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心の旅(仮)  作者: 小田雄二
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なぜ! 私が負けたのだ!


 第一章


 ヒロシはアドルフ・ヒトラー総統を前にして、戦争に負けてピストル自殺をすると告げ、だから戦争をしないで下さい。と頭を下げてお願いした。

 それは、この場にいる世界史など真面目に勉強したことのない日本人の少年少女たちの総意であった。戦争をしては駄目。みんな仲よくしようという教育は、子供の頃から十分に行き届いていて、事あるごとにそれを声に出してきたものだ。

 そんなことをすれば、歴史が変ってしまうだの、そんなことはどうでも良かった。こんな機会はもう二度とないだろう。それだけに彼らに対しては未来人としては言わずにいられなかった。

 今ここで彼の戦意を無くすことができれば、第二次世界大戦は起こらない、かもしれない。それで悲惨な戦いが起こらず、双方何千万と亡くなった人々がそれぞれに生きて楽しく暮らしていけたら、それでいいじゃないか。それに目の前に座っているヒトラーさんに自殺して欲しくなかった。というどこまでも無邪気な発想は、ヒトラー総統と側近たちに、全く次元の違うメッセージとして重く響いた。


 「何という無礼なことを言うのだ君は、ナチスドイツでそんなことを言えば誰であれ銃殺刑だぞ! 」マルティン・ボルマンは怒りに震えながら脅した。

 「やめろボルマン! 」総統は右手を出して彼を制した。

 「ここは第三帝国ではないし、彼らは日本人だ。それに私はヒロシに身の安全を約束したのだ。我々は我々の未来を知る未来人の言葉として、重く受け止めねばならない…… 」

 「失礼をいたしました。しかし」

 「私は受けとめよと言った」

 「はっ! 」

 総統はボルマンを制したものの、その顔は沈痛なものだった。月の光は優しく全てを蒼白く照らしている。そのため総統や側近たちの顔は物凄く不気味に見えた。

 「……ヒロシ君。中々に衝撃的な証言だったよ。我々がそれを信じることが出来る証拠はそのスマッホにあるのかね? 」

 「はい。検索してみます」これはアツシが手慣れた様子でスマホを操作して、ナチス 負けた 証拠 で検索したら、瞬時にして沢山の情報が集まった。その中から一つを選んで、総統に見せた。

 「ほう、これは我が第三帝国のスワスチカではないか。白黒なのか」

 「はい、これは1945年の記録映像です。御存知でしょうが、ツェッペリン広場にあるハーケンクロイツの大きなモニュメントです」

 「そんなことは知っているよ。一体何故私にこんなものを見せるのかね? 」

 総統は事も無げに言ったその直後、顔が絶望に歪んだ。映像は、広大なナチ党党大会会場にあるツェッペリン広場で、巨大なコンクリートでできたメイン演壇があり、その上に大きな鍵十字ハーケンクロイツのモニュメントがアップで映し出されていた。

 総統たちからすれば、それは見慣れたもので自分達の権勢を象徴するものであった。しかしそれが木っ端微塵に爆破されたのだ。ドカーンいう轟音と共に、一瞬にしてものの見事に、跡形もなく吹き飛んでしまったのである。破片が飛び散る様子まではっきりと見てとれた。

 自分達の誇りが、象徴が、この様に消え失せる光景を見せつけられるという残酷な仕打ちに、総統らはそれを食い入るように見つめ、何度も再生して見た。

 軍や親衛隊がいたら、この様な破壊工作を許すはずがない。何としても阻止したはずだ。しかしそれが出来なかったということは……。我がナチスドイツが敗北したのだ。と理解せずにはいられないという強烈な証拠映像といえる。

 総統と側近たちは、怒りと屈辱に震えて涙さえ流した。ヒロシ達は大人がこれ程真剣に嘆き悲しんでいるところを見たことがなかった。かける言葉も無く、その光景を見つめることしかできなかった。


