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第7話 二人

あの日忘れ物をしなければ、取りに戻ろうとしなければこんなことにはならなかったんだ。



俺は聖 真也、金持ちの両親のもとに生まれ、見た目も良く文武両道、非の打ち所がないと自分でも思わざるを得ない。


あの日は教室に忘れ物をしたことを、校門を出た辺りで気が付いた。

いつものメンバーで帰ろうとしていたが、俺が忘れ物のことを伝えたら当然文句も言わず付いてきた。

まあ教室に戻る程度を付き合うのは当然だし、なんなら忘れ物を取りにぱしらせても良かったんだがな。



俺の取り巻きは3人。

カズキは、見た目はそこそこでガタイもいいから悪ぶっている奴らからも一目置かれている。ただ頭が致命的に弱いが俺の盾としてなら使えるだろう。

ホノカとセリナは俺の横に侍る程度には、良い見た目をしている。

当然俺に惚れているだろうから、何回か抱いてやってもいいかと考えている程度で、彼女の座はこいつらにはもったいないだろう。

まあ俺と同じグループに入れるんだから、それだけでこいつらは泣いて俺に感謝すべきだな。



そんな俺の思うままの生活も、あの時教室が輝いてからどうもうまくいかない。


召喚がどうとか言っていたが、結局俺が聖なる勇者として王国を守ってやれば済む程度の話だろう。

もっとこの俺が召喚されたことを喜べよと思うが、他の奴らも俺には劣るがそれなりのスキルとやらがあったようで俺が目立たない。


王女はホノカ達がガキに見えるぐらい、いい女だった。

聖なる勇者の俺に当然惚れると思っていたが、どうもうまくいかない。


カズキは頭が弱いのと思い込みが激しいのが裏目に出て、召喚後即逮捕になりやがって俺の役には立ちそうもない。


一番最悪なのが奴、桂だ。

学校ではただのボッチだったくせに、召喚後はやたら俺に突っかかってくる。

これまで目も合わせられなかったくせに、俺に逆らうだけでなく意見までしてきやがる。

あんな奴いてもいなくても関係ないんだし、そのうちぶっ殺してやる。


それにあのくそまずい食事から、さらにおかしくなったんだ。

セリナが俺様ではなく、桂の屑野郎の方に座りやがった。

絶対にあいつが何かしたに違いない。弱みを握ったりなんかはあの根暗野郎のやりそうなことだ。


セリナは俺が王女の方が美人だと思ってることに気が付いて、焼きもちを焼かせようとしているのかもしれないがな。

これまでの付き合いもあるし、王女は正妻でセリナとホノカは愛人当たりなら喜んで俺のもとに来るだろう。


屑野郎なんかはいつでもひねりつぶせると思い、気を取り直して食事を口にしたときは叫びだすかと思った。

世の中にこんなまずいものがあることと、こんなのが豪華な食事だということにだ。

俺の王女が悲しそうな顔をするので、フォローしてやったというのに、またしてもあの屑野郎は余計なことをしてきた。

何が口に合わないだ、お前如きは残飯に顔を突っ込んでるのがお似合いだ。それをなんだかんだ言って飯を食わずに逃げ出しやがった。

しかも、俺が喜んで食べてるだと、余計な事を言いやがって。おかげでくそまず料理を最後まで食べるはめになっちまった。


くっそぉ、イライラする。なんで俺様の思い通りに全員動かないんだ。

俺を誰だと思っているんだ、畜生!


部屋に戻ると、そこそこみられる顏をしたメイドが世話を焼いてくる。

ちょうどいいか、こいつでこの鬱憤を解消させてもらおう。





俺は今、地下の牢獄よりはましといった程度の部屋に監禁されている。

全てはあの桂の屑野郎のせいだ。

あの朝急にメイドが逃げ出したのも、衛兵がやってきたのも、宰相の命令とやらでここまで無理やり連れてこられたのも、

ここの飯がまずいのも、誰もここに来ないのも、全部全部あいつのせいだ。


宰相の命令とか何か言ってたがどうでもいいだろう、桂さえぶっ殺せば全て俺の思い通りに戻るんだ。

どうせ聖なる勇者の俺がいなければ、困るのはここの奴らだ。

そのうち頭を下げて頼み込んでくるだろうから、その時に王女を差し出させればいい。



それにしてもセリナもホノカも何で顔を出さないんだ。

あのメイドだけでもいれば、暇つぶしにはなるのに何度言っても寄こさない。


やってくるのはむさい騎士だけだ。あいつら勇者の俺に対して全く礼儀がなっていない野蛮人ばかりだ。

訓練と言いながら、俺を痛めつけてくるだけだ。あれのどこが訓練なんだ、単なる暴力だろ。

そのうえ俺のやる気がないやら、普段の訓練が足らないとか好き放題言いやがる。


訓練なんかしなくても、桂の糞野郎なんか簡単にぶっ殺せるだろうし問題ない。


ここの低能達が早く俺の価値に気が付いて、頭を下げに来るのを楽しみにして待つしかないのか。

あまり長く待たせるのであれば、王女だけでなく国中の美女を集めたハーレムを用意させるのもいいな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



