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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
10/129

1-9.エレ・アンジェラ9

 翌日は座学が少なめで、やっと魔法の実習をするようになった。

「まずは、基礎の魔力コントロール要するに外部に放出する魔素を調整する練習をします。普段、私たちは魔力を微量ながら外に放出しているの。今度やる探知魔法で人や魔物が出している魔力を探知できるようになるけど。

魔力を調節できるようになったら、使える魔法も増えるし、威力も上がるし。とりあえず最初は魔力コントロールから。まずは全身の魔素を感じる。これは感覚の問題だから何とも言えないけど。じゃあ、やってみて。」

 

私はまずは目をつむった。そして、体で感じようとした。

かすかに心臓の音が聞こえてくる。そして、私は妙な感覚に襲われた。何かが私の体に存在するような感覚だ。それをよくよく感じ取ってみるとそれは体中に充満している。そして、なにやら循環しているようである。一種の流れを構成しているみたいだ。

「もし、感じられたなら。それの外へ流れ出るのを止めてみて。」

お母様は優しく言った。

 具体的な方法はわからなかったが、私は外に流れ出る魔力を感じようとした。そして、下半身からなにやら出ていっているのを感じた。そして、それに蓋をするようにその流れを止めて体の循環の中に取り入れてみた。

「そう、できてるよ。」

「本当?」

「うん、魔力が外に流れるのを止められてるよ。」


どうやら私は魔力を感じられたらしい。何か不思議なものを体の中に宿しているような変な感じがしたが、一種の魔法を使えてうれしかった。

「じゃあ、その魔力を使って全身に膜を張ってみて。」

「うん。」

 私は再度全身の魔素に意識を集中させた。そして、少しずつ魔力を外部に放出するような感じで膜を張ってみた。膜は所々切れてしまってなかなかうまくいかない。そして、私が練習に疲れてしまったので、その日はそれで終わりとなってしまった。

 

お母様はその日の夜はアンジェラ家について話してくれた。私が食事中にいろいろ聞いたからだ。

「魔王は死ぬ前、帝国十人衆を作り、それで国の政治を執り行わせました。しかし、魔王の家である、ヒエダ家は跡継ぎがおらず途絶えてしまいます。そして、当時二番目に強かった、アタランタ家が宰相となり、代わりに国を治めていくことになります。

ちなみに今もそうです。アンジェラ家は魔王と一番近かったため、アタランタ家に目を付けられ、政治への介入が難しくなり、最後には存在しなくなった空軍と経済大臣の地位しかなくなってしまいました。


そこで、エレ一世は戦争中に得た資金を元手にアンジェラ財閥という大きな財閥を作り、世界経済を回すまでになります。銀行、印刷、鉄道、貿易など多くの分野にかかわり、今でも世界一の財閥です。しかし、経済的に有利な立場となってしまい、アタランタ家に警戒されついに十人衆の席以外の地位は亡くなってしまったのです。そして、ネネはアンジェラ家の二十二代目なの。

 十貴族には他にも、勇者の末裔であるムカイ家、代々参謀総長、連合軍指揮官を務めるケンブルク家、研究大臣のコロイド家、陸軍のトレニア家、内大臣のハナニラ家、最高裁判所長官のネクローシス家、生命大臣のテロメア家があるよ。いずれ会うことになると思うけどね。」

お母様にお休みと言われ、私は寝たのだった。


 私は昨日お母様にしてもらった話について考えていた。なぜ貴族たるお母様がこんな森の中でひっそりと暮らしているのだろう。ずっと森の中で暮らしている私だが、町それより大きい都市というものが存在し、多くの人間や魔族はそこに暮らしているのだと。当然貴族もそのようなところに住んでいるのが一般的だと書物には書かれている。


なぜ、森の中というのが私にはわからなかった。


 そして、一年が経ち、私は七歳になった。料理や魔法の特訓を頑張って続け、料理では夕食をちゃんと作れるようになった。

「もう、ネネは私がいなくなってもちゃんと料理ができるわね。」

「そんな不吉なこと言わないでよ。」

 その時、お母様がなぜそのようなことを言ったのか、私にわかる由もなかった。

 

魔法に関しては魔力コントロール量が増え、使える魔法も増えたが、まだ物理や化学の知識が足りないため完全に使える魔法は少ない。しかし、相手の魔力を感じ取ったりすることはできるようになった。お母様は魔法はまだまだね、と言われたが魔法の勉強が何よりも楽しいため頑張って使えるようになろうと思っている。


