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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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父との別れ

和尚の寺で現実と向き合う鎌太郎。

江戸に戻った鏡山親方の出迎えよりも先に女将さんは鎌ちゃんの元へ急いできて言った。


鎌太郎のお父上様は湯本八十五郎というお方で間違いはないわね。


はい。父の名に間違いありません。


井伊家のお殿様が暗殺されたことは知ってる?


それはいつですか?


ちょうど3日前よ。鎌太郎、言いにくい事だけど、あなたのお父上もその中に居たようなのよ。


父上が。亡くなった。。それで父上は今どこに?


鳳翔山が育ったあのお寺に。あのお寺の和尚は引き取り手のないご遺体を引き取って供養をしてくれるからねぇ。こっちに来てまだ間もなかったものね。


その話を聞いていた鏡山親方が鎌太郎に、今から行くか。と言った。


鎌ちゃんは帰ってすぐだったが、その足で1人和尚の居る寺へと向かっていた。


もう会うことはないだろうと思っていたが、会わないのと会えないのでは全然違う。


もう父上に会えない。会いたくても、会えない。


父の手紙に書いていた。ワシは聡太郎に会いたいと。


父のそんな願いにも答えてやる事が出来なかった。頰まで落ちた涙を鎌太郎は手縫いで拭う。


父上、私も父上にお会いしたかった。


寺に着き、和尚に事情を話したら、和尚は墓に案内してくれた。その墓は名もない人々が大勢入った墓だった。


知らないとはいえ、こんな所に入れてしまった。鎌ちゃん、すまない。ご遺体は三体あった。全て焼けて髑髏になっていてね。誰が誰かわからなかった。


父上だけではなかったのですか。では弥太郎も。

お民も。父上、1人なら天国の母上と会えたのに。


鎌ちゃん、きっとお父上様は母上様と会うことができるよ。大丈夫。


それなら良かった。


そう言うと鎌ちゃんは両手を合わせたのだった。


あ、雨ですね。


そういえば鎌ちゃん、大阪から今日戻ったんだったね。疲れてるだろう。落ち着いたらまたおいで。これからはここに来たら父上にお会い出来るからね。


和尚、ありがとうございます。


礼を言って鎌ちゃんは鏡山部屋へ帰っていった。


ポツポツだった雨の音がザーッと聞こえだしてきた。


傘に落ちる雨音がなんだかとても悲しく聞こえる。傘をさしてなかったら、この涙のあともわからないのに。


さした傘をたたんでみる。


たちまちずぶ濡れになった。だから涙のあとはさっぱり消えた。ただ父に会わなかった後悔だけが重く心に残る。


それでも雨は止むし、やがて太陽が顔をだす。


止まない雨はないのだから。


明日は必ずやってくる。鎌ちゃんの初土俵の日も近いのだった。







初土俵に向かって頑張るしかない鎌ちゃんだった。

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