お殿様の報告
お殿様が皆に言う。
伊助はラクを小屋に戻して濡れたラクの足を拭いた。そういえば、ラクの足、太くなってる。
拭き終わると伊助はラクに、
じゃあ行ってくる。と声をかけたら、ラクは聞いたことのない声で返事をした。
初めて返事してくれたな。
お雪には返事をするのに伊助にはまだ一度も返事をしてはくれなかった。もう返事してくれないのかもしれないな。そう諦めていた時の、ラクの聞いたことのない声での返事は、とても嬉しいのだった。
伊助は自分の部屋に戻り、衣服万端整えるとお雪の待つ部屋へと急ぎ、お雪のいる部屋の前まで来た。
お雪、おまたせしたね、迎えにきましたよ。
はい。
障子がスーっと開く。その開く指さえも今は愛しい。
では行きましょうか、お雪。
はい。
少しうつむいて頰を赤らめながら伊助の後を付いてくる。
お雪、顔が少し赤いですね。どうしたんです?
顔を覗き込んで聞いてくる伊助を見てお雪は、
もう!見ないでよ。もっと赤くなってしまう。
言ってる側から首まで赤くなってるのを、伊助は嬉しそうに見つめていたのだった。
見ないでって言ってるのにぃー。
お雪は1人早足になって、伊助を置いてお殿様の居る屋敷の1番広い部屋に1人先に入ってしまう。
待ってー、お雪ー。と伊助もあとから入っていった。
来たか。もうみんな集まっておる。お雪はこちら、伊助はこちらじゃ。
お殿様の並びに2人は並んで座っている。そしてその向かいに、家来、女中、板前まで、この湯本家に居るものが一同に集まって座っている。もちろん弥太郎もお民もそこに居る。
この度、ここにおるお雪と伊助が祝言を挙げることとなった。伊助なのじゃが、ワシの養子になるゆえ、聡太郎、弥太郎と義理じゃが兄弟とする。
そしてこの湯本家のことじゃが、ワシとお民と弥太郎は、春には井伊家のお殿様と共に江戸へ向かう。だからのう、この家を伊助とお雪に分家として分け与えることとする。
書面を書いてそれを桐の箱に入れると伊助とお雪に渡した。
お民には苦労をかけるがこのワシと弥太郎の為、江戸で新たな生活を始めようではないか。きっと楽しいのぅ。
お民ははい。と嫌そうな顔で返事をした。
弥太郎よ、そなたはもう名を変えなくとも良い。井伊のお殿様の許しはもうこうしてほれ、書面にて書いてある。
これにて一件落着じゃ。
この家に残る者は、伊助とお雪に任せるゆえ、頼みおく。
これにてワシの話はお開きじゃ。
わーっはははわーっははは。
と、お殿様はそこで皆が揃ったからと、新年のあいさつに幕を閉じたのだった。
お殿様は皆に言ったのだった。




