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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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すれ違い

父の墓参りが鎌ちゃんの日課になっていた。

今日も雨か。鎌ちゃんは外を見て下を向いた。稽古が終わると清吉が営む鍼灸院へ通う日々を過ごしていた。


雨の中を歩くのはあまり好きじゃない。急に伸びた膝が少しだけ痛むから。


それでも稽古に励むのは、今まで世話になった全ての人に喜んでもらう為。


清吉の側にはいつものように清花がいる。


もう出来ないかもねと話し合っていた2人だったが、いま、清花のお腹には赤ちゃんがいる。


その事を知ったのは何回目かの父の墓参りに行った時だった。何か用事で外に出る機会があると必ず墓に寄って帰っていた。


その時に寺に和尚に会いにきたこの2人と会ったのだ。会いにきた理由は赤ちゃんができたという報告だった。


和尚はそれを喜んで、黙っていられなくて鎌ちゃんに話してくれた。まるで孫が生まれてくるのを待っているおじいちゃんのようだとも思ったが、和尚はいつも妖艶で綺麗で、鎌ちゃんはつい見とれてしまうのだった。


父さん会いに来ているはずなのだが、和尚に会いに行く口実のようにも思ってしまう。


その事を鳳翔山に打ち明けたらこう言った。鎌太郎の中にある悲しみを少しでも和らげる為に、和尚は気にされているのだろう。鎌太郎の父を思う悲しみが和尚と話す楽しみになったのなら、お前の心の傷も癒えてきたんじゃないかな。


鎌太郎は、それを聞いて、頷いた。


父が亡くなった悲しみを癒してくださった。和尚に会いに行くのは父を思って悲しむのをやめる為なのかもしれない。鎌ちゃんは父に会いに行き、心の中でいろんな事を報告した。その報告はいつしか和尚が聞いてくれるようになっていた。


まるで父と話しているようで、楽しい。


和尚もまた鎌ちゃんを息子のように迎えてくれる。その温かさがこの寺にはある。だからかはわからないが、この寺にくる人に悪い人は居なかった。


鎌ちゃん、だいぶんと背が伸びたわね。それにお相撲さんぽくなってきたわね。


清吉に施術を受けていると清花が清吉に話しかけている。清吉はニコニコと笑い、


そうだろ!鎌ちゃんお相撲さんみたいになってきただろ。清花、あんまりうろうろしてコケるなよ。


大丈夫よ!コケたりなんてしないわよ!


と言いながら、何かに躓いて転びそうになっている。


ほら危ない!


清花は舌を出して反省して大人しくなったのだった。


秋場所が初土俵か。清花のお腹もその頃には膨らんでいる頃だろうか。見に行きたいのは山々だけど、すまないね。鎌ちゃん。その代わり、私は鎌ちゃんの贔屓になるからね。


鎌ちゃんは膝に針を刺されながら、ありがとうございますと礼を言った。


2人に見送られ、鎌ちゃんは清吉の鍼灸院を後にした。


いつものように寺に来たが、この日は客人が来ていて、和尚には会えずじまい。仕方なく、墓に寄り、父に今日あった嬉しかった事を心の中で報告したのだった。


帰ろうとして、ふと見た先に馬がいた。灰色の毛に黒のたてがみをした綺麗な馬。繋がれていないその馬は草を食べている。客人の馬だろうか。


また今度来た時に和尚に聞いてみよう。


鎌ちゃんは鏡山部屋へと帰っていったのだった。

アオに乗って寺を訪ねてきたのは紛れもなく鎌ちゃんの父だった。

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