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第5話 親睦

昨夜は遅くまで泉さんとグレースとで盛り上がっていたためか、目覚めたのは昼前になっていた。

朝の時間も決まっていなかったためか誰も起こしに来るようなこともなく、召喚されたその日というのにぐっすり眠っていたようだ。


グレースが朝から色々世話を焼いてくれる。

昨夜は風呂に入るまでは元の学生服を着ていたが、風呂上りからはこの世界の服を着ている。


さすがに日本と比べると品質は大分落ちるが、白シャツとグレーのパンツに編み上げの靴というシンプルな服で落ち着いた。

日本のように靴を脱ぐ文化なら、この靴は避けただろうが寝るとき以外は靴のままらしいので文句はなかった。


グレースは勇者なのだからと、ひらひらの付いた服や、やたらキラキラした宝石か何かで飾られた服を薦めてきたが全力で断った。

俺一人だけならまだしも、ここにはクラスメイトの女子もいるんだ、そんな服を着たら晒し者にされるのは目に見えている。


食事は期待できないので、昨夜に引き続き果物で朝食をとる。

紅茶のような飲み物をグレースが淹れてくれたが、さすが"料理"スキル持ち、これまでで飲んだ中でも一番美味かった。

そのことを伝えると、グレースは嬉しそうに笑ってくれた。



特に何も言ってこないので、することがない。

考え事をしようにもこっちの世界の情報量がまだまだ足りないので、考察に入るのは早すぎる。

このまま部屋でダラダラしているのもどうかと思い、昨日話に出た書庫を利用したいことをグレースに伝え、手配してもらう。

グレースに偉い人を呼んでもらうと、なぜが王女がやってきた。



「おはようございます、カツラ様。書庫に御用があると聞きましたのでご案内いたしますわ」

「おはよう、フィアーノ王女。王女自ら案内とは恐縮です」

王女は昨日とは違うドレスを身にまとい、相変わらず見事なブロンドは輝くように背中に流されていた。

毎日ドレスだと肩がこらないのかなぁとどうでもいいことを考えながら、王女に案内されて書庫に向かう。


「こちらが書庫になりますわ。一般の目には触れさせられないようなものもありますが、勇者様なら制限なくご覧いただけますわ」

「ありがとう、しばらくここで色々調べさせてもらえるかな?」


「ええ、構いませんわ。"大賢者"のスキルをお持ちの勇者様ですもの、知識にはきっと貪欲なのでしょうから」

「ああ、そうかもしれないな。知識に貪欲だからスキルが"大賢者"になったのかもね。

 そういやほかのみんなはどうしてるんだい?」


「女性の方は皆さん料理長の所で色々とされているようですわ。私も異世界の食事がどんなものか楽しみにしてますのよ。

 それとヒジリ様はまだ部屋から出てこられていませんわ」

「そうか、料理はぜひ再現してほしいな。聖の方はきっと食べ過ぎなんじゃない?こっちの料理を気に入ってたみたいだし」


「ふふふ、カツラ様って結構辛辣な方なのですね。ヒジリ様も此方の料理は口に合わなかったのはすぐにわかりましたのに」

「それは王女も同じだろ?絶対にわかっててやってるんだろうなって、あの後戻ったみんなで大笑いしてたよ」


「それはひみつです。でもヒジリ様は少し危うい感じがします。私の口から言うのもなんですが、王国も一枚岩とは言えない状態です。

 勇者が召喚されたことでそれを利用しようとするものがいないとも限りません。

 ですのでカツラ様も気を付けてくださいね」

「ありがとう、出来るだけそうするよ。ただ世界が違うので色々とわからないことが多いからな、こうやって調べ物をしてこっちの世界の常識を学ぶ必要がある。

 そうすればおかしな動きもわかるようになると思うんだ」


「さすがですね、そこまで考えられているのであれば安心です。私にできることがあれば気になさらず頼ってくださいね」

「ありがとう、何かあればそうさせてもらうよ」


俺は王女と別れると書庫に籠ることにする。

欲しい情報は、一般常識から世界の情勢や各国の友好関係、過去の勇者の歴史に、スキルや魔法についてなど、挙げればきりがない。

限られた時間で出来るだけ多くの情報を得るためにも、俺は早速手に取った本に集中した。





「桂君、お昼作ったんだけど食べに来ない?」

どれぐらい集中していたのか泉さんが声をかけてくれるまで、周囲に全く気が向いていなかった。


「ありがとう、ちょうどお腹もすいたし喜んでいただくよ」

「じゃあ、昨日と同じところだから付いてきて」

泉さんは俺の手を取ると昨日の食堂に案内してくれる。手をつないでるのは突っ込まない方がいいのかな?などと考えているうちに食堂についた。



「あー、手ぇつないでるぅ!」

谷が俺たちの姿を見つけるなり、大きな声で指をさす。


「あんたたち付き合ってたの?」

祭もにやにやと俺達をからかう気満々な顔をしている。


「あっ、こ、これは、そのぉ…」

対する泉は顔を真っ赤にし大慌てだ。


「これは泉さんが書庫から動かない俺を引っ張って来てくれたんだよ、俺は役得だったけどな」

俺はからかわれる泉さんをフォローしようと2人に状況を伝える。


「なぁんだ、つまんないの。でも手をつなぐってことはまんざらでもないんじゃないの世奈ちゃん?」

「あー世奈ちゃんからのアタックなんだね。桂ってこっちに来てからは結構いい感じだもんね」

「あ、あ、あたし、料理持ってくる!」

