに対して、ぺこりと頭を下げて、彼女の荷物をいじっていた。
『ふん、こんな小娘なんかと相部屋か。私は魔女だというのに。もうちょっと待遇よくならないのか、この学校は。』
あれれ、小娘ってこの人も小娘じゃない?私のほうが背が高いし、それに魔女だからってこの学校の待遇は変わらないんですけど、なんかむかつくんですけど。ネネはその言葉を飲み込んだ。
「お名前は何というのですか?」
カナは全くしゃべらなかった。無口のまま、ネネのほうを見た。
『この小娘育ちだけはいいようだな。よし、我の名前くらいは教えてやろう。』
ちなみに、カナは思考が漏れていることをまだ知りません。ネネはため息をついた。何でしゃべらないのだろうと思った。カナは彼女がいつも使っているらしいカンペを取り出した。そこにはこう書かれてあった。
「 我の名前はカナ・ダンフリーズである。別名無口の魔女である。 」
やっぱり一人称は我なんだ。
「ほうほう、だからしゃべらないんですね。」
ネネは面倒になってこれ以上何も話しかけなかった。
ネネは、リビングのソファに座った。どうしようかな。もちろんアルティ決めのことである。強い人を集めるのもつまらないし、馬鹿は面倒だ。ネネは自分のアルティを作る方向に決めた。とりあえず、よさげな人を誘ってみるか。しかし、ネネはまともに外を出歩くことはできない。姿を消して、空を飛べば大丈夫だろうか。
空を飛べるのは今のところ、鳥類と魔術師である。昔は飛行機というものがあったらしいが、戦争のあと政府が作ってはいけないとしたので、もう存在しない。魔術師は箒と使って空を飛ぶ。なぜ箒なのかはわからない。
魔術師がそのまま空を飛ぶのは処理をする術式が多すぎて並大抵の魔術師にはできない。だから、処理できない術式をあらかじめ箒に付与しておくことで、魔術師の術式負担を最低限にしているのである。付与する対象は別に絨毯でも本でもなんでもよい。しかし、ほぼ全員箒を使って空を飛んでいる。ちなみにネネは箒なしでも空を飛べる飛行魔法を習得している。とりあえず姿を消して外にでるか。
そして、ドアを開けるとそこにはヘイドがいた。どうやら、ノックしようかしまいか迷っていたようである。ネネが扉を開けるとヘイドは驚いた。
「何か用かしら?」
「うん、うんん。」
「どっちなんですか?」
「いや、さっきリテラが変なことしてごめん。彼女はアタランタ家の人で、まあ、兎に角ごめん。」
「別に気にしていないからいいですよ。」
「ところで、どこのアルティ入るか決めた?」
「まあ、私のアルティを作ろうと思うので。」
「そうなの?じゃあ、俺はネネのアルティ入ろうかな。」
「別にいいですよ。しかし、そこのストーカー気質の魔女さんが許すとは思いませんがね。」
今度は普通にいた。ヘイドはもう驚きはしなかった。
「何してるの?」
「また、たぶらかしていたのね。」
リテラが怒ったように言った。
「はいはい。」
「ヘイドは私のアルティに入るの。さあ、行きましょう。」
まあ、随分強引なものですね。
「いや、それは。」
ヘイドはあからさまに嫌な顔をしていた。
「ヘイドはこの人のアルティに入りたいというの?」
リテラは彼に迫った。ヘイドはこくりと頷いた。
「じゃあ、ネネ・アンジェラ勝負よ。私と戦って勝ったほうがヘイドをアルティに入れる。」
「いいですよ。」
ネネは嫌ではあったが、首を振るともっと厄介なことになりそうだったので、勝負をすることにした。ヘイドははあ?みたいなことを言いたげな顔をしていたが、二人は無視した。
「じゃあ、今日の三時、競技場で。絶対来なさいよ。」
「はい。」
ネネはにっこりとわざとらしい微笑みを浮かべてそういった。
そして、ヘイドはリテラに連れていかれたのだった。ああ、面倒なことになったな。まあ、ものは考えよう。勝てば人を誘いやすくなるかもしれない、ネネは少し楽観的な見方をすることにしてみた。そして彼女は扉を閉めた。