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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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鬼の民

お民は悪者です

湯本家のお正月はあっという間に過ぎ、もう一月も半ばを過ぎていた。外は相変わらず真っ白な雪が冬の寒さを告げる。


時折、晴れ間ができると日差しが思っていたよりも暖かく感じる。


お殿様の新年早々のお雪と伊助の祝言の話に、1人落ち込む男がいた。


お民の親戚の子で、弥太郎と年も近い事もあり、湯本家によく遊びに来ていた。そして、いつもお雪の事をみていた。


この家に遊びにくるのも、お雪が居たことが大きい。


そのお雪が祝言を挙げると聞いて落ち込んでいる。お雪と祝言を挙げるのは自分だと、どこかで思っていた。


お民もよく言っていた。おまえがお雪と夫婦になってくれたらこの家は安泰だと。


そう言ったお民の思惑通りにはいかず、お民もまた、この家を離れ、江戸の町へ行かなくてはならないことが不服でしかなかったのだった。


まさか私がお殿様に付いて江戸へ行くなどと、考えてもいなかった。


ただ弥太郎と2人、江戸へ行くものだと思っていたのに。


この家から追い出されるようなもの。そうならない為に良い知恵は無かろうか。


何か良い手があったなら。


自分の甥である五十六がお雪の亭主になれば、


江戸から帰ってきてからここに住むことができる。


何か良い手はないだろうか。


あ、そうだ。


あの手がある。


伊助が病いの床につき、最後は亡くなれば、お雪の亭主は居なくなる。


そこへ五十六を亭主として迎えさせればいい。


お民はこういう時の為にと1人、大事な女中を抱えている。その女中の名はカゲロウ。


もとは甲賀の生まれで毒の扱いにも慣れている。


亡くなっても誰も怪しむ者は出ないだろうと、お民はさっそくカゲロウを呼び寄せた。


話を聞いたカゲロウは、言葉を詰まらせ息をのむ。伊助を病いの床に就かせ、殺せという。


今まで何の為に雇っていると思う?


お民の笑みに、カゲロウはわかりましたと言うしかない。


それではと、すぐにその場を離れたカゲロウは、先日のお殿様の話のあと、伊助と会い、話したことを思い出していた。


お殿様にお雪の事を頼まれたと。生まれてすぐに母親が亡くなった。それからずっとお雪には兄以外に頼れる存在がなかった。その兄は今はここには居ない。最近になって、父のお殿様と親子らしくなったのに、父は江戸へ行かなくてはならなくなった。お雪の支えになってやってほしい。守ってほしい。


そう頼まれた。カゲロウ、私はお雪様をこれから守りたいとそう思っている。


カゲロウは、その伊助の言葉を聞き、自分は江戸へ行こうと決めたところだった。


他の人ならば殺せたかもしれない。けれど、いくら命令でも、伊助を殺すわけにはいかない。お雪様から母親を奪ったのは自分の毒のせい。仕事だからと割り切ってはいても、お雪や聡太郎をみるのはとても辛かった。


もう、あんなことはしてはいけないと、カゲロウはクノイチを辞め、お民のもとで、女中として働いていた。


働くんじゃなかった。


呟くように漏れた声を残し、カゲロウはその日を境にお民の側から姿を消したのだった。







カゲロウが居なくなった。お民はどうでる?

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