清吉の恋
吉原にて
少し眠るのが遅くなってしまったわ。この日は特にこれといって何もない1日だったのだが、時間の経つのが早く感じていた。遅くなってしまったけれど、お雪はまた手紙の続きを読み始めていた。
清吉はその店で1番高い花魁を買ったけど、花魁は顔を出して、二言ほど話をすると、その場をあとにして帰っていった。
清吉は、ポカンとしたままその花魁を見送った。
そのあと、花魁についている小姓と呼ばれる年若な女の子が清吉の相手をしに部屋へと入ってきた。
この子は振袖小姓といって、将来は花魁になることが約束された子で、そうなる為の稽古や勉強をしている。まだ水揚げをしていない、女の子だった。
その子の話では、花魁というのは位の高い女郎のことで、会える事すら珍しいものなんですよという。花魁と一夜を共に過ごすまでには最低三回はここへ足を運び、大金を落として頂かないといけないのだと話す。
並大抵のお金持ちには手の届かないお方なのですよ。とそう教えてくれた。けれど、一度でもお金を払えば花魁のお客。もう他の遊女へ移り変わるなどという事も、このお店ではできないのです。
なるほどなぁ。そういうものなのか。
清吉は少し嬉しそうにそう言った。
女の人をお金を出して買って一夜を過ごすことをどうもよくは思わずにいた。男の最高の遊びだと、若旦那たちは言うが、どうもそんな風には思えない。出来ることなら逃げだしたかった。
なので、花魁を買って良かったと清吉は内心ホッとしていたそうな。
花魁の代わりにもう1人、留袖を着た小姓もいるが、どうしますか?と振袖小姓の子が言った。留袖を着た子はもう水揚げした後の子で、一緒に一夜を共に過ごすことができるという。
清吉はイヤイヤ、私は花魁と一夜を共に過ごしたいからやめておく。と断ったそうで、ならばとこの振袖小姓が話し相手になり、時はそのまんま長いこと過ぎたが、この小姓には不思議と初対面なのに気を使うことなく話ができたのだそう。
それからしばらくして、また若旦那たちからの誘いでその店へ行くことになった。
何度かそうしてそこへ通ったのだが、
花魁が顔を見せる事はそれから1度もなく、清吉も、一度しか見ていないその花魁の顔を、もうハッキリと思い出せないくらい、ここに何回も来ていた。
そのたびにいつも相手をしてくれるのは、あの振袖小姓の子だったので、清吉も、その子が部屋に入ってくるのが当たり前になっていて、いつも、決まって、
あーまた振袖ちゃんか。花魁にまたフラれちゃったよ。
と落ち込んだように言うのだが、内心は、良かった!今日も花魁じゃないわ。とホッとしていた。
こう何回も来ていたら分かると思うけど、花魁は清吉さんと一夜を共に過ごすどころか顔を出す気もないわよ。その気があればもう一夜を過ごしてるわよ。お金をドブに捨てているようなものよ?
と言う。
そんな客を逃すようなことを言っていいの?
と言う清吉に、小姓は、だって花魁が言ってたの!あの客は成金だから使うだけ使わせてオケラになったら諦めるでしょ。それまで振袖ちゃん、よろしくねって言ってたんだもん!
と言って何故か怒っている。
何故かその怒っている小姓が可愛く見えて、清吉はワハハと笑った。
確かに私は成金。お金の使い方もよく知らない。遊び方もわからない。けれどこれだけは言える。
私は1番になることが何よりも好きなんだよ。私はね、この町1番の唐物屋にもなれた。全ては自分だけの力ではないけれど、それでもね、こう思ってる。本当に頑張ったから1番になった。それは紛れも無い事実。
そんな一生懸命働いて貯めたお金なのにこんな所に使って勿体ないじゃない!
そうだなぁ。振袖ちゃんの言う通りだよ。それでもね、私は負けることが悔しかったんだ。若旦那たちに馬鹿にされることが悔しかった。だから、見栄を張ってんの。いつも1番金使ってさ、自分でもアホだと思う。
けどさ、見栄張りたいんだよね。不思議だ。振袖ちゃんには本音が言えるわ。何故か知らないけど。
清吉さんには親、兄弟はいないの?
小姓はなんとなく聞いてみた。
居るよ。でも小さな頃に捨てられて、それからは一度も会っていないから、生きているか死んでるかもわからない。もしも生きているならば、唐物屋に訪ねてきてはくれないかと思っているんだけれど、来てくれない。
捨ててしまったことを罪に思っているのかもしれないね。
恨んでないの?
と小姓が聞くと清吉は、
全然。むしろ会いたいよ。会ったら親孝行してみたい。
小姓はそれを聞いて言った。
唐物屋さんで売っているものが見てみたい。出来る事なら行ってみたい。
そう言った。吉原は門があり、その門をくぐって外へ出られるのは年期があけた遊女か、身請けされた遊女だけ。それ以外は死んで墓場へ向かうしかない。
みんな借金のカタにここに連れてこられたか、ここで生まれて1度も外へ出ず、ここで育ったかのどちらかしか居ない。
唐物屋さんのお店に行ってみたい。
清吉は、何故かその一言が気にかかったが、1人、その門をくぐって店に帰ったのだった。
お雪、
おやすみ。
、、、。
兄上、おやすみなさい。
いつになく、お雪はそう言うとぐっすり寝たのだった。
清吉の心に、小姓の言った言葉が耳に残る。




