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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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お盆

お盆の季節。


盆が近づくといつもお雪は母の眠る墓へは行かず、聡太郎の部屋に母に会いにくる。


というのも、この部屋には母が生前に狩野派の絵師を呼び描かせた自画像が襖にある。


その襖の絵はお雪にも、兄にも、ただの絵ではなく、母そのものだった。


お雪が生まれてきてすぐにあの世へ逝った母と1度も言葉を交わしたことも、抱かれたこともないけれど、この部屋には母がいつまでも居るようで暖かい。


お盆に亡くなった人の魂が帰ってきて、また旅立っていくという。けれど母上はずっと側にいるようでお雪にはあまりピンとこなかった。


生まれた日にはいつも手紙と贈り物が用意されている。亡くなる前にそれを母が揃えていて、それを女中たちが1年1年、渡してくれる。


母は居なくても、お雪はちゃんと愛情を感じることができる。だからお墓へは行かない。


母が好きな花をお雪は知らない。


どんな花が好きだったんだろう。。。


ふと夕霧の旅籠のことを思い出す。部屋に着いてすぐに目に留まる庭から部屋へと目を向けると、小さな可愛らしい春の花々が生けられていた。


そういえばそれは兄上が生けたんだとそう言っていたわね。


なんだかその花たちがお雪に元気をくれたから、自分も母上の為にお花を生けたくなった。


夏の花か。。。


夏は暑くて、朝顔の花や鳳仙花、あとは夏菊。ケイトウの花、花ではないけれどホウズキね。母上は何の花が好きだったのかしら。


庭に出て、それらを摘み、それを水盤に生けていく。


出来上がって、床の間に置いたら、部屋の中にも夏がきたみたいに明るくなった。


お雪を暖かく包むように、母の絵が暖かく見守っているようにそこにいた。


お雪様。と、役人が手紙と小さな巾着を手渡した。


中には小さな石けんが1つ入っていた。


お雪、毎日暑い日が続いているけれど、お元気ですか。先日、夕霧さんと道蔵さんと3人で、石けんを作りました。サザンカの実からできた油で作ったんだよ。お雪にも1つ持っていてほしい。兄はこの旅籠を離れていよいよ旅に出る。お役人も一緒に行きたいというのだけど、兄は断ったよ。何処へ行こうかやっと決まったんだ。


夕霧さんのツテで相撲巡業についていくんだよ。兄は明日からお相撲さんだぞ。じゃ、また手紙書くね。


まだまだ暑いから身体に気をつけて。


兄より。


お相撲さん?


はい。そうなんですよ。聡太郎様は世の中を見てみたいと選んだそこは、食べ物にも、寝るところにも困らない。だが、厳しい世界ですぞ。


兄上がお相撲、お雪にはお相撲になった聡太郎が全然想像もつかなかった。


















いよいよ旅立つ先も決まりました。

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