清吉の恋
清吉の行き着いた場所は
朝はまだ降ってはいなかったが、空は今にも降りそうで、夜になる頃には大粒の雨が降りだした。
よく降ってるわね。
お雪は雨の音を聞きながら兄の手紙の続きを開いた。
朝がきて、また夜が来てまた朝が来た。ずっとその繰り返しで、清吉はふらふらになり、倒れるまで歩いた。
倒れて起きてまた朝がきて夜が来て。
ご飯を食べることすら気付かず、座り込んでいたら誰か知らない人が金を投げてきた。
それを拾って手のひらに乗せたら、またその手のひらに金が置かれた。
その金をくれた人を見上げて、清吉は泣きながらおありがとうございますと頭を下げた。
その金を持って1番安いご飯を食べた。
クシャクシャに乱れた髪と、土や汗に汚れた着物を着ている事にようやく清吉は気がついた。
河原へ出ると、着物を洗った。頭は綺麗に結い直せないが綺麗に整えた。
行くあてもなく、たどり着いたのは江戸のまちから少し離れた街の河原。
着物を乾かしているといつの間にか周りに自分と同じような人たちが集まってきた。
何を話すわけでもなく、ただ疲れきった身体をそこで洗ってそのまま眠る。
朝起きたら、みんなもう居なくなっている。
清吉は乾いた着物を着てその日も川原でただ川の流れを見ていた。
死のうと思えばいつだってこの川に飛び込めば死ねる。
清吉にはその死ぬことすら出来ないでいた。いま誰かに殺されたとしても、誰も何も恨まずにそのまま死ねる。
ご飯を食べなければいつだって死ねる。
ただ死ぬことは考えても死ねなかった。
な
街を歩くと知らない人が金や食べ物をくれた。
気がつかないうちに清吉はオコモに見えるほどの奈落の底へ落ちていた。
その生活をいつまで続けていたのかわからないが、夏が4回きて、冬が3回終わってた。
死ぬ覚悟ができたら死のう。
そう決めて、清吉の覚悟が決まる。よし!死のう!
そうして死のうとしたのだが、一つだけ心残りがあった。死ぬ前にもう一度、振袖小姓に会いたいなぁ。一目だけでもいいから見てみたいなぁ。
遠くから少しでも見えたらそれでいい。死ぬ前にもう一度だけ。
清吉は江戸を目指して歩き始めた。
飲まず食わず、もう倒れそうなほど空腹になりながら、歩き続けていた。
そして江戸の土地に入って、吉原の門をこっそりと見つからないように潜り抜け、建物の端に身を潜めながら振袖小姓の居る店の前までたどり着いた。
運が良いのか悪いのか、店のまわりに人だかりが出来ていた。
さあ花魁。小姓の声がそこいら辺りに響き渡り、この店からその声と共にお披露目の花魁道中が始まった。
この日、花魁になった女が1人いた。それは誰でもない。あの日清吉が身請けするはずだった振袖小姓の女の子だった。
端に居て、遠くから見るはずの清吉は、人に押され押されして、最後にドンと突き飛ばされ、その花魁道中のすぐ前に倒れてしまう。
周りの人々は汚いものを見るように清吉を見ていた。すぐに立ってその場を離れることが出来たら良かったのだが、もう立ち上がる体力すらない。
ふと顔を上げ花魁を見た清吉は、その花魁があの時の振袖小姓だとすぐにわかった。美しく綺麗な大人の女になったその姿を、清吉はただ見ていた。
花魁はその倒れた人が清吉だとすぐに気づいた。
花魁は清吉の前に通りかかると立ち止まり深々と頭を下げて、また何事もなかったように立ち去っていった。
人々が散らばってそれぞれの場所に散っていったが、清吉はもう立ち上がることも、這うことも出来なくなっていた。
死ぬ気でいたから、ここ何日も食べても飲んでもいない。何日も歩き続けたその体はもう、生きることをやめてしまっていた。
ただ清吉は、瞳の奥に花魁の姿を焼き付け、そのまま意識を失った。
お雪、
もう今夜はおやすみ。
兄はこれ以上今夜は書けそうにない。
、、、。
兄上、
私もこれ以上、今夜は読めそうにない。
2人はよく似た兄妹なのだった。
その頃、まわりの人人々は。