からかわれ慣れていないのだろう泉は慌てて厨房らしきところに逃げて行った。


「あはは、世奈ちゃん可愛ぃね」

「うぶなところが、また苛めたくなってくるわよね」


「程々にしといてやってくれよ、泉さんも恥ずかしがってるんだし」


「あれぇ、桂って世奈ちゃんの保護者みたいだねぇ、ってか彼氏?」

「今のはかなり怪しいよね、もう二人くっ付いちゃいなヨ」



「ちょっといい加減にしてよ、桂君に迷惑よ!」

ほっぺたを膨らませた泉が、昼食であろう料理を乗せたカートを押して戻ってきた。


「あぁ、ふくれてる世奈ちゃんも可愛ぃ」

「うんうん、この初々しさは尊いね!」


「ほんとこの辺で勘弁してください」

俺が笑ってお願いすると、

「そこまで言われたらね、今日の所はこの辺で勘弁してあげましょう」

と祭もいい笑顔で返してくれた。


「ああ、ホノカだけいい子になってずるい、私も勘弁してあげるからねぇ」

谷も笑顔で返してくれた。単なるおふざけだろうが変な空気にならずに済んでほっとした。



「これが私達3人で再現した最初の料理だよ!」

泉がテーブルに並べてくれた料理は、昨日の料理に比べれば品数も少ないしボリュームも物足りないが、見慣れたハンバーグと野菜炒めだった。


「ご飯はないらしいんだよね、パンもさすがに昨日の今日だから間に合わなかったけど、酵母は作れそうだから乞うご期待ってことで」

祭は意外と料理はできるのか、酵母のつくり方まで知っているようだ。


「へぇ酵母も作れるんだ、祭さんってすごいんだな」

「へへぇ、もっと褒めてもいいよ、こう見えても料理は得意なんだ、お家でもよく作ってたしね」


「うぅ、ホノカばっかりずるい、私だって手伝ったもん」

「そうね、ハンバーグを捏ねたりしてくれたよね」

いじけそうになった谷を泉がフォローするが、それはフォローになっているのか?


「まあセリナもこれから覚えればいいんだし、料理だったら私に頼ってよね」

「うん、悔しいけど料理はホノカに勝てないから教えてもらう」

祭と谷はいつもこんな感じなのか、あっさり話が付いてしまった。


料理は主食はなかったが、その分ハンバーグがたっぷり用意されていて大満足だった。


「はあ、美味かったよ。昨日の料理がずっと続くかもって思ってたからな。祭がこんなに料理が上手いとは思わなかったよ、ごちそうさまでした」

俺が大満足な顔で祭に礼を言うと、なぜか少し顔を赤くした祭が返してくれる。

「べっ、別に桂のためだけに作ったんじゃないし、でも喜んでもらえてよかったよ」


「あぁっ、ホノカがツンデレってるぅ!」

「うるさいっ!誰がツンデレだよ!」

「祭さんも桂君の魅力に気づいちゃいましたね」

「あぁやっぱり世奈ちゃんもカツラのこと好きなんだぁ」

「セリナ、"も"ってことはあんたも嫌いじゃないってことね」

「えっ、え、でもホノカも顔真っ赤じゃんかぁ」


女3人寄ればなんとやらというが、さすがにこの状況に男一人はつらい。

しかもその話の内容が俺に対する好意がテーマならなおさらだ。


さすがにこっそり離脱は無理とあきらめ、話題を変えることにする。


「そういや聖の奴はどうしたんだ?」

「あぁ!話を変えようとしてるぅ!」

「まあまあセリナ落ち着いて。真也は昨日から見てないよ、部屋に籠ってるんじゃないかな?」

「確かに、桂君にマウント取ろうとしたら逆に馬鹿にされて、あの料理を食べるように嵌められて放置でしょ、さすがに合わせる顔がないんじゃないの?」

「世奈ちゃん、もうちょっとオブラートに包んであげようねぇ。でも夜中真也の部屋がなんかうるさかったよぉ、ストレスたまって遅くまで暴れてたんじゃない?」

「あいつは子供か、まあ別に会いたいわけでもないからどうでもいいんだけど、余計な事をしてないならそれで良いか」


「そのうち起きだしてくるでしょ、なんたって"俺は聖なる勇者ってところか!キラリッ"って言ってぐらいだからね」

「ぷぷぷ、"キラリッ"は言ってないでしょ、"キラリッ"は」

「そうだっけ?なんかすっごい王女様にアピールしてたじゃん、真也の奴」

「だよねぇ、あれだけわかりやすいアピールなのに王女様にスルーされてるし、ぷぷぷ」


「そういや王女も聖が料理を嫌がってるのは気づいてたって言ってたぞ、結構ノリのいい王女だよな」

「やっぱりぃ、気づかない方がおかしいよねぇ。でもそれじゃあ真也って完全なピエロじゃん」

「いいんじゃないの?王女様のために俺は聖なる騎士として頑張ります!キラリッ!って感じだし」

「ぷぷぷ、ホノカやめてぇ!真也の顔見たら耐えれなくなりそうだわぁ!」


思った以上に女子たちと仲良くなれた昼食を終え、俺は再び書庫に戻ることにする。

「それじゃあ俺はまた書庫に戻るよ、ごちそうさまでした。晩飯も期待していいよな?」

「もっちろん、ホノカさんに任せなさい!」

「ありがとう、楽しみにしてるよ」


俺は3人に手を振り書庫に戻った。

その後も泉が呼びに来るまで集中していたようで、呼ばれてから腹が減っていたのに気が付く始末だった。

そして、晩飯も女子に囲まれ姦しいながらも楽しい食事だった。



部屋に戻ると昨日と同じように泉が訪ねてきて、グレースの含めた3人で同じような夜を過ごした。

俺もまだ書庫の情報は聞かせられるほどまとまっておらず、割とどうでもいいような話で盛り上がっていたのだった。



そして翌朝、事件が起こった。

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