1-16.クマ高校2
そして、月日は過ぎ、受験が終わり二人は無事に受かった。こう述べると簡単なように聞こえるが、いろいろあった。リテラは家の反対がすさまじかったが、結局説得には成功した。そして、誰にも言っていないはずなのに十人衆の二人がクマ高校を受験するという噂で学校は持ちきりになっていたときもあった。そんなこんなで大変な日々を送った二人だったのだ。
入学式の日に初めて二人はクマ高校の門をくぐった。まだ九月ということもあり、暑かったが、少し秋の訪れを感じさせるような風が吹いていた。クマ高校は世界中から受験者が集まるので、大陸ごとにいくつかの受験会場があった。もちろん帝都ダザイフもそのうちの一つであった。制服の採寸なども受験会場がある都市で行えるようになっていた。だから、二人が珍しいわけではなかった。二人にはボディーガードがついていたが、これもそこまで珍しいことではなかった。クマ高校には多くの貴族の子が受験をするからである。
しかし、二人は明らかに目立っていた。それは、全部リテラのせいであった。王族であるので、受験合格ということでさえ、新聞の一面に大きく載り、それが一高ではなくクマ高校であったため大スクープとなったのだ。馬車を降りると、新聞記者などがわんさか集まってきた。
「どうしてクマ高校を受験なさったのですか?」
などと質問して、多くの人が二人をじろじろと見ているのだ。
「王族って大変だね。」
「まあ、慣れてるけどね。」
ネネは凛として答えた。周りには親と一緒に校門の前に来ていた新入生もいた。しかし、親は入学式も参加できず、校門で別れないといけないのだ。
クマ高校は、二千年前まで存在したアソ魔国の王都の王城の建物をそのまま利用しており、全寮制である。生徒は特別な場合を除いて、敷地から出てはいけないのだ。そして、親は用事がない限り入ってはいけないことになっている。大学も同じ建物を利用しており、大学生は自由に出入りしていいことになっている。
門をくぐるとそこには広大な庭園が広がっていた。噴水があったりや手入れされた花が咲いていたりした。大学生らしき人が、その庭園の芝生で横になったり、ベンチに座っている人もいた。新入生が行く道をたどっていくと、やっと校舎らしきものの扉に着いた。
まずは寮のある棟に向かった。その棟は西に位置しており、一、二階が男子、三、四階が女子用だった。
「じゃあ、また。」
「ばいばい。」
ヘイドはリテラにそういって別れた。部屋は一〇五室だった。寮であるから狭い部屋を想像していたが、広くゆったりとしており、寝室が一つ、トイレとシャワールーム、そしてリビングとキッチンがあった。部屋は相部屋でもう一人相方がいるらしいが、まだ来ていないようだった。
ヘイドは荷物を広げて、服をタンスの中に入れたりして片付けた。そうしているうちに、相方が到着したようだ。ヘイドはドアが開く音がしたので、見にいった。予想通り、そこには大きな荷物を持った、ヘイドより少し背の小さい赤毛の少年が入ってきた。その人は、ヘイドを見て、挨拶をした。
「あ、こんにちは。部屋同じ人ですよね?」
「ああ、ヘイドだ。よろしく。」
ヘイドはパーティなどでいろいろな人と話してきたので、初対面の人でも問題なく話せる。
「僕はケリン、よろしくお願いします。」
「これから、どうするのかわかる?」
「ええっと、僕が聞いている話だと、放送で指示があるまで部屋で待機だったと思う。」
「ありがとう、俺はちょうど荷物片づけてたところだから。」
そして、二人は荷物の整理が終わって、リビングのソファに座っていた。
「どこから来たの?」
ヘイドは聞いた。
「僕は、ラスフェ大陸のセンダイから来たよ。君は?」
「俺は帝都から来た。」
「へー、僕帝都は一回も行ったことがないんだよね。一般枠?」
「いや、特別枠。魔法ができないから。」
「そうなんだ、すごいね。」
「俺からしたら、魔法が使えるほうがすごいけどな。」
「倍率がめっちゃ高いんでしょ?」
「うん。」
「ほらすごい。僕は魔法しかできないから。でも、この学校入って卒業すれば、魔術師の称号がもらえるから頑張った。」
そう、魔法使いにもランクが存在する。まず一番下は術師。大体みんな入学する前はこのランクだ。そして、高校で一定の成績を修めれば、魔術師の称号が与えられる。この魔術師になれば将来職に困ることもなく、安泰である。その上に魔法使いの称号がある。魔術師の称号は、クマ高校、キョウ高校(私立キョウ魔法高等学校)の魔術師過程を終了したもの、及び、魔法使いのもとで修業をしたものにしか与えられないので、持っている人は少ない。そして、魔法使いの称号は世界魔法協会の魔法試験を受けて、合格すれば魔法使いの称号をもらえる。しかし、一年に一回の試験で合格者は毎年0から2人くらいである。
魔法使いの称号を得たものには、通り名が与えられて通常そちらを使うことも多い。ちなみにリテラは魔法使いの称号をすでに取得しており、通り名は『空の魔女』である。女性の魔法使いのことを魔女と呼んだりする。
「ほー。」
正直ヘイドは魔法にあまり興味がなかった。幼いころ、リテラの実験台や遊び道具にされてあまりいい思い出がないのだ。しかし、クマ高校は特別枠、一般枠の生徒はごちゃ混ぜにされて、魔法の勉強をするのだ。
「ヘイドは魔法使い目指しているの?」
ケリンは思ってた以上に意識が高いようである。
「いや、俺は魔術師でいいかな。」
正直、ヘイドは魔術師になりたいとは思っていなかった。しかし、成り行きなのでなるしかなさそうである。ヘイドはすこしこの高校に入学することになったことを後悔した。
「ふーん。」
そうしているうちに、放送で新入生は西棟(寮のある棟)の中庭に集合するようにとあった。ヘイドは、ケリンとともに中庭に向かった。




