表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
100/129

1-94.期末考査3



「どうですか、勉強は捗っていますか?」

 ネネが少し空いたドアの隙間からひょこりと顔を出した。

「ネネ様!」

 スミレが嬉しそうに席から飛び上がって、ネネに抱き着く。

「よしよし、元気そうですね。」

 えへへとスミレが言う。なんだか、飼い主の帰りを待ちわびていた犬のようですね。


 ネネが部屋に入った時、大きなテーブルをカイ、スミレ、サヤカ、ケリンの四人が囲み勉強していた。

「おお、班長じゃねーか。どこ行ってたんだ?」

「ちょっとミスミまで。」

「・・・」

「何で黙ってるんですか?」

「いや、やけに班長が素直だから雨でも降るんじゃねーかって思ってよ。」

「何言ってるんですか、カイ?殺されたいんですか?」

「やっと、いつもの調子に戻ってきたぜ。」

 なんだかカイは少し楽しそうだった。

「しかし、雨は降りそうですよ。」

「ほんとだ。」

 ケリンは暗くなっている窓の外を見てそう言った。


「そんなことより、ネネ。勉強しなくても頭がよくなる魔法あるか?俺はもう限界だ。」

「サヤカ、何を言ってるんですか?」

 ネネは困惑していた。サヤカってこんなこと言う人でしたっけ?サヤカの顔を見ると目の下にくまができていた。

「いやー、最近勉強のし過ぎで頭がおかしくなってる気がすんだけどよ。」

「それたぶん寝不足ですよ。」

「・・・ああ、そうかもな。ちょっくら寝てくるわ。」

 サヤカはそう言って寝室に行ってしまった。

「サヤカ、ずるい・・・」

「スミレ、いつまでくっついているんですか?」

「えへへ、いつまでも。」

「いい加減にしてください。」

「はーい。」

 スミレはべっとりと抱き着くのをやめて席に戻った。


「あれ、お帰りネネちゃん。もうすぐおやつ出来るからね。」

 キッチンにいたイオがひと段落ついたのか顔を出した。

「何を作っているのですか?」

「クッキーだよ。」


 少しすると台所から香ばしい匂いが漂ってきた。ネネはリビングのソファでお茶を自分でいれて飲んでいた。

「はいはーい、皆さんちゅうもーく。クッキーが焼けましたよ。」

 イオはクッキーを山盛りにしたお皿を四人が勉強しているテーブルに置く。

「ほら、ネネちゃんの分も。」

 彼女はネネの座っているソファにわざわざ小分けにしてクッキーを持ってきてくれた。

「ありがとうございます。そう言えば、ヘイドとマコトはどこにいるのですか?」

「あー、二人はたぶん闘技場かな。今からクッキーを持っていく予定だったけど・・・」

 イオは少し考えている様子だった。

「イオはさー、夕飯の支度するのが忙しいからネネちゃんが持って行ってよ。」

 彼女は二つの袋をネネに渡す。

「わかりました。」


 ネネは傘を差して外に出た。弱い雨がぽつりぽつりと降っていた。ネネは水たまりを避けながら闘技場へと続く道を行く。

 ネネが闘技場の観客席へと入っていくと、闘技場の真ん中に魔法で戦っている二つの人影があった。そして、観客席に使い魔が見えたのでそこへ歩いて行く。闘技場は楕円形になっており、真ん中に用途に応じて魔法で切り替えることができるようになっていた。今は芝生となっていた。もちろん、屋外なので雨が降っている。しかし、観客席には屋根があった。二人はぽつぽつと雨が降る中で二人は模擬戦をしていた。

「何をしに来たんですか?」

 ディアがネネに対して少し敵意を見せながらそう聞く。

「ちょっとお届け物を。」

「でぃあー。」

 ネネについて来ていた、フタバがディアに抱き着く。どうやら二人は仲が良いようだ。まあ、特殊な使い魔同士ですしね。何か通じることがあるのでしょう。


「甘い。」

 マコトはそう言って氷魔法を放つ。それはヘイドに直撃するも結界のおかげでダメージは少しのようだ。

「・・・」

 ヘイドは自分でも痛感しているのか黙って試合を続けている。

 マコトは氷刃を連発する。しかし、ヘイドにすべてぎりぎりでかわされる。そして、ヘイドは反撃しようとしたその瞬間、ヘイドはマコトの姿を確認することができなかった。

「どこだ?」

「上だ。」

 上から声が聞こえた時にはもうすべてが遅かった。そして、マコトは弱い魔法をヘイドに撃ち込んだ。ヘイドは不意を突かれて尻餅をついてしまう。

「よっと。」

 マコトは綺麗に着地した。

「参りました。」

「実技は相変わらずだな。魔法に迷いがありすぎる。経験の問題も大きいようだが・・・」

 マコトは的確なアドバイスをした。その雨でぬれた姿は少し新鮮でかっこよかった。

「うん・・・」

 ヘイドは落ち込んでいた。

「そんな無様を晒してていいのか?お前の大好きなお姫様が返ってきたみたいだぞ。」

「へ?」

 そして、ヘイドは振り返って観客席を見ると彼女はいた。ヘイドは慌てて立ち上がった。

「もう先に言ってよ、マコト。」

「ネネはそんなことで幻滅するような器の小さい人間ではないはずだ。」

「そう言うことじゃなくて、ダサいというかなんというか。」

「ほら行くぞ。」

 二人は観客席に座っているネネの方へと向かった。



「二人ともびしょ濡れですね。」

 それに少し汗臭い気がします。

 ネネは水魔法で二人を服の上から洗い流し、そのあと風魔法で乾かした。

「ありがとう、ネネ。」

「どういたしまして。」

「それで、ネネは何で来たの?」

 マコトは聞いた。

「そう言えば、クッキーを間食として届けるようにと言われまして。」

 ネネは懐からクッキーの袋を差し出して二人に渡した。

「美味しかったですよ。」

 マコトはそのまま袋を開けてハート形のクッキーを食べた。

「うん、うまい。」

 ヘイドも同じく食べていた。


「じゃあ、僕は一足先に帰ってるよ。」

 マコトは頑張れと口パクでヘイドに伝えて闘技場を後にした。


 そして、急に闘技場は静かになった。

「ネネ?」

 ヘイドは恐る恐るしゃべりだす。

「何ですか?」

「ネネは俺のこと嫌い?」

 ヘイドは覚悟を決めていた。恐らく自分はネネに嫌われているだろう。もう、それで気持ちに整理を付けよう。

「何を言ってるんですか?私がヘイドを嫌いになることなんて天地がひっくり返ってもありませんよ。」

 返ってきた答えはヘイドにとっては思いがけないものだった。

「へ?」

「ほら、行きますよ。雨も上がってようですし。」

 ヘイドは考える暇も与えられなかった。ネネはヘイドの手を握り、競技場を後にした。太陽が雲の間から顔を出して、その反対側には虹がかかっていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