 ヒトラー総統は、ちょっと失礼するとことわって立上がると、トラックの裏側へ言った。心配する側近たち、勿論日本の若者達も目でその姿を追った。

 やがて彼の絶叫が夜空に響いた。

「なぜ! この私が負けたのだ! 」

 スマホの翻訳は、感情的な抑揚を無視して、その意味だけを日本人に伝えるので、彼の叫びの本当の感情はわからなかった。しかしそれを聞いた側近たちのそれぞれの様子を見ると、震え慄きたじろいていた。本当に気の毒な光景だった。

 やがて総統はボルマンを呼びつけると、ボルマンは訓練された猟犬の様に駆け出した。

 「ねぇヒロシ、もう帰ろ。お母さんに叱られるの」

 キョウコが、これ以上いてもしょうがないと思ったのか、帰ろうと言い出した。

 「そうだね、もう夜も遅いし…… 」

 ヒロシは同意して何気なくスマホに目をやると、ナチスドイツ側の人々に負けない位の驚きの表情をした。

 「みんな、スマホの時刻見て、じ、時間が止まっているんだよ」

 「おいヒロシ、こんな時にふざけるなよ。時間が止まるてそんなことあるかい」

 アツシはヒロシが又ふざけていると思い、自分のスマホの時刻を見て、同じ表情になった。「ホンマや」と言ってみんなも確認するように促がした。それで他の者もスマホを見た。

 「あ、8時34分21秒。そんなはずないやろ。ええー! 21秒の秒が止まってんじゃん。それに今8時34分てありえん」

 一同はパニックになった。ヒロシは何気なく横を見ると、ナチスドイツ側の側近たちも輪になって何か話し合っていた。こちらの様子を窺う余裕はない様だ。

 「みんなのスマホの時計も同じ時刻で止まっているんだから、故障しているとは思えないな」アツシが言うと、みんな同意した。

 「時間が止まっちょうちゅうことは、俺らもう死んでるんじゃね? 」とコージが本気ともおふざけともつかない調子で言った。

 「バカ言うなよ。みんな脈をとって」ヒロシが言うとみんな自分の手首を触って脈があるか確認した。女子の二人はお互いの脈も確認した。

 「みんな脈あるね。じゃあ気分が悪い人」と確認しても、誰も問題なかった。

 「時間が止まっているとしても、みんな脈があって生きているのは不思議だけど、ヒトラーさんらが来てから既に不思議が始まっていると思うよ。だってスマホ正常に動いてるじゃん」アツシが言った。

 「ちょっとお母さんに電話してもええ? 」みんな是非是非と促したので、アユミが母親に電話すると繋がった。

 「……あ、もしもし? ウチ」

 「うん。どうしたん? 今どこにおるん? 」と彼女の母親が出た。当たり前に電話が繋がったことに一同は安心した。

 「今ドライブイン。ヒロシ君らと一緒」

 「ヒロシ君と一緒かね。それじゃあ安心じゃ。そんで何かね? 」

 「えっと、今何時? 」

 「ケータイ見りゃわかろう。今9時21分で、そろそろ帰って来なさいよ」

 「うん。わかった。じゃね」と電話を切った。

 「言うの忘れてたけど、ヒトラーさんのこととか時間が止まっていることとか話さんでくれて有難う」ヒロシが安堵したように言う。

 「ウチだってそれくらいわかるわ。そういうこと話したら、凄いややこしいことになるけぇね」アユミが少し笑顔で頭を左右に振りながら言った。

 「これからどうしようか? 」アツシは困り顔でみんなを見渡した。

 「理屈では考えられないことは二つだ。一つは突然ヒトラーさんが百年前からここにやって来たこと。もう一つは、ヒトラーさんの周辺では時間が止まり、この外では普通に時間が流れているということだね」ヒロシが頭を整理するように語ると、みんな真剣な様子で頷いた。何とも奇妙な話だ。