 今日はお母様と町に行く日だ。夏だったので気温が高く、じめじめしていたが、森の中を歩いていると木陰になって少し涼しく感じられる。森の中を歩くこと五時間、やっと町に到着した。

私は長時間歩くのに慣れており、全然疲れなかったが、途中暇になったのでお母様と一緒にしりとりをしながら森の中を歩いていた。最後の一時間は石畳の街道に出た。街道は町と町をつないでいるらしいが、人通りは少なかった。

「ヒトヨシは山の中にあるし、鉄道が通っているから、大体の人は馬車じゃなくて鉄道を使うの。」

「馬車と鉄道というのはどんなものですか?」

「町に行ってからのお楽しみよ。」


しかし、町までの道中で一台馬車とすれ違い、お母様があれが馬車よと教えてくれたのだった。書物に出てくる馬車は大体荷台に屋根がついており、扉を開けて乗り降りするが、その馬車は屋根がなくただ荷台が木の箱になっているものであったので、想像と違い驚いた。お母様が言うには庶民は皆あのような馬車を使うらしい。書物に書かれているのは貴族の馬車だそうだ。

 町に近づくと小さな住宅が増えて、人もちらほら見られた。そして、それより奥に行くと、道が枝分かれし、大きな建物が増えていった。私の家は二階建てだったので、三階建て以上の建物を見て私は大きいなと感じた。

お母様と私はまず町のど真ん中にあるヒトヨシ中央駅に向かった。駅前はとても賑やかで多くの馬車や人が行きかっていた。私はお母様とはぐれないようにしっかりとお母様の手を握った。

「ヒトヨシは交通の要衝で列車の発着数はノイン大陸で七番目に多いの。だからヒトヨシ中央駅は大きいのよ。ちなみに全世界の帝国鉄道と呼ばれている鉄道はすべてアンジェラ家が持っているのよ。」

私とお母様は駅の中に入った。

 

駅の中は開放的な空間であった。天井が高く、ずっと顔を上げていると首が痛くなってしまいそうだった。広場のようになっているところでは長椅子が並べられており、座っている人も多い。私は本で読んだ限りだと、駅に入ればすぐに列車に乗れるものだと思っていた。

「お母様、列車はどこにあるのですか?」

私はそう不思議そうに聞いた。

「列車はこの下を走っているよ。あそこが自動改札でそこから下に行く階段がいっぱいあるでしょ。」


お母様は駅の奥のほうを指してそういった。確かに大きな広場の奥に何やら柵みたいなものがあって人が出入りしていた。そして、その向こうに無数の階段が存在した。自動改札と呼ばれた柵の向こうにはなにやらお店があった。もちろん、改札の外にも店は存在した。私はお母様に連れられて、階段を降り、人が多く座っている広場にやってきた。お母様曰くここは待合室というらしい。部屋の割には大きすぎると私は思った。そして、その周りには多くの小さな店が立ち並んでいた。

食料やお弁当を売っている店から、服、鞄が売っている店、そしてなんと小さな書店まであったのだ。私が目移りして歩いているペースに合わせてお母様をいろいろ見ていた。そして、自動改札の前にたどり着いた。自動改札というものは私にとってとても興味深いものであった。なぜなら、人が何等かの操作をすると勝手にゲートが開いて人を通すのだ。私はどういう仕組みなのかが知りたくなった。しかし、お母様は私の手を引っ張って、係員のいる改札に行ってしまった。そして、お母様は係員に話しかけた。


「私はエレ・アンジェラなのですが、改札を通していただけますか?」

お母様が名前を言った途端に椅子に座って、猫背でいた駅員の態度が豹変した。彼は椅子から立ち上がり、背筋をピンと伸ばして、

「エレ様、今日はどちらまで、どのような御用でしょうか?もしお時間があれば駅長をお呼びしますが。」

「いいえ、それには及ばないわ、今日は娘に駅を見せに来ただけなの。」

駅員は一瞬戸惑ったが、取り直した。

「作用でございますか。では、私が案内いたしましょうか?」

「ええ、そうしてくれると嬉しいわ。」

 そういうことで、駅員が駅の中を案内してくれることになった。ヒトヨシ中央駅のホームは半地下になっていた。北側は、ガラス張りのドームのようになっていて、きれいだった。それに対して、駅の広場の下にある南側は暗かったが、明かりはともっていた。ホームは七面、十四番線あり、端から端まで見るのが大変だった。一番電車の発着数の多いホームでは人がごった返しており、五分に一回は電車が来ているようだった。私は駅員が自慢げに説明する中、列車をのんびりとみていた。

