ラク、走る
走らないはずのラク。だがしかし
辺りは山道に入り、だんだんと薄暗くなってくる。天気も悪い。今にも降りそうな空の色を見上げ、少し急がないといけないと、伊助の足が速くなる。
こんな日に、まだ子供のラクが雨に濡れて体温を保てなくなって、動けなくなるやもしれぬ。
当のラクの顔はいつもながら穏やかで、遠くまで歩けることが嬉しそうにもみえる。
頂上を超えて、今度は山道を下って行く。
途中の山々は紅く色づき、下から見るととても美しい。
と、お雪の乗る籠が止まって、中のお雪が外へとでてきた。
そして、ラクに近寄ると、ラクちゃん、大丈夫?
とラクに問う。
ラクはまた聞いたことない声で返事をした。
伊助、私もラクちゃんに乗ってみたい。お役人と代わってもいい?
伊助はラクもその方がいいのかもしれません。
とお役人は、ラクの背中が気に入っていたのだが、鎌ちゃんが居なくなってから山道も歩く事がなくなったそのお役人のお腹は少し大きくなってしまっている。
籠屋の2人には悪いけど、とお役人は籠の中に乗り込んだ。
そしてお雪はラクの背中にあるコブの間に乗ってみた。
わぁ、ラクちゃんの背中はラクちんね!
ラクは軽くなった背中のおかげか、さっきよりもまた足が速くなった。
わぁ、下から見ると赤い色や、朱色やヤマブキ色が綺麗ね。
空を見上げると、雲間から少し太陽の光が見えた。
良かった。持ち堪えてくれそうだ。
伊助はまたラクの歩く速さをあげた。
ラクちゃんは確か走れないんじゃなかったっけ?
伊助の足の速さに合わせて歩くハズのラクは、小走りになっている。
こ、これは、もしや、、、
走り出したらきっと止まらないだろう。いつ、どこでどうやってとめればいい?馬と同じでいいのか?
しかしラクは頭の良い子。
このまま小走りのまま麓まで行ってくれるかもしれない。
と思った伊助の考えとは裏腹に、明らかに速い。
もう伊助は全速力で山を駆け下りている。
ラク、ちょっと速い。
言ったところでラクはゆっくり歩かない。
伊助は仕方なく、ラクに飛び乗った。
ラクは飛び乗った瞬間、重たかったのか、だんだんと速度は落ちて歩きだした。
あー良かった。歩いてくれた。
お雪様、怖くはありませんでしたか?
ラクに乗っている背中に伊助の声が声が響いて聞こえた。お雪はただ、うなづき、下を向く。
もうすぐ麓に着きますね。そろそろ降りますね。
お雪はクビを横に振って、またラクちゃんが走ったらいけないから、伊助、降りちゃイヤ。
伊助はそれを聞いて、ワハハ。やっぱり怖かったんじゃないですか!と言って笑う。
うん。ちょっとだけ怖かった。ラクちゃん、ちょっとだけ怖かったよ。伊助、助けてくれてありがとう。ラクの背中はあったかいね。
そうですね。本当にあったかい。
ゆっくりと歩くラクの背中。ラクの表情はよくはわからないが、少しにんまり笑っているようにもみえるのだった。
旅籠まであと少し。