 「タイムスリップあるあるだったりして」アユミが悪戯っぽく笑った。

 「でもよ、このままヒトラーさんがここに居続けたら、ここの外は正常なんだから、日付が変わって、朝が来ても俺らの時間は止まったままか? 」

 「そうなるね。あああ、もう早く帰ってくれないかなぁ」ヒロシは呑気な思いを口にした。

 「それじゃあ、ヒトラーさんが帰ってくれたら、俺らの時間は元に戻るのかな? 」コージがみんなの顔を見回しながら言った。

 「わからないけど、元に戻るとしたら一気に戻るんだろうね」とヒロシは予想した。

 「とりあえず、アユミとキョウコは、帰った方が良いよ。みんな心配するからさ」

 「でも、そうしたらウチらみんなと時間がズレちゃうんじゃないの? なんか嫌じゃ」ここでキョウコが不安を述べた。

 「わかった。とにかくヒトラーさんには早く帰ってもらうようにするよ」

 「異議なし」日本側の5人の意見が一致したところでドイツ側の方を見ると、総統は既に席に戻っていてこちらを見ていた。ヒロシは目が合ってしまい、こちらに来いと言われた感じがして再びディレクターチェアに座った。総統はすっかり平静を取り戻していて、表情は柔らかいものになっていた。

 「ヒロシ君、先程は失礼した。それほど我々にとって破滅的な映像であったということを理解して欲しい」

 「いえいえ、そりゃあ誰でもショックだと思います。僕だって数年後に死んじゃうよって証拠見せられたらそうなると思います。

 それで、えーと、夜も遅くなったことですので、僕らはこの辺で帰りたいと思うのですが、宜しいですか」

 「……君達はまだ未成年だったね。君がしっかりしていて冷静だからそれを忘れていたよ。でもね、ヒロシ君、これは世界の問題なのだよ。是非ともあと少し教えてくれたまえ。

 私はこれから、疲弊した国をまとめて栄光の座に再び導かなくてはならない。先ずは政治基盤、それはできた。お次は経済の立て直し、そして軍事力の強化だ。

 私は総統として、君の意見は非常に有難いものだった。負けるとわかった戦争を誰がするものか」

 「それじゃあ、ヒトラーさんの時代に戻っても戦争をしないと決めたのですね。有難うございます」ヒロシはニコニコ顔で言った。他のみんなの顔も驚きと喜びが混じったものになった。総統は深く頷いた後に続けた。

 「再び戦争に打って出ることができたということは、経済と軍備政策は吉であったようだな。

 そしてだ。その戦争で負けたのなら、我々としてはその原因を教えて欲しいのだが、どうかな」

 「ちょっとヒトラーさん。僕らはまだ高校生ですよ。そんな難しいのわかるわけないじゃないですか。申し訳ないですが、できません」

 「……そうだな。では、そのスマッホにでも尋ねてみてくれないか? 

 ボルマン、あれを全部ヒロシ君に差し上げるのだ」

 ボルマンは直立不動のまま懐からゴールドが入った皮の袋ごとヒロシに差し出した。

 「ちょっとヒトラーさん。これはいただけません。僕らはそんなつもりじゃないんです」ヒロシはゴールドが欲しくて駆け引きのために帰ると言っているのでは無いことを伝えた。

 「ヒロシ君。これは私の気持ちだ。貴重な情報提供者に礼を渡すのは当然のことなのだよ。わかってくれ。ここは私を立てて、決して邪魔になるものではないから、受け取ってくれたまえ」

 どうにもこれ以上は断れる雰囲気ではなくなったので、ヒロシはその革袋を受け取った。大きさの割に重くて驚いた。これでヒロシは総統の望みに応える義務が生じた気がした。

 「ヒトラーさんが負けた原因ですか。アツシ、ちょっと検索してみてよ。僕のは翻訳で使えないから」ヒロシに依頼されて、アツシがスマホで検索すると、出るわ出るわでその数15万件以上。その中の最適解を選ぶのは容易ではないが、アツシはその中の一つを選び出した。