「十一から十四番線は高速鉄道が発着するホームです。世界の中心であるダザイフにも一本で行けますよ。」

駅員はそう説明していた。そして、駅の案内が大体終わると、私たちは駅長室とコントロールルームへと案内された。お母様は駅長に忙しい合間を縫ってあってもらうのは心苦しいと駅員に言ったが、説得した甲斐もなく、駅長室に案内されたのだった。


 部屋に入ると駅長らしき人物が窓のほうを向いて立っていた。

「駅長、エレ様をお連れしました。」

「ご苦労。」

その駅員は出ていった。

「エレ様、ヒトヨシ中央駅にようこそおいでなさいました。」

駅長は深々と礼をした。

「そう固くなるな、ベーメン。久しぶりだな。」

「立ち話も何なので、お掛け下さい。」

駅長はソファへ座るように促した。私とお母様は座った。その後、駅長も腰を下ろした。

「そちらのお嬢様は?」

駅長が私のほうを見た。

「こちらは私の娘のネネだ。ずっと森で暮らしてたので町は初めてだがな。」

「そうなのですか。ネネ様は何歳ですか?」


お母様が言った通り私は生まれてから森でずっと暮らしてきたため、お母様以外の人間に会うのも今日が初めてだったし、話しかけられるのも初めてだった。お母様以外の人間に話しかけられるのは不思議な感じがして、同時に緊張もした。私は勇気を出して、答えた。

「は、八歳です。」

私は唇を少し開けてもごもごと小さい声で言った。しかし、ちゃんと伝わったらしい。

「八歳なんだね。」

「して、ベーメン何用で私を駅長室に呼んだ?私は八年前から代表取締役をチャコ・コンポステラに代理として取り仕切ってもらっているはずだが。」

「いえいえ、帝国鉄道の運営には支障がございませんし、アンジェラ財閥の会社の運営は順調でございます。わたくしが気になったのはなぜエレ様が隠居のようなものをなされたのか、ということでございます。八年前は正直だいぶ騒ぎになりましたからね。」

「それは、今おぬしも理解したのではないか。」

「まさしくその通りではございますが。お嬢様のためですね。」

「そうだ。まあ、近しいものにしか言っていなかったので気になるのも無理はないか。」

「つまらないようでお呼びしてしまい、すみませんでした。」

「まあ、よい。何よりおぬしに会えたのも嬉しいのでな。」

「そう言ってもらえると気が楽です。」


 駅を散策した後は、町の中をぶらぶらすることにした。食事もまだであったので、まずはレストランに入ることになった。お母様と私は駅の近くの豪華な建物に入った。その建物は三階建てで、中には赤い絨毯が敷かれ、シャンデリアの明かりがきらびやかに輝いていた。入るとまず、受付があった。お母様はそこにいた女性に話しかけた。

「予約はしていないのだが、個室で頂きたいのだが、空いてはいるか?」

「少々お待ちください。支配人に問い合わせますので。ちなみにお名前は?」

「エレ・アンジェラだ。」

ここの女性も駅員と同じような反応をした。彼女は一瞬取り乱したが、

「身分証などはお持ちでしょうか?」

「帝国鉄道の旅券ならあるが。」

お母様はそう言って財布の中から黒いカードを取り出した。女性はまたもや驚きの顔を一瞬だけ見せた。

「失礼します。」

彼女はそれを受け取り、機械に入れて、表示されたものを見た。

「ありがとうございます。ただいま、部屋をご用意させていただきます。」

彼女はそう言って席を離れた。お母様は私が掛けていた椅子に座った。

「さっきのカードは何?」

「あれはね、アンジェラ財閥などで使えるお金を払うためのカードよ。あのカードを使えば、食事の支払いや列車に乗ることだってできる優れものよ。まあ、銀行の口座に振り込んでおかないと使えないけどね。」


