お殿様のお忍び
山道を行くお殿様は何をおもう
山道のなか、二つの駕籠屋が走り抜けていく。
聡太郎が生きているのか。。。良かった。
ここ一年、幾度となく聡太郎が帰ってくる夢を何度もみた。でもその姿はいつも、小さな手をした小さな子供の頃のまま。ただいま、父上ー!
そう言って走ってくる姿ばかり、あれから十数年経つというのに。
お殿様は籠に揺られながら自分の愚かさに胸を痛めていた。
この山道をあの子はどんな気持ちで歩いていたのだろう。ワシの事をどんな風に思っただろう。1人、この道を行く我が子を想像したお殿様は、駕籠屋に止めてくれと頼んだ。
二つの籠が止まったのはちょうど坂を登りきったところだった。
籠から降りて、辺りを見回してみれば、ただただ木々が生い茂り、ただただ静寂が広がる。少し歩いてみたら、自分の足音がやけに大きく聞こえた。
大人でも、こんな山道を歩くのは1人では恐ろしいと感じる。ましてや夜になるともっと恐ろしい。
引き返さずにこの道を行く聡太郎を想像したお殿様は、優しく弱い子だと思っていたことを惜しく思う。本当は優しく、勇敢な強い子だとこの時初めて気がついたのだった。
立派に、ワシの子。ワシの跡取りになる子は聡太郎をおいて他にはおらぬ。
お殿様、先を急ぎましょう。
そうじゃな。急ごう。
麓に降りた頃、二つの籠が走り抜けていくのを、鎌ちゃんは鏡山親方と一緒になんとなく目にした。
風が通り過ぎていくようにそれはとても速かった。
あんなに急いで何処へ行くのか。
たいしてそんなに気にはならないが、鎌ちゃんはなんとなくその籠を見ていた。
夕霧の旅籠に着いたお殿様は、、、