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滋丘透の魔術奇譚  作者: 安住ひさ
5章 変転の兆し
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5章 変転の兆し①

 いつもの不愉快な青い火の夢。だが、その光景の詳細はいつもと何か違っている。

 見よ。……だ。今ここにこそ……がある。

 そいつは薄っすらと笑みを浮かべていた。人がぼろ布のように崩れ落ちていくというのに、人が苦渋の顔をしているというのに、まるでそれが自らの至上の至福であるかの様に。

 そいつと目が合った。何の変哲も無い筈なのに、全身が逆立つ程の、恐ろしく不愉快な目。自分は、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなかった。

「安心せい。私は君に何もしない。何故なら、私はこれに大変満足しているからだ」

 ゆめゆめ忘れるなよ、そいつはそう言って煙の様に消えてしまった。


 透は逃げるように目を覚ました。

 何故、人は悪夢を見るのだろうか。透はもやもやした頭を抱えながら考える。わざわざ人体に良くなさそうな悪夢を見せても、当人には悪い影響しかもたらさないだろうに。

 ひょっとすると、自分の体の中には自分とは別個の意思が存在していて、それが自らの生存のために見せているのではないだろうか。しばしば体が当人のためにならない事をするのは、そのためではないか。

「はあ、馬鹿馬鹿しい」

 透はそんな妄想染みた考察を頭から振り払い、汗で額に張り付く髪を払いながらもそもそと起き上がった。


「イツキ、ごめん。ご飯ある」

 透は居間に着くなり、以前と変わらず本を読んでいたイツキにそう言った。

「ええ、無論です」

 透がテーブルを見ると、フルーツヨーグルトとジャムのサンドイッチ、そしてサラダが置かれていた。

「いつもありがとう」

「いえ、居候の身ですから」

 透は冷蔵庫から豆乳を取り出してコップに注ぎ、テーブルに着く。

「私、甘かったわ」

「昨日の件ですか」

「そうよ。あまりにも自分が甘くて後手後手に回っていた事を思い知った。お陰様で土門君や学校の生徒を巻き込んじゃったし、里中さんが、刺されちゃった」

「まさか、貴方のせいではないです」

「でも私が中途半端でなければ」

「いえ、仮に貴方がこれまでの学校生活を全て投げ売って全力を尽くしていたとしても、あれは防げませんでした」

 透は唇を噛み締める。イツキの指摘はもっともであった。あれは最早、一介の魔術師が事前に防げるものではない。

 異界化、と姫子は言っていた。同じようでいて、全く異質の空間を広範囲に作り出すそれは、結界とはわけが違う。そんな事が出来るのは、人外の領域にある者だ。集団で神隠しに遭ったという話を極稀(ごくまれ)に聞く事があるが、この真相の一つが異界化なのかもしれない。

 透が後で聞いた話だが、姫子はアーサーの行方を追う道中で法水京一郎を見かけ、それを不審に思って尾けていくと、学校で異界化に巻き込まれたのだという。学校上空を飛び回る烏の一件も、彼らの仕業であったらしい。姫子曰く、異界化のために使い魔を放って土地の霊脈を調べていたのではないか、との事だった。

「ごめん、私は未熟ね。せめて感情のコントロールくらいは出来るようになりたいわ」

「トオル」

 透は頭を振った。

「ねえ、イツキ。あの二人組の事を調べておいてくれないかしら」

「法水京一郎と、クロエ、でしたか?」

「ええ。きっとあの二人の目的もタルタロスでしょう。いいえ、たとえそうでなくとも、目的が何なのかは知る必要があるわ。あんな事を平気でするなんて、危険過ぎる」

「はい、承知しました」

「それで、話は変わるけど姫子さんは?」 

「呼びました?」

 居間の入り口から声がした。透は咄嗟に入り口の方を見る。

「え、姫子さん? 何で、早朝から家に」

「あら、私がいたらいけない?」

「いえ、そんなつもりじゃ」

 透は思わず目を伏せる。その様子を見て、姫子は口に手を当てて微笑む。

「ごめんなさい。平たく言ってしまうとなりふり構ってられないと判断したからよ」

「どういう事、ですか?」

「そのままの意味よ。携帯でも連絡は取れるけど、やっぱり、こっちにいた方が何かと都合がいいかと思いまして」

「それはそうですが」

「やっぱり、私がここに滞在するのは嫌?」

 少ししゅんとした面持ちで姫子は問いかけると、透は慌てて首を振って否定する。

「いえ、とんでもないです」

「じゃあ決まりね。今日の夜からこちらの方にお邪魔させていただくわ。そういうわけだから、よろしくね、透ちゃん」


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