ゾンビになってもヒーラーちゃんは癒したい
「大丈夫ですか、旅の人」
私は野盗に襲われて死んだ、旅の商人を生き返らせた。
変に恩を着せない為にも、冷静を装って声をかける。
死んだとは夢にも思わない商人は、戸惑いながらも私に向かって笑顔を向けた。
「危ない所を助けて頂いたようですね。ありがとうございます」
「いや、あの……そんなに引っ張られてしまうと……あっ」
ボトッ……
握手をされ引っ張られた私の左腕は、肘から崩れて地に落ちた。
旅の商人の表情は、一気に青ざめていく。
「ギャーーーーッ! ゾンビだーーーー食われるーーーっ!」
「た、食べないですよー!」
私の返答も虚しく、走り去った。
また失敗か……
仕方なく、目立たない草むらで待ち構える事にする。
私は生前ヒーラーをしていた。
人の為を想い、無銭の民にも分け隔てなく尽くしてきたつもりだ。
だが、いつの間にか死んでいた私はゾンビになっている。
神よ……まだ私は御下に行く資格がないのですか?
ならば、神に迎えられるその日まで、私は人々を癒やし続けましょう。
例え、感謝されず驚かれようとも……
健気に尽くす彼女の事など知らない近隣の村では、森でゾンビが出ると噂になっている。
そんな馬鹿なと息巻いた村人は、度胸試しに何度か足を踏み入れた。
その度に、いいカモだと思った盗賊が彼らを殺し、毎度命を救っているとは夢にも思わない。
いつまでたってもゾンビの噂は絶えず、冒険者ギルドに討伐依頼が掲げられた。
近隣にダンジョンもない田舎の村では、有力な冒険者は訪れない。
それを見かねた村の若い男達がパーティを組み、討伐を名乗りでた。
「どうせ年寄りが見間違えたか、なんかだろう? 俺達が倒してきてやるよ!」
「日中にウロつくわ、会話もできるゾンビなんて聞いた事もねぇ」
「オラっちの鎌で、怪しい茂みは刈り取ってきてやるだ」
3人の男は意気揚々と村を出る。
近場にゾンビの噂があるのは森だけ、しかも報告例があるのは茶色いローブを着ている個体のみ。
ゾンビは群れをなしているものだ。
その知識がある若者達は、絶対に出ないと笑いながら街を出る。
それを彼女は心配そうに見つめていた。
あの人達……危ないわ。
また殺されて盗賊の餌食になってしまう。
こうなったら、私がついていってあげないと!
声をかければ逃げられる日々を送っていた彼女は、おどおどしながら若者達に声をかける。
「あの、私は旅のヒーラーで……アミルと申します。そんなに武器を構えて、どこに行かれるのですか?」
「綺麗なお姉さんに声をかけられるとは、嬉しいじゃん。俺らは、森に出る凶悪なゾンビを倒しに行く所さ」
「あぁ、村の年寄り連中が怖がっちまってよ」
凶悪なゾンビ……私は見たことないけど、そんな怖いモンスターがいるのね。
それなら、と同行する事を願い出ると、快く承諾してくれた。
ゾンビを見るのは久しぶりだけど、この人達が生きて帰れるようにと決心した。
森に到着して小さなゴブリンを倒しながら進む。
若者達は弱く、アミルは懸命に回復魔法を使った。
「ねぇアミルさん、さっきまで左手で杖を持ってなかったか? 疲れたならおぶってあげようか?」
「おまっ……てめぇ! 抜け駆けは許さねぇぞ!」
「フフフ……ありがとう。ちょっと左手が疲れただけなの。心配しなくて大丈夫よ」
私を気遣うように、3人は何度も声をかけてくれる。
神よ……この優しき者達に、光がありますように……
気づけば日も暮れて、森は暗く染められていた。
街道に出れば村まで楽に帰れると、若者達の意見がまとまった。
しかし、それでは盗賊の思うつぼだ。
「ねぇ、街道だけはやめましょう?」
「どうしてだい、アミルさん。目印も何もない暗い森じゃ、どっちに進んでいいかわからないぜ」
「ははぁ……ゾンビが街道で多く目撃されているのが怖いんだな。大丈夫だぜアミルさん! 俺が絶対に守ってみせる!」
「てめぇズリーぞ! 俺が守ってみせるんだ!」
私は献身的な若者たちに心を打たれた。
神よ……どうか、この者達の無事を。
「さあ、アミルさん。ここは小川があるから危ないぜ。手を貸すよ」
「いえ……その……、大丈夫です。このくらいは1人で渡れますから」
「おめーは好みじゃないってよ! 俺に掴まんなアミルさん」
「いや、俺が」
「ばっか、俺だろ!」
なんて献身的なんでしょう。
でも、どうか私の手を掴まないで……
その願いも虚しく、3人別々にグイッと引っ張られた。
両手、両腕がボトボトと地面に落ちていく。
「あっ……」
「いつの間に可愛いアミルさんと入れ替わったんだ。こ……こ、この化け物め!」
「く、食われるぞーーーっ!」
「かーちゃーーーーんっ!」
勘違いされてしまったけれど、私の言いつけ通り暗い森を通って帰ってくれた。
無事を確認する為に、急いで追いかけないと。
どうにか見つけた若い男達は、全員殺されてバッグを奪われている。
早く処置をしないと、復活魔法が効かなくなってしまう。
両腕が落ちてしまったけれど、悩んでいる暇はない。
私は決心して3人を生き返らせた。
「みんな、大丈夫かしら?」
「ゾンビに襲われたと思ったら、盗賊に追いかけられてさ……」
「でも、夢だったのかもな。俺達全員生きてるしさ」
「ヒーラーのアミルさんがいれば、怖いもんなんてないな。ありがとうアミルさん!」
「ごめんなさい、今は私に触らないで……!」
言った時には頭が転げ落ちていた。
回復魔法を使うと体が崩れ落ちてしまう弊害は、今度は首に出たらしい。
「ギャーーーッ! やっぱりゾンビー!」
「逃げろーーっ! 食われるぞー!」
「ま、待ってくれよー、みんなー!」
「た、食べませんよー!」
どうにかカンで頭をつけ治し、両手をつけなおす。
接合部をしっかりする為にも血を飲まないと……
あら、丁度よく馬の死体が街道にあるわ。
私は馬の魂の安寧を祈った後、滴る血を手ですくって飲み始めた。
よかった、どうにかくっついてくれたみたい。
一安心したと思ったら、後ろから声をかけられる。
「あの……もし? 大丈夫ですかお嬢さん?」
「えぇ、何の問題もありませんわ」
振り向くと、商人らしい男の顔が真っ青になった。
「ギャーーーッ! 殺して血を吸うバケモンだあーーっ!」
「こ、殺してませんよーっ!」
またしても勘違いされてしまった……
私に敵意が無いと気づく方は、いらっしゃらないのでしょうか。
……これも神の試練ですね。
眠れぬ私は、今日も街道を見張って夜を明かす。
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