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第6話 事件

ちょっと閲覧注意かも

そして翌朝、事件が起こった。


「もういやぁぁっ~!助けてぇっ~!」

朝から女性の叫び声で俺は目を覚ました。すぐに部屋の外の様子を伺うが男女二人の怒鳴り声と叫び声しか聞こえない。


「やかましいっ!いちいち叫ぶんじゃねぇ!とっと戻って続きをするぞっ!」

「いやですっ!いくら勇者様でもこんなことは耐えられませんっ!」

どうも騒ぎを起こしているのは聖らしいな。

仕方なく扉を開けて廊下にでする。


「朝っぱらから何を騒いでるんだ、周りの迷惑を考えろよ」

「桂!貴様!誰に口を利いてる!それに喧しいのはこの女だ!こいつが俺の言うことを聞かないのが悪いんだよ!」

聖は血走った目で俺を睨みつけた後、足元に横たわって全身で拒否を表す女性を睨む。

女性はひどい暴力を振るわれたのか、彼方此方に痣ができ出血している個所もある。

何より服が引き裂かれあられもない格好で泣き叫んでいるのだ。


どっからどう見ても強姦魔と被害者にしか見えない。

聖が叫んでいる間に衛兵であろう騎士たちがやってきた。


「勇者様、何事ですか」

「ああ、この女が俺の言うことに逆らいやがるからお仕置きをしただけだ、大した事じゃない」

「しかし、彼女の様子は普通ではありません。一度彼女を治療するのでお部屋でお待ちいただけますか」

「さっさと頼むぞ、そいつが使えないならもっと従順な奴を急いで連れてこい」

「ひとまず部屋でお待ちください」

衛兵たちは聖に言質を取られまいとやり取りをしていたが、聖は気が付くこともなく部屋に戻る。

戻る際に俺をひと睨みするのも忘れなかった。


「大変申し訳ないのですが、状況を教えていただけませんか?」

衛兵の一人が唯一廊下に居た第三者である俺に対して聞いてくる。

「ああ構わんよ。だが先に彼女を休ませてやりたい。ここが俺の部屋だから彼女もつれて入るといい。メイドに彼女の世話を任せよう」

「ありがとうございます、助かります」


衛兵2人と傷だらけのメイドを連れて部屋に戻ると、グレースがあわててやってきた。

「すまないが彼女の手当てを頼めるか?」

「はい!直ちに」

グレースは衛兵がいることから事情を察したのか何も聞かずにメイドを連れて奥の部屋に向かった。


「勇者様のお手を煩わせ、大変申し訳ございません」

衛兵は俺が勇者だからであろう、とても丁寧に状況を尋ねてくる。

俺はそこまで遜る事はないといいつつ、朝からの出来事を彼らに伝える。


「具体的に何をされたかは彼女に聞くしかないが、出来ればこのままうちのメイドから質問させるようにしてもらえないか?

