プローグ
ある寒い雪が降る夜、二人は戸口の前で話をしていた。
「エレ・・・この子をよろしく頼む。この子を普通の少女として育ててくれ。」
「メイドとしての役割ですか?」
「そうだ。これが最後の仕事だ。僕は殺される。運が良くても永遠に封印されてしまう。」
「もしかして・・・」
「ああ、シモエは僕を裏切るつもりだ。」
「行かないでください、私は・・・」
エレと呼ばれていた女性はきれいな緑色の瞳を持っていた。そして、その瞳が徐々に潤って家から漏れ出る光を反射させ、一層美しく見える。
「そう泣くな、僕だって死ぬのは怖いさ、でもこれも歴史の流れで、僕の運命なんだよ。」その人は笑った。エレは知っていた。その笑顔にはどこか悲しいところがあった。
「僕が安心して死ねるのはエレが僕の娘を育ててくれるからさ。」
「私にはこんな大役務まりません・・・」
「僕に頼れるのは君しかいないんだ。この子を帝国から守れるのは君だけだ。僕が死んだら、シモエがこの世で最強になる。その脅威からこの子を守れるのは君だけだ。僕の最後のお願いを聞いてはくれないか?」
しばらくエレは黙っていた。エレの口からは白い吐息が出た。
「わかりました、してこの子の名は?」
「名はネネだ。名字は君のものを与えてくれ。」
「では、ネネ・アンジェラですね。」
「ネネ・アンジェラ、どうか幸せに生きておくれ。」
その人は最後にその赤子を抱えた。そして額に接吻をして、どこかへ飛んでいってしまった。
エレはその赤子を守るようにして抱いて、舞い落ちてくる雪を見た。そして、もの惜しそうにして扉を閉めた。