俺は芝、芝 一輝だ。


最近はいつもシンヤとセリナ、ホノカの4人でよくつるんでる。

シンヤはかっこつけで、自分のことを過大評価しすぎているとこが鼻に付くが、金持ちのボンボンでいつも奢ってくれるので我慢している。

セリナは良い女だ、見た目はチャラいが可愛いしスタイルもいい。

最後のホノカは、ちょっと何考えてんのかわからんのがマイナスだが、見た目はセリナと比べても見劣りはしない程度にいい女だ。


いきなり周りが光って、召喚がどうとかってよくわからないがいきなり知らん場所に連れてこられた。

周りは武器を持った奴らに囲まれてるし、シンヤはボケっとしてすぐには役に立ちそうもない。

セリナとホノカ、あと泉と桂も一緒に来たようだ。

俺達は当然丸腰で人数も少ない。あんな完全武装の奴らが相手では普通にやったら勝てる訳がない。


一番偉そうなおっさんがいきなりしゃべりだす。

「勇者よ、召喚に応えてくれまずは感謝する」


これって、最近の漫画とかで見る異世界召喚ってやつか?

このおっさん見るからに胡散臭いし、召喚した奴が黒幕ってのが最近の流行だろ。

まあそれはどっちでもいいか、それよりこいつを抑えればこの場の主導権は握れる。


そして俺はおっさんに向かって駆けだすが、完全武装の奴らにはさすがに歯が立たず取り押さえられてしまった。

金属っぽいグローブでボコられたから、これまでの喧嘩の比じゃないぐらいの痛みだ。

気を失わなかった俺を褒めてやりたいぐらいだ。

それでも痛みに朦朧としつつも、何とかするチャンスをうかがっておとなしくしていたら、ホノカが俺の心配をしてくれてた。

そしたら王女がなん酷いことを言い出した。最悪死ぬかもしれない魔法とか極悪じゃねぇか。


ホノカも同じように思ったんだろう。

「うわぁ、けっこうエグイことするんだね王女様って」

だよな、勝手に召喚しといてその扱いはねぇんじゃないのって思ったときだ。


「おいおい、悪いのはカズキだろ?フィア王女も身を守るためにはその位はするだろ?