 女同士の方がまだましだろうし、あんな状態で人前には立ちたくないだろう」

「そうしてもらえると我々も助かります。王宮勤めのメイドは下級貴族の娘が多いのです。

 ですので、メイドとはいえ貴族としての扱いは欠かせません。それに勇者様のような方に庇って頂けるのであれば安心です。

 このようなことをお願いするのは非常に心苦しいのですが、よろしくお願いします」


「頭を上げてくれ、こんな時はお互い様だ。それと俺の名は桂、桂 仁だ。勇者とひとくくりにされるとややこしいから名前で呼んでもらえるか?」

「はっ!勇者カツラ様ですね。了解しましたっ!」


「いや、だから勇者はいらないよただの桂で十分だ」

「は、はい、了解しました、カツラ様!」


「ありがとう、でだ今回の件はどうなると思う?」

「勇者様がされたことですので、我々がどうこうできるものではありません。彼女か別のものをメイドとしてあてがうしかないと思います」


「そういうもんなんだなぁ、出来れば奴には女性は付けずに放って置いた方がいいと思うんだがな

 あの様子じゃ罪悪感なんかまったく無さそうだったし、誰をつけても結果は同じだろうな。

 結果、傷ついたメイドが量産されて、誰も奴には近づきたがらないようになるだけだと思うんだ。」

「なるほど、さすが勇者様ですね。メイドの身まで心配いただけるとはさすがです」


「ああ、そういうのはいいから。それと勇者呼びはなしでな」

「あ、すみません、カツラ様」




「カツラ様、よろしいでしょうか?」

衛兵と話しているとグレースが声をかけてきた。


「ああ、そっちに行こうか?」

「お願いします、衛兵の方はそのままお待ちいただけますか?」

グレースは俺を奥の部屋に連れて行き、聖の所に居たメイドから聞いた話を伝える。

そのメイドもグレースから治療を受けたのか、全身の傷が目立たないようなゆったりとした服に着替え話に加わる。


「改めましてお礼をさせてください、私はグレースと同じ勇者様に専属を申し付けられましたメイドで、ハンナと申します。

 あの獣のような男からお救い頂き、本当にありがとうございました」

「頭を上げてくれ、あの獣と言われた男は俺と同郷なんだ。こちらこそ奴がひどいことをして申し訳なかった」

「ハンナ、カツラ様は私達のようなメイドの身も案じてくださる立派な方です。大丈夫ですから何があったかを教えて頂戴」


「はい、あのゆ、ゆう、勇者様、・・・」

「ああ、無理して勇者なんて呼ばなくてもいい。奴がやった事は獣以下だ、あの獣で十分伝わるよ」


「ありがとうございます。あの獣は最初の夜、夕食後から何か様子が変でした。

 ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、部屋の中をうろうろと歩き回るのですが、その目はどこも見ていないようでとても怖かったのを覚えています。

 あまりに様子がおかしいので私が声を掛けたところ、"俺は勇者だ、みんな俺の言うことを聞いていればいいんだ"と叫び、いきなり私をベッドに組み伏して…

 確かにお役目の中には男性の勇者の夜伽も含まれてはいたので、いやいやながらもなすが儘にされていたのですが、私が無抵抗なのが気に入らないらしく

 途中から私を殴ったり蹴ったりと暴行がエスカレートしていったのです。私が痛みに泣き叫べばあの獣は嬉しそうにもっとひどいことをし、

 我慢していれば、もっと泣き叫べと暴行を繰り返して、昨日は1日中拷問のような状況でした。

 今朝までは何とか我慢したのですが、これ以上は殺されると思い部屋を飛び出したんです」

「何ということを…いくら勇者でも許せませんね、私は国王陛下に訴えに参ります!」


「グレース落ち着け、一番つらいのはハンナさんだ。彼女がどうしたいか聞くのが先だろ」

「そ、そうですわね。ごめんなさいハンナ、私ったら…」

「ううん、私のために怒ってくれてうれしいよグレース、私もこっちの勇者様の担当が良かったよ

 でもそうなると他の誰かがあの獣に無茶苦茶されることになるのね、それはダメだわ」


「現状は、奴がメイドを連れてこいというのを衛兵さんが抑えてくれている。

 俺からは、もう女性を奴に近づけない方がいいんじゃないかという話はした。

 ハンナさんは嫌でなければしばらくこの部屋でグレースと一緒に居てもらえるかな?

 奴に見つかると面倒ごとになるだろうから」

「よろしいのですか?こんな汚れ切った私をそばに置けばカツラ様の名に傷がつくことになりかねません」


「女性を助けて傷がつく程度の名はどうでもいいです

 それよりも、奴と私以外は女性の勇者なのでそちらにも声をかけて味方になってもらいましょう」

「それは名案ですわカツラ様、早速私は他のお三方をお呼びしてきます」

「ちょっとまって、廊下に出るなら衛兵さんと一緒にね。万一奴に出くわしたら大変だから」

「そうですね、衛兵さんにお願いします。では少し外しますね」


「ああ、同じ勇者様なのにこんなに違うなんてことがあるのですね。こんなに心配してもらえるグレースがうらやましいわ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ、まずは体と心の治療が最優先だな。