当時の私はまだ社会というもの自体に慣れておらず、お母様の言っていることが一ミリもわからなかった。私はあっけらかんとした顔をしていたらしい。

「まあ、そのうちわかるようになるわ。」

 お母様は私を安心させるように言った。

しばらくすると、さっきの女性ともう一人、ダンディーなおじさんが私たちの前に来た。彼はスーツに黒いネクタイをつけてびしっと決めていた。

「こちらは当レストランの支配人でございます。」

「ご紹介にあずかりました、ここの支配人のクレルモンでございます。本日はご来店誠にありがとうございます。エレ様がいらっしゃるとは夢にも思わず、特別な用意はできておりませんが、個室で当店の料理を召し上がっていただければ幸いです。」

彼は支配人らしく丁寧に挨拶をした。

「突然来てしまって申し訳ない。」

「では、お部屋にご案内いたします。」


 私たちは個室に案内された。そして、メニューを渡された。メニューには、

「シェフのおすすめコース

料理長のおすすめコース

支配人のおすすめコース」

と書いてあった。正直よくわからないので、お母様に聞いた。

「お母様、区別がつきません。」

「そうでしょうね、まあ、どれ食べてもおいしいので好きなのにしなさい。ネネは好き嫌いしないし。」


 結局私はいい人そうな支配人を信じて支配人のおすすめコースを頼むことにした。お母様は料理長のおすすめコースを頼んだ。頼んでから五分くらいで前菜とパンが運ばれてきた。私は食事の仕方は知っていたが、テーブルマナーを知らずにいたので、一からお母様に教えてもらうこととなった。私は正直、料理はおいしく食べられればいいだろうと思っていたが、テーブルマナーは重要らしい。

「社会に出たら、必要なことよ。」

お母様は少し不貞腐れている私にそう言った。果たして私はいつ社会に出ていくのだろうと思いつつ、私は前菜を食べたのだった。

 豪華な店だけあって、料理はとてもおいしかった。お母様もたまに品数を増やして料理することもあるが、それでも精々六品だ。しかし、ここでは小さいものも含めて十以上提供されている。少量でいろいろなものを味わえるという私にとっては初めての経験であった。作るの大変そうだなと思ったが、貴族の館ではこれくらい普通なことらしい。


 昼ご飯を漸く食べ終わり、私とお母様は再び町へ繰りだしていった。お母様は社会勉強のために私をいろいろな場所へ連れて行った。町には多くの店があり、一つ一つ興味深かった。しかし、一番興味深かったのはお金である。町に行く前、お母様にお金の使い方や意義を教えてもらったが、実際に使われているのを見ると不思議な感じだ。価値のなさそうな紙幣と、品物を交換してくれるのだ。貨幣は少しばかり価値がありそうだが。それにしてもみんなが同じ価値だと定めたものを仲介として、欲しいものや労働の対価としてお金を受け取るのは便利だし、これを考えた人は天才だな、と思った。ちなみに考えた人はお母様ですら知らないらしい。昔からあるものだそうだ。


「最近服買ってなかったわね。」

お母様はそう言ってブティックに入っていた。その店の中には、まあ、服しかなかった。

「ほら、ネネ、こっち来なさい。」

お母様は私を子供用の服が置いてあるところに招いた。

「これは似合うかしら。」

お母様は服を眺めながらああでもないこうでもないといろいろ言いながら、私の服を選んでいた。

「どれでもいいんじゃない?」

私は正直、服などには興味が全くなかった。ただ、着れればいいと思っていた。

「それはダメなの、女の子はちゃんとおしゃれしないとモテないの。」

当時の私はお母様が言っていることがよくわからなかった。私は社会生活を送るうえで大事なことを知らなかった。いや、知らされていなかった。ずっと、必要のないところで生きて来たのだから。そしてこれからも必要がないと思っていたから。今はわかる、社会で生きていくのに服、身だしなみは大切だ。特に女性は。きちんとした格好をしていないとのけ者にされたり、相手にされなかったりする。

「ふーん。」

私は軽く答えた。真意を理解せずに。

「やっぱりこれね。」


お母様は町では流行っているらしい。青色の綺麗なワンピースを買ってくれた。私は、これはすぐに破れちゃうかなと思った。私は森で遊ぶので枝や木に引っ掛かりそうだったのだ。私はそのことを飲み込んだ。

「ありがとう。」

「とても似合ってるわよ。」

お母様は私を褒めてくれた。そして、私たちは途中まで馬車を使い、そっからは歩いて、家に帰った。四時間くらいかかったが、夏は日が長いので黄昏時には家に帰れた。


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