 王様に手を出そうとしてこの程度で済むんなら逆にラッキーじゃないか」

シンヤの奴、俺を売りやがった。

元から気に食わないところはあったが、最低限の信頼はあったつもりだったんだがな。でも、もう無理だ。

こんな奴とつるんでたのが情けなくなる。



シンヤの裏切りに怒りと情けなさで呆然としていたようだ。

気が付いたらあいつらは別の所に移動していたようで、俺は周りを囲んだ完全武装集団と取り残されていた。


「おい、少しやり過ぎたようだ。回復薬を与えてやれ」

「はっ!」

なんか急に話し出したぞこいつら?って思ったら、小さな瓶を手渡され飲むように促された。

いきなり謎の瓶を渡されて飲めとか意味がわかんねぇし、さっき王女が呪いみたいな魔法でどうのこうの言った後に飲めるわけがないだろう。

俺が飲まずに瓶を持っていると、別の瓶を持ってきて殴られて酷いことになってる傷口に直接ぶっかけやがった。

殴った上にさらに何かするのか?と思って身構えていたが、痛みが引いていき傷口を見るとほとんど治っていた。


「心配するな、これは回復薬といって怪我を治療するための薬だ。

 ほんとは飲む方がいいんだが、直接かけてもこの通り効果がある」

完全武装のおっさん、よく見ると他よりもちょっと装備が豪華な気がする奴が俺に説明した。


「なんで治療したんだ?俺はこれからどうなるんだ?」


「貴方は召喚されてきた勇者様です。今回の王に対する行いはまずかったですが、この点についても後ほど理由をお聞かせください。

 そのうえで、この後の処遇について決めていきましょう」

「王様に歯向かったらぶっ殺されるんじゃないのか?」


「我が国の国民であれば間違いなく斬首ですが、貴方は異世界からの勇者です。それにいきなり召喚してしまったことで動転されたのも理解できますよ」

「そんなもんなのか?まあ、いきなりぶっ殺されないならなんでもいいか」


そして俺はこのおっさん、アーロンという騎士の偉いさんらしいのに連れられて召喚された部屋を出ると、話を聞くためと言って割と豪華な会議室っぽい部屋に連れて行かれた。



「改めて、私はアーロン。近衛騎士団の団長を務めている。貴方の名前を伺ってもいいか?」

「ああ、俺はシバ カズキだ」


「ではシバ様、早速だがなぜあのような行動をとられたのか教えて頂きたい」

「それは構わんが、そんな丁寧な言葉遣いはやめてもらえるか?背中がかゆくなっちまう」


「ははは、了解した。じゃあ改めて、さっきはなんであんなことをしたんだ?」

「いきなりこんな訳の分からないところに飛ばされてきて、周りは完全武装の軍人らしいのに囲まれている。

 で、こっちは丸腰でしかも女連れなんだ、そっちの頭を抑えるしか方法が思いつかなかっただけだよ」

いつもの喧嘩と同じように頭を取れば勝ちだって思っただけだが、女を守るのを理由にした方が騎士ってぐらいだ好感度は上がるだろう。


「ふむ、なるほどな、勇者様側から見ればその様に見えるのは当然かもしれんな。

 だが、なぜ話し合いなどで何とかしようとしなかったんだ?」

「あんた騎士団長さんだろ?完全武装の奴らに囲まれた状態で話し合い?頭湧いてんじゃないか?

 相手が武器を構える前に何とか状況を好転させるしかないだろ。

 俺も国王じゃなく王女の方を狙うべきだったと反省はしているよ」

王女は見た目だけは良かったからな、人質にとれれば色々楽しめたはずだしおっさんよりはるかにいいよな。


「そうだな、逆の状況なら私も同じように動いたかもしれんな。

 仲間の女性を守るために自らの危険を顧みず、最善と考えた行動を躊躇い無く取る。

 まさに騎士の理想像だよシバ様は」

「おいおい、そんな事面と向かって言うなよ、照れるじゃないか」

うわぁ、チョロ過ぎる。笑いこらえるのが大変なレベルだな、こりゃ。


「わかった、私の権限でシバ様の罪は問われないように計らおう

 今の話を聞けば、シバ様の行動に咎めるべき内容はないからな」

「いいのか?王様を狙ったんだぞ?」


「王の命を狙うのが目的ではなく、仲間を守るのが目的だったんだろ?

 その手段としてたまたま王に向かっていったんだ、それも殺すためではなく人質にする程度だろ?」

「そりゃそうだろ、あそこで命まで奪ったらそれこそ俺らの助かる道が無くなっちまう」


「なら、大丈夫だ。私の方で何とか出来ると思うよ。

 ただ、いろいろ説明する必要があるので他の皆との合流はその後になってしまうが、そこは我慢してもらえると助かる」

「それぐらい構わねぇよ。もともと最悪死ぬかもって腹をくくってたんだ

 こっちこそ逆に手間かけてすまないな」


「気にするな、これが私の仕事だからな。

 それより体の調子に問題なければ、スキルの確認を行いたいのだが大丈夫か?」

「ああ、さっきの薬で全快したみたいだ問題ない」


シンヤたちと会うのはまだまずいということで、俺は近衛騎士団にあるスキルの確認を行うための宝玉とやらが置かれている部屋に連れてこられた。

俺も今はシンヤの面は見たくないからちょうどいい。


「勇者様のスキル確認にしては、ちょっとあれだがここで我慢してくれ」

アーロンはそういうが、ここもそれなりに豪華な部屋である。近衛騎士団用なのだから当然ではあるが。


「その宝玉に触れるだけでいい、その後スキルが解放されるからしっかり踏ん張って置けよ。

 勇者のスキルだ、とんでもない力があふれるかもしれんからな」

「あんまりビビらすなよ、それに娑婆いスキルだったらどうすんだよ」


俺は言われた通り玉に手を触れると、玉が光輝いた。

光が収まると体中に何かが流れ込むような、何とも言えない感覚に襲われる。

だがそれも数秒で収まり、なんか力が漲るってこういうことなのかと思う。


「"ステータス"と言って自身の能力を確認してみてくれ」

アーロンに言われるまま、俺は"ステータス"を確認した。


"狂戦士":魔法は使えないがその分非常に強力な力を持つ者。狂化すると知能が低下するが体力と攻撃力が爆発的に増加する。


なんか微妙だが脳筋スキルなのは良いな、魔法とかちまちましたのは覚えられる気がしねぇからな。


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