 「ヒロシ、これなんかいいと思うよ。AIでさ、名前が何と『ヘルガの部屋』だってさ」

 「ムード満点だね。お、しかもドイツ語対応じゃん。これで行こう。これで満足してもらって早く帰れるかも」

 二人が小声でスマホを見ながら何か言っている様子を総統をはじめとするドイツ側は冷静に見つめていた。

 「ヒトラーさん。これでどうでしょう。『ヘルガの部屋』です。これはAIといって、人間ではないですが、ヒトラーさんの質問に何でも応えてくれるはずです」と言って総統に見せた。総統はその小さな画面に見入った。黒地の中に身体の線がわかる黄色の薄いドレスを着た妖艶な女性が正面を見ていて、絶妙に目が合うように設計されていた。

 「良いだろう」

 「もしダメそうなら他にも沢山ありますから、それでは行きます」ヒロシはそれを起動した。すると重々しいスローなジャズ風のサックスが聞こえてきた。確かにムード満点だ。

 「こんばんは、ヘルガの部屋にようこそ。私はヘルガ、ナチスドイツの案内役よ。宜しくね」その声は中年の女性のような低いもので、もの憂げな調子だった。

 「ヒトラーさん。人間に話すように普通に話しかけて下さい」ヒロシは小声で言った。

 「そうなのか。人間ではないのだな。この時代では、人が機械にものを尋ねる時代なのか……。こんばんは、私はアドルフ・ヒトラーだ。宜しく」

 「あ~ら素敵なお声。そしてその風貌。その出で立ちは1933年当時のものね。貴方の様な方は沢山ここへ来るわ。でもその中でも貴方の完成度は完璧に近い」

 「彼女には私が見えるのかね? 」総統は隣のヒロシに小声で尋ねた。

 「ええ、画面の横に小型のカメラが付いていて、ヒトラーさんの画像は入っています」

 「それにしても、昔、2010年『帰ってきたヒトラー』という小説や映画が流行ったわね。貴方はその時の俳優、オリバー・マスッチと比べても格段に完成度が高いわ。通報レベルよ。でも安心して、ここはEUではなく日本、そんな野暮なことはしないわ」

 「ヒロシ君、EUとはなんだね? 」

 「えーと、確かヨーロッパ連合のことです。今のヨーロッパの国々は、経済的に連携していんです」

 「そうなのか。ではヘルガ嬢、私が戦争に負けた理由を知りたいのだが、是非教えてくれたまえ」

 「あら、貴方はそんなことも知らないの? おかしいわね」

 「何分なにぶん私は1933年からやって来たばかりなのだ。正直戦争など始めてもいない。それなのに負けて自殺と言われて混乱しているところなのだ」

 「1933年ですって? 貴方一体何月から来たの? 」

 「8月だ」

 「そう。そういう設定なのね。貴方は1933年1月30日にヒンデンブルク大統領から首相に任命されて連立内閣を成立させると、2月27日に帝国議会議事堂を放火させて、その罪を共産党、社会民主党に被せて大弾圧したわね。おまけにユダヤ人の弾圧にも着手した。

 3月5日には第三帝国として帝国議会自由選挙を行い、ナチ党が288議席(得票率43.9%)でDNVP(ドイツ国家人民党)らと絶対多数を獲得。

 3月9日共産党を非合法化して、ナチ党旗ハーケンクロイツを国旗にしたわね。そして3月23日、全権委任法を可決してナチ独裁体制を確立した後で、ここに来たというわけね」

 「凄い情報量だ。聞いているだけでも全然ついて行けない」アツシがぼんやりと口走った。しかし総統はそれを確認するように黙って聞いていた。それなの内容については特に反論することは無い様だ。もうスマホの機能に対して、一々驚く彼ではなくなっていた。

 「ほう、中々よく調べて簡潔にまとめておるな。気に入った。続けたまえ」

 「あら? 帝国議会議事堂放火については反論しないの? 大抵はそこで反論してよ? 」

 「もう過ぎたことだよ。あれは実によく燃えたものだった。ということは天はあれを許されたのだ。その許されたものは、歴史に刻まれるのが常なのだ。私は続けたまえと言ったが…… 」

