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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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カゲロウの死

お殿様が江戸へと旅立つ日を迎えた

季節は早いもので、あれから20日ほど経った。


鎌ちゃんと鏡山親方は春場所が行われる大阪へと旅立った。お雪の祝言には顔を出すことはなかったが、鎌ちゃんは湯本家の近くまで行って、小高い丘の上から見ていた。


白無垢姿のお雪の姿が小さく見えて、鎌ちゃんはおめでとうと呟くとそのまま旅籠に帰っていった。


兄の部屋の襖の母の絵は掛け軸になることはなかった。父であるお殿様がお雪から母の絵を掛け軸にして兄へ差し上げたいと言ったが、その話を聞いてやめさせたのだ。


この家に居てこれから先も見守ってもらいなさい。きっと母もここに居たいに違いはない。そうでなければ最初から掛け軸にしていただろうて。


のぅ、お雪。そうではなかろうか?


お雪は父の言葉を聞き、そうだなぁと頷いた。母上はここで私達を見守っていたかったのかもしれない。


伊助が探して連れてきた掛け軸職人はすることが無くなってしまったが、それを知ったお殿様は、自分の描いた椿の花の絵を掛け軸にしたのだった。


あんまりうまくないその絵を見て、掛け軸職人はこれぞ私の腕の見せ所だと張り切り、1番高い掛け軸を仕立てあげた。


それを見たお雪と伊助とお殿様は、まあまあ形になったと言って喜んだが、その値段の高さに驚いて笑ったのだった。


祝言は無事に終わり、お民と弥太郎を連れ、お殿様は江戸へと旅立つ日が来ていた。


お殿様はお雪に伊助と2人、どんなことがあっても生きぬくのじゃぞ。わかったな。と言って、少し泣いていた。


お雪は父が泣いているのを初めて見た。母上が亡くなったのはお雪がまだ生まれたばかりの頃。それから父は1度も泣かず生きてきた。その父が泣いている。


お雪、元気な子を産むのじゃぞ。父は草葉の影から見守っておる。さらばじゃ。


父に付いて大勢の家来たちも一緒に付いて行った。残ったのはほんの数名の家来と女中だけだった。


すっかりガランとした屋敷に、お雪と伊助は少しだけ安心していた。


もう命を狙われることもない。


とそう思っていた時だった。


だーっと刀を抜いてこちらに走ってくる者がいた。伊助はその男に斬りかかられる寸前、


間に入った者がいた。カゲロウだった。


伊助は刀を抜いてその者を切り捨てた。


旨を貫通されたカゲロウは、その場に倒れて動かなかった。伊助の切り捨てた者は弥太郎の従兄弟でお民の甥だった。


カゲロウ!


伊助?怪我はない?


ああ、無い。


お雪さまも?


無い。無事だ。すぐ医者を呼んでくる!


立ち上がろうとした伊助にカゲロウは頼りなく笑って首を横に振った。


これでやっと死ねる。


カゲロウはそう言い残しそのまま息を引き取った。


お雪には何がなんだかわからなかったか、目の前で2人の命が亡くなった。


顔面蒼白になり、その場に立ち尽くしているお雪に伊助は言葉なく、ただ抱きしめていた。













お雪の目にはどう映る

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