親子の旅
旅籠に着いたお殿様
お殿様が通された部屋は前に泊まった部屋とは違い、旅籠の部屋でも珍しい、小さな離れだった。
ここは生前、夕霧の旦那様がお茶会が開けるようにと庭の一角に作ったものだったが、一度も茶室として使われたことはなく、離れているから料理も運びづらい為、あっても無いようなものだった。
茶室らしく、小さな入り口を入ると、中には囲炉裏があり、そこに大きな鉄瓶が置かれている。
湯を沸かしてそれを使い、茶をたてる。
茶道具一式が隣の部屋に鎮座している。
なかなか変わった部屋じゃな。悪くはない。
気に入った。
気に入ってもらえて良かった。と夕霧はにっこり微笑んだ。
お殿様はその顔を見て言った。
夕霧、そなたのその笑顔に会いたかったのじゃ。もう最後になるやも知れぬ。
下を向き、寂しそうにそう呟いたお殿様の横顔が本当に寂しそうで、
ゆっくりしていって下さいね。最後になるならなるでいい。いまはこうして会えたんです。そんな寂しそうな顔をしないでください。お殿様らしくない。と言った夕霧も寂しい気持ちになってしまう。
それを察したお殿様は
そうじゃな。せっかく会いにきたんだものな。この部屋はまるで人目を避けるようじゃな。
と、お殿様は悪戯な目を夕霧に向けた。
白く細いうなじが少し赤くなるようで、夕霧は両の手で首すじを隠すと、もうすぐ道蔵が料理を運んでくるころです。用事を済ませたらまた来ますね。
と部屋を後にした。
それからしばらくして道蔵が料理を運んできてくれた。
道蔵が来たとたん、部屋の空気が一変して、部屋も明るくなったような気になる。
あ、そうか。頭が眩しいからじゃの!
は?何言ってるの?あたしの頭が眩しいって言ってるの?
そなたは明るくて良いのぅ。ワシは嫌いではない。
やだー。まだ夕飯時に口説くのやめてよー。仕事にならないじゃないー。もう!お殿様ったら!あとでね♡
え?
豆鉄砲食らったような顔したお殿様を残して道蔵は料理を並べ終わると部屋を後にした。
お殿様のいる部屋は全てがぐるりと障子で開けるとすぐ庭になっており、その庭を挟んだ遠く向かいに前に泊まった部屋がある。そこにはお雪が寝泊まりする。
お雪は夕霧に兄が書いた手紙を読んでほしいと言って渡した。
夕霧さんに会いたかったのもあるけど、この手紙を夕霧さんにも読んでほしくて持ってきたの。
鎌ちゃんからの手紙かぁ。お雪ちゃん良いの?
是非読んでほしくて。
わかったわ。じゃあ読むわね。
と、手にしたが、その分厚さに驚く。
と、お雪は、言葉にはしないがそうなんですと言うように、深く頷く。
つられるように、夕霧も深く頷き、手紙を持って部屋を後にしたのだった。
夜が来て朝がきて