 「ごめんなさい。ちょっとチクリとするのがヘルガなのよ。いいわ、先へ進みます」

 「すげぇ、AIが謝ったぜ。初めて見た」アツシがヒロシに小声で言った。ヒロシはアツシを手で静かに制した。

 「それから貴方は、アメリカからお金を借りて、経済の立て直しに着手し、600万人以上と云われた失業者に仕事を与えたわ。公共事業よ。代表的なのはその年の9月23日から、全国高速道路網ーアウトバーン建設ね。これは今でも活用されている偉業と言ってもいいわ。

 その工事は、あえて工作機械を使わず出来るだけ手作業で行い、1日でも長く雇う工夫をしながら、同年5月10日に設立したドイツ労働戦線(DAF)が、業者が賃金を中抜きするのを厳しく監視して、正しい賃金が労働者の手に渡るようにしたわね」

 「お褒めに預かり光栄だ。国民の自動車もお忘れなく」

 「そうね。フォルクスワーゲンね、それは今もあるわ。そして貴方がデッサンしてポルシェ博士が設計したビートルは、世界的にロングセラーになったのよ。

 貴方が正式に総統フューラーに就任するのは1934年8月2日のことよ。

 それからはヴェルサイユ条約はそっちのけで、兵器製造企業に新型の各種武器・弾薬、戦車、飛行機、軍艦、潜水艦などを大量に発注して、沢山の雇用を作った。そして、大勢の若者を兵士として雇って鍛え上げた。少年にはナチス教育を行うヒトラー・ユーゲントを創設するのよ。少女についてはドイツ女子同盟 (Bund Deutscher Mädel, 略称 BDM)を創設したわ。

 貴方は1929年の世界恐慌の惨禍から逸早く抜け出して、若者にはスポーツ・スクリーン・セックスの3Sを与え、労働者には確実な賃金を保証し、歓喜力行団(KdF)が格安でイタリア旅行を企画・提供したわね。

 それから子沢山政策として、ドイツ人同士の結婚に現在の価値で300万円程度を無利子で貸し出しして、子供を一人でその額の4分の1を免除し、二人目で2分の1、四人持てば全額を返済を免除したわ。結局応募が殺到して20万世帯で打ち切りになったけど、若い夫婦が増えて子供が増えて活気に満ちて、治安が劇的に良くなったの。

 1936年には、2月には冬季五輪、8月にはベルリン五輪を成功させたわ。貴方は5700万人の国民を救い、そればかりか目眩がしそうなくらいな人生の絶頂を与えて正しく国の英雄になったの。でも共産主義を非合法化してユダヤ人はしっかり迫害したわね」

 ヘルガの言葉を聞いた総統は、非常に満足気な笑みを湛えている。

 「そうか。私は第三帝国の栄光を取り戻し、国民を歓喜させたわけだ。私のこれからの未来に大きな自信につながったよ。ありがとう。

 だが、まだだ。そんなもの私の構想の半分も実現していない」

 総統は政治家として成功をおさめたことに満足しつつ、更に大きな構想があることを発した。

 「そうね貴方は大ドイツ主義の実現を国民に訴えて更に大きな支持を獲得しましたね。そして1938年3月13日、貴方はオーストリアを戦争せずに併合に成功したのよ」

 「……ヘルガ嬢。それは本当かね? 歴史的事実なのかね? とても信じられない」総統の横にいたマルティン・ボルマンが興奮気味言った。

 「ええ、本当よ。ところで貴方はマルティン・ボルマンのコスプレ? 良い出来だわ。

 1936年に貴方はイタリアと共にスペインに侵攻したわ。イタリアは先の戦争、今では第一次世界大戦と云われているけど、その時に戦勝国だったにもかかわらず、戦時には消極的だったと評価されて、領土も賠償金も殆ど無かったことを不満に思っていたのよ。それでイタリアの指導者ムッソリーニが、ナチスと共闘したの。

 当時スペインは、社会主義勢力と反社会主義勢力との間で内戦が起きていたから、ナチスとイタリアは反社会主義勢力を全面バックアップするという体で頭を突っ込んだの。結果反社会主義勢力が勝って新政権は当然ナチス・イタリアの言うことを聞くようになるの。このようにしてナチス・イタリアは自分達の陣営を広げていったのね。

 」

 

 

 


 























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