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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

透死

作者: koumoto

 死が透けた。視えなくなった。上からの指示でそうなった。

 試しに老人の頭を砕くとする。頭蓋が割れて、脳漿がこぼれる。するとどうだろう。霧がかかる。撲殺による大往生。白い雲に包まれたよう。傍目には安らかな消え方だ。血だまりも断末魔も蛆虫もなし。

 街のそこかしこに白い空白。ゴミひとつない綺麗な街路。死体ひとつない清らかな街路。ただおびただしく白い雲。地上に雲海が湧出している。

 ふわふわ夢心地で日常を送る。それが上からのお触れである。日常は義務だ。非日常は罪だ。なので、非日常は存在しない。上からの指示でそうなっている。

 ときどき知り合いがいなくなる。白い雲から手足が出てる。ほどなくして消える。つつしんで忘れる。街のそこかしこに白い雲。記憶のそこかしこに白い雲。

 抗議のデモが駅前で起こった。地鳴りがするほどの足踏みだった。すごい人数の叫喚と演説。もくもくもくもく白くなった。音が止んだ。いなくなった。半年経っても、駅前はまだ白い。駅舎よりも大きな白い雲。自然と立入禁止になった。

 そのあたりで、なぜだか配置換えになった。一応、これでも公務員だ。今度の仕事はお片付けだ。特殊なゴーグルをつけて、街を巡る。ゴーグルをつけると、白が消える。するとどうだろう。街路には放置された死体の山々。大半は奇病で死んだ人たち、もしくは上からの指示で殺された人たち。あまり楽しい業務ではない。ふわふわ夢心地で日常を送れない。仕方ないので、薬の量を多くした。配給を水増ししてもらった。それでなんとか、神経が安らいだ。いまでは相変わらず夢心地。ふわふわふわふわ死体を片付けている。

 仕事中に何度か、薬が切れた。パニクって同僚に食ってかかった。憐れむような目で同僚に見られた。むかついたので同僚を砕いた。同僚の頭に白い雲。ゴーグルなんて捨ててしまった。

 ありがたいことに、またしても配置換え。仕事もしなくてよくなった。寝たきり昼間から薬をキメている。

 死が透けた。視えなくなった。上からの指示でそうなった。もちろん、上は誤らない。上からの指示はいつだって正しい。視なくていいものは、視なくていいのだ。

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