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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
15/129

1-14.出会い4


 ヘイドは心配で九時半に駅に着いた。列車はちょうど00分に来るので駅にはまだ人が少なかった。ヘイドは駅前の広場のベンチで座って気持ちを落ち着かせていた。広場には噴水があり、夏休みということもあり、多くの子供が遊んでいた。

十時に近づくにつれて駅に来る人が増えてきた。アソの村に旅行に来た人たちが、朝一で家に帰るのだろう。アソの村は景色だけでなく、温泉地としても有名であったので、毎年多くの人が訪れるのである。

 ネネは十時きっちりに来た。高級そうな黒い馬車に乗ってヘイドの目の前に現れた。確かに、このアソの村は貴族も多く訪れるため馬車も少なくはなかった。やはり経済貴族などだとヘイドは確信した。馬車の中から、ネネは降りてきた。エスコートしているのはどうやら執事らしい。その執事はがたいがよく、眼鏡をかけており、白髪であった。しかし、歳をとっているようにはあまり見えず、威圧感がすごい人だなとヘイドは思った。

「お嬢様、こちらへ。」

「はいはい。」

ネネは冷めた声で言った。ヘイドはネネに向かって歩いて行った。

「こちらの方ですか?」

「そうよ。」

その執事はかしこまった。

「私、お嬢様の執事をしております、チャコ・コンポステラと申します。先日はお嬢様がお世話になりました。」

「私はヘイド・ケンブルクと申します。」

ヘイドは挨拶をした。

「では、チャコ、三時に迎えに来てね。」

「はい、かしこまりました。では、ごゆっくり。」

「お嬢様には変なことをなさらないようになさってください。」

チャコはヘイドに耳打ちをした。ヘイドは一瞬止まった。チャコはそれを言い残して、馬車に入っていってしまった。

「さあ、行きましょう。」

 ネネは振り返った。

「うん。」


彼らは、午前中は普通にアソ観光を楽しんだ。ヘイドは毎年来ているもののまともに観光したことがなかったので、よかった。二人は観光客のように温泉饅頭を食べ歩きしたり、景色を楽しんだりした。

「活気のある町ですね。」

ネネは感心しながら言った。

「そうだろう、温泉もあるし、景色もいいし、帝都から一日くらいで来れるしな。」

ヘイドは答えた。

「あれは何でしょう。」

ネネは温泉街の広場にいる旅芸人を指して言った。

「ああ、あの人たちは旅芸人だよ。各地を旅して芸を披露してお金を稼いでいるんだよ。毎年この時期にこの村に訪れるんだ。」

「ちょっと見て行ってもいいですか。私初めて見るので。」

ネネは目をキラキラさせながら、かけて行った。

 旅芸人は綱渡りや動物の芸などをしていた。その中でも一番客が集まっていた魔法を使って人形を動かす芸だった。


「へー、魔法か。」

ヘイドは言った。

「これくらい誰だってできそうなのに。」

ネネはぼそりとつぶやいた。

「魔法って誰でも使えるものじゃないでしょ。」

「そうなのですか、ああ、そうでしたね。」

「ネネは魔法使えるの?」

「まあ、人並みですけど。」

「すごいね。」


魔法が使える人は珍しい。ヘイドは使えなくもないが、大したこともできないので使えないことにしている。

「ヘイドは使えますよね?」

「え?使えないけど。」

「へ?だって十人衆の家にはそれぞれ代々伝わる魔法があるって聞きましたけど。」

「よく知ってるね。でも、僕は魔法の才能がないから。」

「魔法に才能なんて関係あるのかしら。」

彼女は小声で独り言を言った。そうして二人はその広場を去った。なんとか無事にデートを終わらせて、二人で駅に戻った。


「そういえば、明日帰るんだっけ?」

「はい、そうです。」

「じゃあ、見送っていいかな。」

「あ、はい、大丈夫ですよ。明日九時半発の列車なので。」

ここでヘイドは疑問に思った。この駅は長距離列車は00分にしか来ないからだ。

「各駅で行くの?」

「いいえ、終点までノンストップですけど。」

「ふーん、じゃあ見送りに来るね。」

そして二人は別れた。


 次の日、ヘイドは駅に九時十分に着いた。まだネネは来ていないようだ。また、ネネに会えると心を躍らせるとともにもう会えないのかという悲しさもあった。十分後に昨日の黒い馬車が到着した。ヘイドは馬車に駆け寄った。

「来てくれましたか。」

ネネは馬車を降りてそういった。もちろん、執事のチャコも一緒に。

「もちろん。」

二人は一緒に改札の中に入った。ちょうどその時、一番線に臨時列車が来ることを知らせるアナウンスが聞こえた。

「この列車はご乗車になれませんのでご注意ください。」

そう付け加えられた。

「これであってるの?」

「ええ、」


ホームに三両編成の黒い列車が到着した。車体のロゴには帝国鉄道のマークと天使の羽のマークが描かれていた。ヘイドは以前このような列車をどこかで見たことがあるような気がした。列車はネネの目の前に停車してドアが開いた。

「短い間だったけど、いろいろありがとう。楽しかったわ。」

彼女はそう言って乗り込もうとした。その手をヘイドが優しくつかんだ。彼女の肌はなめらかでやわらかかった。そして、温かかった。この時二人は初めてお互いの体に触れた。

「待って。餞別があるから。」

ネネは乗るのをやめた。

「何かしら。」

ヘイドはポケットの中から、桃色のネリネが付いたヘアピンを取り出した。

「ちょっと待ってね、今つけるから。」

ヘイドは優しくネネの髪にヘアピンを付けた。

「ありがとうございます。」

「似合ってるよ。」

ヘイドは嬉しくなった。

「では、そろそろ列車が出てしまうので、さようなら。」

「うん、さようなら、元気で。」

「ヘイドも元気で。」


そして、彼女と執事が入ってから間もなくドアが閉まった。ヘイドは列車が見えなくなるまで手を振り続けた。そして、気が付けば泣いていた。ヘイドは小さいころからあまり泣く子ではなかった。我慢を知っていた。しかし、油断をしたのだろうか。泣いてしまったのだった。それくらい、別れはつらいものだった。

「出会いがあれば、別れがあるか。」

なんとなくつぶやいた。

 そのころ、列車の中ではネネも少し寂しくなっていた。

「お嬢様、どうしてケンブルク家のものとあのようなことをなさったのですか?」

「気分転換よ、どうせもう一生会うことはないのだから。」

彼女は少し悲しそうな顔をした。


「そうですか。」

「もしかしたら、戦場で会うことになるかもね。」

「いや、それはないでしょう。戦争をなさるにしてもお嬢様は安全なところで指揮を執っていただきますし、向こうもそうでしょう。」

「現実的なことを言うのね、私はただ昔あった男女が戦場で敵同士として戦うのがなんというかロマンティックで切ないかななんて思っただけよ。」

「お嬢様も少しお変わりになりましたね。」

チャコはそう言った。

「ネリネの花とはまたヘイドはロマンチストね。」

ネネは小声で独り言を言った。

「何かおっしゃいましたか?」

「いや。」

 ネネを乗せた列車はガタンゴトンと走っていく。そして、トンネルに入っていった。自分の姿が反射して見える。自分で思うのもなんだけど、似合ってるじゃないと思った。

 ちなみに、ネリネの花言葉は「また逢う日を楽しみに」である。


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