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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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夕霧の不安

別れに前向きなお殿様の思いは重かった。

さすがにそろそろ離れの部屋でくつろぎたい。


お殿様はまた自分の部屋の前までくると、静かに戸を少しだけ開けて中を覗いた。


、、、。


やっぱり居る。ずーっと居る。何故か道蔵がいる。お殿様はまた、夕霧の部屋へ行くことにした。


夕霧の部屋へ来るなりお殿様は夕霧に、


また居たー。道蔵がまた居たー。


と言うのを見て夕霧はワハハワハハと笑っている。


笑い事ではないわ。何故あやつはワシの部屋に来るのじゃ?もう、ワシあの部屋で寝れないではないか。


あと何日です?


そうじゃなぁ。。お雪と伊助にも話ができたし、夕霧ともこうして毎晩会えた。もう思い残す事は無い。あと一晩泊まって帰るとするか。


雪がまた降ってきましたね。山道も超えて帰るのも大変でしょう?雪が溶けてなくなるまで居てくださいな。


それは本心かな?


夕霧は黙って下を向いた。


本心です。


小さな心細い夕霧の声が寂しいとは言わずともお殿様の心に響く。ここから出たらもう二度とは会えない。何もそのような事は口にしてはいないが、言わずともわかる。


出来ることならばこのままここに居てくれたらと思う。


しかし、これから益々寒くなって、帰るにはもっと厳しさを増してゆく。降り始めたばかりの雪はまだそんなに厳しくはない。


夕霧、ワシは明日1日ここで世話になり、明くる日には帰る。そなたと最後に会えて、ワシは幸せじゃ。


私もお殿様と一緒にこうして過ごせて楽しかった。


今度、そなたと会えるのは、きっと来世じゃな。ハハハ。


どうでしょう?


そんな事を言うでない。会うのじゃ。きっと会うのじゃ!


来世は私は男かもしれないし。


そんな事を言うでない。夕霧は女で生まれてくるのじゃ。きっとそうじゃ!


来世の話を持ち出して、会いたがる。そんなお殿様がズルイとも思うし、かわいいとも思う。ただもう二度と今世では会えない。そんな今生の別れにお殿様はここへ来た。夕霧に会う、ただそれだけの為、ここへ来たのだった。


この先に何があろうともこれだけは忘れるでないぞ。ワシはそなたを愛している。


お殿様、、、。その言葉はあまりに辛い。別れる人にそんな事を言ったら酷ですよ。お殿様しか愛せなくなるじゃないですか。私、1人残されて、寂しいじゃないですか!


大丈夫じゃ、夕霧。ワシは死んだらここへ戻ってくる。そして夕霧が死ぬまでずっとそばにおる。そなたが死ぬまでワシはずっと一緒だ。


死ぬとは限らないじゃないですか!それにここへ戻って来られても怖いですって!いくらお殿様でもそれは怖い!ちゃんと死んだらあの世を行ってくださいな!待つなら三途の川にしてください。


もしここへ戻ってきたら、塩まいて追っ払ってやる!


夕霧、そんな事を言うでない!ワシはずっと死んでも側におる!


だから怖いって!


怖がるでない!ワシだぞー!怖いわけなかろうが!


いや!怖い!


夕霧がそこまで怖がるなら、仕方ない。三途の川で待つとしよう。何年も何十年も待つゆえ、きっと夕霧はばあさんになって誰かわからんな。


じゃあ待たないであの世とやらに行ってしまえー!


そんな事を言うでないー!ワシも言い過ぎた。すまぬ。夕霧はばあさんになってもきっと綺麗じゃ。すぐにわかる!


ホントかなぁ。怪しいわ。お殿様、綺麗なばあさん見たら全部私だと思って付いて行っちゃいそうね!しかも、あの世には鎌ちゃんとお雪ちゃんのお母さんが居るんじゃないの?お殿様の事、きっと待ってるわよ!どうするの?


いかん!そうじゃった!困ったのぅ。夕霧、どうしよう?


そんなの知らないわよ!お殿様のバカ!


そうじゃな。ワシはバカじゃ。ホントにバカ。ワシのバカバカバカバカ!


アハハハ。大丈夫。私、お殿様の事、ちゃんと死んだらこの屋で待ってますから。私と一緒にあの世に行きましょ。そしたらお雪ちゃんたちのお母さんもきっと思いますよ。


あんなばあさん連れて、、、。お気の毒さまって。


そうじゃな。そうしような。ワシは死んだらここへ戻ってくる!


あ!私の前の亭主は怒らないかしら?


そこはそれ、ワシはお殿様だから、話はつける!


どんな話をつけるのかは知らないが、そんな話をしていたら、お殿様と別れる事も少しは寂しくはなくなった。


きっとこれは自分のことを悲しませないようにお殿様が考えた嘘だと夕霧は思っていた。


でもお殿様は真面目に、真剣にその事を話し、考えていた。


そして今夜も空が白んであたりが明るくなってきていた。


夜しか会えないけれど、その時間は2人にはかけがえのない日々だった。





お殿様はたぶん真面目。

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