第41話 覚悟を決めて、いざ出陣です!
「さっ。これで準備万端ね! みんな気を付けて行ってらっしゃ~い!」
「はぁい、行ってきまー……って! ヴィンスさんも行くんですよねっ!?」
玄関先でヴィンスさんからぶりぶりとポーズ付きで見送られ、危うく流されそうになった。
全力で突っ込む私の隣で、旦那様も呆れたように眉根を寄せる。
ちなみに旦那様とヴィンスさんは、白を基調とした魔法士団の団服を着用している。普段の団服が紺色なので驚いたけれど、こちらは礼装用なのだそうだ。
いつもと違う姿が新鮮だし、旦那様の銀髪に白がよく似合っていて、さっきからついつい目線が行ってしまう。
今も思わず見惚れていると、ヴィンスさんが拗ねたように鼻を鳴らした。
「だぁって、アタシはシリルのオマケで招待されただけだもの。無表情・無感動・無口なこの男に代わり、愛嬌をふりまいて空気を軽くする要員としてね……」
でも今は、ミアという妻がいるじゃない!
ヴィンスさんは目元を赤くして、私に向かって手を差し伸べる。戸惑う私を励ますかのように、笑顔で大きく頷きかけた。
「――だから、アタシはもうお役御免。今日は留守番させてもらう事にするわ。……頼んだわよ、ミア。アンタになら、アタシの後を任せられる……っ」
「ヴィンスさん……!」
託された大役におののきながら、私はおずおずとヴィンスさんの手を握る。がっちりと固い握手を交わしていると、旦那様の手刀が炸裂してスパーンと切り離された。
旦那様は半眼でヴィンスさんを睨み据える。
「……お前は、単に王女の側仕えに会いたくないだけだろう」
「…………」
あ、なるほど。
納得すると同時に、私は思いっきり眉を吊り上げた。あさっての方向に目を逸らすヴィンスさんに食ってかかる。
「ヴィンスさんてば酷いです! エマさんは、ヴィンスさんの事を愛してるのにっ」
「えっ、何なに!? 誰がヴィンスを愛してるって!?」
「だから、王女様の側仕えさんがでしょ? ちゃんと会話の流れを読みなよ、姉さん」
「違う。側仕えはヴィンスを殺そうとしている」
……大変だ。
情報が大渋滞を起こしている。
エマさんと会った事のない二人に説明するのは難しいけれど、誤った情報が伝わるのはよろしくない。言うべき事を頭の中で整理して、私はジーンさんとリオ君に向き直る。
「エマさんとヴィンスさんはつい最近、運命的な再会を果たしたんです。エマさん、すっごく嬉しそうだったんですよ。愛と憎しみは似ているものだから、月のない闇夜に気を付けろって」
「うそうそ、純愛ってやつ!? 素敵素敵!」
「違うよ姉さん。痴情のもつれだよ」
「違う。闇討ち予告だ」
……伝わらないなー。
ていうかシリル様。さっきから、リオ君の発言をことごとく否定してません?
「……アンタ達。黙って聞いていれば……!」
それまで無言だったヴィンスさんが、握り締めたこぶしをぷるぷると震わせる。
「今日までアタシがどんな思いをしてきたと思う!? 夜遊びもせず職場と家を往復するだけの日々、そして背後からの足音に怯えるか弱いアタシ……!」
「旦那様、奥方様。馬車の支度が整っておりますが……」
困り顔のジルさんから声をかけられ、私達はとっとと馬車へと向かった。人数が多いから、今日は二台に分乗することになる。
「ヴィンス、はーやーくーっ。かつての恋人に会いに行こう!」
「ジーン、アンタ人の話聞いてた!?」
馬車からヒラヒラ手だけ出すジーンさんに噛みつきながら、ヴィンスさんも渋々馬車に乗り込んだ。
――こうして、ようやっと出発したのだった。
***
旦那様と二人きりの馬車の中、私は何度も深呼吸を繰り返す。
今日は初めて社交の場に出るのだ。
先日のラルフさんの一件のように、平民だからと侮られたり嫌がらせされたりするかもしれない。この間みたいに揺らがないよう、しっかり覚悟を決めておかないと。
「……大丈夫か」
ぼそりと問いかけられ、慌てて笑顔を作った。
いけない、いけない。旦那様に心配かけて、どうする私っ!
「はいっ、もちろん! なんといっても今日の私は氷の奥方様! 冷静と無表情を貫くのですっ。……あ、それともヴィンスさんの言う通り、愛想よくした方がいいかな?」
首をひねる私に、旦那様はふっと表情をやわらげる。
「……いや。どうせ俺達を見下すだけの連中だ。無視して受け流していれば良い」
「了解ですっ。……でも、パーティーは最後までいましょうね? 途中で帰ったら、アビーちゃんが悲しむかもしれないから」
上目遣いに様子を窺うと、旦那様は眉をひそめて黙り込んだ。しばし迷うように視線を泳がせ、ややあって吐息混じりに頷いた。
「……わかった。だが、絶対に一人になるなよ。もし俺が側に居られない時は、ヴィンスやジーンと行動するんだ」
やっぱり過保護だなぁ。
心配されて喜ぶのはどうかと思うけれど、自然と笑みがこぼれてしまう。旦那様は、そんな私を呆れたように見やった。
「……今日は無表情を貫くんじゃなかったのか?」
「到着したら、ちゃんとしますよぅ。――それより、これ見てくださいシリル様! ヴィンスさんに手伝ってもらって包装したんですよっ」
得意気に掲げてみせるは、アビーちゃんへの誕生日プレゼントだ。
クマを入れた箱を包装紙で包み、ヴィンスさんが色とりどりのリボンで芸術的に飾り立ててくれた。ほぼほぼヴィンスさんの作品とも言える。
「アビーちゃん、喜んでくれるといいなぁ。……ちなみに、シリル様はどんなプレゼントにしたんです?」
「選んだのは俺じゃなくジルだがな。骨董品の宝石箱にしたらしい」
うわぁお、さすがはお姫様!
リッチー!!
目を輝かせて拍手する私を、旦那様が真顔で見据える。どうしたのかと首を傾げると、旦那様はためらうように口を開いた。
「……お前も、欲しいか。宝石箱や……アクセサリーが」
「いいえ、全く! 私は食べられるものが好きです!」
即座に否定すると、旦那様は「だろうな」と言わんばかりの顔で納得する。ご理解いただけて何よりです!
うんうんと深く頷き合う私達であった。
次話はあさって投稿予定です。
しばらくは一日おきに更新します。




