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第29話 何事も挑戦してみましょう!

「そっか~。私ってば年上好きだったんだぁ。意外や意外」


 他人事のようなジーンさんの台詞に、箒で床を掃きながら転びそうになる。


 ……や。単なる年上好きじゃなく、「すっごく」年上好きなんだと思いますよ?

 どう見ても、ステキ紳士達と三十歳以上離れてたし……。


 苦笑する私をよそに、ジーンさんはのほほんと頬杖をつく。


「そういや、後からリオも顔を出すって言ってたよ。お菓子はその時食べよっか」


「はいっ。……あの。この間、私がリオ君から魔力をもらった件、なんですけど……」


 恐る恐る口に出すと、「ああ」とジーンさんは苦笑した。


「ヴィンスからすごい形相で口止めされちゃった。よくわかんないけど、任せて任せてっ。リオもあたしも口は固いから!」


「…………」


 リオ君はともかく、ジーンさんは大丈夫かなぁ……?


 そこはかとなく不安になりながら、魔力をもらったこと自体はもう告白してしまったこと、リオ君の名前だけは教えていないことを説明する。

 ジーンさんは驚いたように目を丸くした。


「相手が誰なのか知りたがったの? ()()シリルが? ……珍しいこともあるものね~。基本、他人に興味のない男なのに」


 よっぽどミアちゃんのことが大切なのね。


 小さく呟いたジーンさんの言葉に、またもつんのめって転びかける。一気に頬が熱くなり、焦ってわたわたと腕を振った。


「そ、そんなこと……!」


「あはは、ミアちゃんてば顔真っ赤~」


 ニヤニヤとからかわれ、私はぷっとむくれる。

 それから二人同時に笑い出し、私はまた床掃除に集中した。箒で集めたゴミとホコリを、ハンディ掃除機でガガッと吸い取る。


「……ね、ふと思ったんだけど。ミアちゃんって、もしかして魔石に充填した魔力も消しちゃうのかなぁ?」


 頬杖をついたジーンさんが、興味津々といった顔で私を見つめた。

 問われた意味が一瞬わからず、私はぱちくりと目を瞬かせる。考え考え、口を開いた。


「そんな事ない、と思いますけど……。私が魔石に触ったせいで魔動製品が動かなくなった、なんて事は今までなかったし」


「そりゃ、触るだけじゃ無理よ! 魔石に魔力を補充するのだって、しっかり念じないと駄目だもの。――要は、大切なのは()()


 言いながら、人差し指で自分の頭をコツコツ叩く。


「イメージよ。生活魔法には、元素魔法と違って難解な理論は必要ないの。ミアちゃんには魔力がないから魔法は使えないけど、魔力操作だけならできるかもしれないじゃない」


 自分で自分の説に納得したように、ジーンさんは深々と頷いた。勢いをつけて立ち上がると、私の腕を引っ張り椅子に座らせる。


「さっ、試してみて。まずはこの掃除機で構わないわ」


「……えぇと……?」


 うきうきとハンディ掃除機を指し示され、私は必死に思考を巡らせた。


 ――これは、魔動製品。人じゃない。


 でも、掃除機の魔石に魔力を込めたのは、旦那様以外の誰かなワケで。


 うん、と私は心に決める。


「駄目です、ジーンさん。旦那様以外と魔力のやり取りはしないって、昨日約束したんです」


「ええ~っ!?」


 きっぱり断る私に、ジーンさんは至極残念そうに悲鳴を上げた。なんとか説得しようとしてきたけれど、私が揺るがないと悟ると、しぶしぶ納得してくれた。


 納得してくれたものの、彼女は頬をふくらませてジタバタと手足を暴れさせる。


「うううう、残念ーーー!!」


「何が?」


「うわビックリしたぁ!!」


 思わず飛び上がる私とジーンさんに、闖入者がきょとんと目を丸くした。

 窓から吹く風に、砂色の髪をサラサラとなびかせたリオ君だ。

 またもナチュラルに部屋に入って来ていた彼に、私達二人とも全く気付かなかった。……なんか、リオ君って猫っぽいかも。


 胸を押さえる私とジーンさんを等分に見比べて、リオ君はふわりと微笑んだ。


「お茶をもらってきたから休憩しようよ。あ、窓閉めていい?」


 お盆に載せた保温ポットとカップをジーンさんに手渡し、リオ君は開け放った窓を閉めて回る。慌てて私も彼を手伝った。


 執事のジルさんお手製の焼き菓子を並べて、おやつの時間スタートである。


 ジーンさんはお菓子をほおばると、にへらと頬を緩ませた。もぐもぐ咀嚼し、幸せそうなため息をつく。


「あああ、美味しい……! しかもジルさんの手作り……尊い……!」


「うんうん、本当に。……ところでジルさんって誰? 姉さんの言動から察するに、白髪の似合う素敵な紳士?」


「…………」


 ジーンさん、見抜かれてるなぁ。

 私も人のこと言えないけど、ジーンさんも大概わかりやすいのかも?


 クスクス笑いながら、私達は雑談に花を咲かせる。


 魔力譲渡の件をリオ君にも念押しすると、「もちろん。僕も殺されたくないしね」と苦笑された。……や、殺されませんてば!


 話がいったん落ち着いたところで、そういえば、とリオ君が首を傾げた。


「姉さん、さっきは何を残念がっていたの?」


 リオ君の言葉に、ジーンさんが飛びつくように身を乗り出す。


「そうそう! それがね、実は――……」


 ジーンさんが先程の仮説を熱く語ると、リオ君はじっと考え込んだ。思考をまとめるように虚空を見つめる。


 ややあって、彼はぽんと手を打った。


「――つまり、魔法士団長の魔力なら問題ないんだよね? なら、彼を相手に試せばいいじゃない」


 人好きのする笑顔で提案する彼を、唖然として見返す。試す……試す?


 首をひねる私をよそに、ジーンさんがきらきらと瞳を輝かせた。


「そっか、確かに! ――あのね、ミアちゃん。今度から、シリルがミアちゃんに魔力をあげるんじゃなくて、ミアちゃんがシリルの魔力を吸い取ってみない?」


「えええっ? そんな事できます!?」


「だから、それを試すのっ。お願い、学者の好奇心がうずくのよぉ!」


 手を合わせて拝まれ、私はうぅんと頭を抱える。

 相手が旦那様であるならば、試すこと自体は問題ない、はずだ。


 ――でも。


 いとこコンビをチラリと見やる。二人とも、期待に満ち満ちた瞳で私を見つめていた。


(……失敗したら、がっかりさせそう……)


 思わず苦笑いしてしまう。


 それでも、もし私が魔力を吸えるようになれば、旦那様もわんこそばタイムが楽になるかもしれない。試すだけならタダというものだ。


 ひとつ頷き、私は勢いよく立ち上がった。


「――わっかりました! 駄目で元々、挑戦してみます!」


 ガッツポーズで請け負うと、二人ともわっと拍手する。


 早速今夜から、魔力吸収の実験を開始することになった。

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