 確か"聖女"のスキル持ちもいたからこっちに来たら見てもらえるかもしれないな

 それと、お腹は空いていないか?ろくに食事もとれてないんじゃないか?」


「はい、一昨日から何も食べていませんでしたわ、それどころじゃなくて。

 安心したら少しお腹が空いたかもしれません」

「確か果物がそこにもあったはずだ、食欲があるなら少しだけでも食べた方がいい」

おれはテーブルに飾ってあった果物をハンナの前に持ってきてやる。

ハンナは少しづつだが、果物を口にしていた。



「皆様をお連れしました」

グレースが3人を連れて戻ってきた。


「聖君が騒いでたのはドア越しに聞いていたわ。なんなの彼?変な薬でもやってるんじゃない?」

「うんうん、あれはちょっと、いや大分引いたわぁ」

「ちょっと弄られただけで逆切れした上に婦女暴行って、どんだけメンタル弱いのよ。ったく馬鹿真也」

泉、谷、祭も、聖の明らかに異常な行いに怒りを通り越して呆れ果てている様だ。


「朝からすまないな、でもあの場に現れなくて良かったよ。聖もあの場を女の子たちに見られたら、さらにひどい騒動を起こしていたかもしれないからな

 それから、此方がハンナさん。聖の専属メイドだった人で、今回の被害者でもある

 こういったことは女性同士の方がいいと思って、悪いが皆を集めさせてもらった」

「ハンナと申します、私のようなメイドのために勇者様方にご迷惑をおかけし、申し訳ございません」

ハンナは勇者揃い踏みの状況に恐縮しまくっている。


「迷惑なんて思ってないよ、それよりも聖の馬鹿がひどいことをしてごめんなさい」

「うんうん、世奈ちゃんの言う通りだよ。馬鹿が迷惑かけてごめんね」

「そぉだよねぇ、悪いのは馬鹿真也。ハンナちゃんほんとにごめんねぇ」


「悪いが彼女のことを見ていていくれないか?俺は衛兵の人たちと今後の対応についてもっと上に掛け合ってくる

 それと泉さん、もし”聖女”のスキルが使えそうならハンナさんの怪我を見てやって」

「わかったわ、そっちは桂君にお願いした方がよさそうだし。こっちは女同士の方がいいと思うし任せて。

 "聖女"のスキルは正直よくわからないけど、出来る限りやってみるわ」

「桂頼んだわよ、こっちのことは任せておいて」

「これ以上真也が迷惑なことしないように、ぎちぎちにやっちゃって」


おれはハンナを彼女たちに任せ、衛兵たちのもとに戻る。

衛兵はさっきと同じ位置に戻っていて、俺が顔を出すとほっとしたように見えた。

「お待たせしました。聖の件ですがメイドの手配などの責任者は誰になるでしょう?」

「勇者様の部屋などは宰相閣下が直接手配してました」


「では、宰相の所に案内してもらえますか」

「はっ、いや、この時間に前触れも無しには、ちょっと難しいかと思います」


「ほぅ、私は今が緊急事態という認識なのですが、貴方がたはそうではないと?」

「いっ、いえ、確かに緊急事態であります!直ちに宰相閣下の所にご案内いたします!」

少し表情を消して脅してやると、衛兵たちは慌てて宰相のもとに急いだ。




「宰相閣下、勇者カツラ様が至急の面会を希望されています」

衛兵は宰相の部屋らしきところに付くとすぐに扉をノックして宰相を呼び出す。


「勇者様がここに来られているのか?すぐにお入り頂け!」

「はっ! カツラ様どうぞ」

衛兵に宰相の部屋へ案内される。さすが一国の宰相の部屋というべきか40畳は軽くある広い部屋の奥の巨大な執務机で宰相らしき人物が腰を上げ俺を出迎えてくれた。

入り口から奥の机までの両側には複数の机が置かれ、勤務中はここに文官などが座っているのだろうと思われる。


「勇者様、こんな朝早くに何かございましたでしょうか?」

「朝早くに済まない、だが緊急を要すると判断したので失礼とは思いつつも直接訪ねさせてもらった」

衛兵が、今朝の出来事を宰相につぶさに伝える。


「なるほど、それは確かに緊急事態ですな…メイドとはいえ我が国の国民、いくら勇者様とはいえその様な非道を許すことはできません。

 陛下に許可をもらってからにはなりますが、一旦その方の勇者としての資格を剥奪しましょう。

 その後は隔離のうえ厳しい訓練を課すように致します。それに勇者でなくなればメイドも不要でしょう」


「勇者の資格は剥奪できる者なんですか?」

「はい、基本的には召喚に応えて頂いた異世界の方は全て勇者の資格を持ちます。

 ただ戦いに向かないスキルを得てしまった場合や、その性格上に問題ありとされたものは勇者では無くすることも過去にございました。

 前者は戦いに向かないだけなので国で手厚く保護し、スキルを活かした暮らしを過ごしていただいたようです。

 後者は、あまり情報が残っていないのですが牢に監禁されたものや、死刑となった者も存在するようです」


「我々、私と3名の女性勇者もこの件については非常に残念に思いつつも、聖に対して怒りを覚えています。

 今回の件で聖に対してどのような罰を与えたとしても、我々がこの国を恨むようなことはありません。

 逆にお咎めなしとなった場合は、不信感を抱く可能性があります。

 罪には罰を、それが当然のこととして我々は教育を受けていますので、我々に対する配慮や忖度は不要に願います」


「そう言ってもらえると助かります。折角召喚に応えて頂いた勇者様方との信頼関係を失うことは王国として非常に大きな損失となります。

 今言われた忖度を推す者たちに対する牽制になりましょう」

「ではお忙しい中、申し訳ありませんがその方向での対応をよろしくお願いします」


「勇者様に関すること以上に重要な案件はございません。最優先で対応させていただきます」




そして、聖 真也は俺達とは別の対応を受けることになり俺達の前から姿を消した。

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