兄からの手紙、定吉と清吉
幼少時の定吉と清吉の生い立ち。
今夜は風が少し強く吹いている。いつもなら鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえるのに。風が音を消しているのかしら。
お雪は行燈に灯をともし、分厚い兄の手紙を広げ、続きを読みだした。
その日はちょうど風の強い日で、そんな夜に外に出る人もいないだろう。ましてや捨て子など、ありえない。そう思っていたそうなんだけど。
風の音に混じって赤ちゃんの泣き声がどこからか聞こえてきたみたいなんだ。
外に出ると、風が辺りのものを吹き飛ばしている。外から飛んできたのか、バケツまで転がっている。和尚は辺りを探して、探して、ようやく縁の下にいる赤ちゃんを見つけた。
和尚がその赤ちゃんを抱いて帰ってくると、寝ていた筈の子供たちが起きて様子を見にきていた。
みんなこの寺に事情があって集まってきた子供たちだったけれど、ここにきて、和尚と出会い、一緒に暮らしていくうちに、明るくなってよく笑うようになったそうだ。また、同じようにここにきた子を自分の弟や妹のように可愛がっていたんだよ。
それは、きっと愛を知らずにいた子供たちが、ここへ来て初めて愛情をもらって、それが当たり前になって、同じように子供たちも誰かに愛情をあげることができるようになったんだろうね。
和尚はみんなと一緒にこの赤ちゃんを見てね、かわいいねー。と言ったんだって。
みんなもかわいいねー。て。赤ちゃんを家族として迎え入れたんだって。
この赤ちゃんが鳳翔山関。本当の名前は、定吉。
着物の端っこに名前が入ってたそうで、定吉。
この小さな定吉はみんなと違って赤ちゃんの頃にここに来たから、みんなから愛されて育ったって鳳翔山関がその頃のことを思い出して話すときはいつもニコニコしていたよ。
そのせいか、大きく大らかな男の子に育っていたんだって和尚さんが教えてくれたんだよ。
定吉が5歳になった頃に同じ年の子が一気に4人ここに預けられたそうで、その中に鳳翔山関の親友も居たそうなんだけど。
その子は他の子とは少し違っていたんだ。
その子はいつも1人でいることが多くて、その子は他の子たちとは少し線を引いていたそう。
その子の見ている先にはいつも和尚がいて、その子は和尚のことが大好きだった。みんなも和尚が大好きだけど、その子は和尚に1番可愛がられたかった。
和尚はみんな平等に愛情をもって育ててきたんだけどその子は1番じゃないと嫌だった。
名前は清吉。兄弟が多く、口減らしの為、ここへ連れてこられた子だった。
1番年上でもなく、末っ子でもなかく、殺伐とした生活の中で満足にご飯も食べられず、着物もツギハギだらけて、愛情を注ぐ事すら出来ないほど、生活が苦しくて親は泣く泣く連れてきたのだが、
その時に清吉に母親が言った。お前が1番可愛い。1番可愛いからお寺に行っておくれね。
1番可愛い。
その言葉が清吉にはいつまでもどんな時にも消えなかったそう。
でも和尚はみんな平等に育ててた。
そんな時、和尚はこの同じ年が重なった子供たちに勉強を教え始めて、たまにどれだけ覚えたかの問題を出すこともあったのだそうで、
和尚はみんなよりよく出来た清吉をこの時褒めたそうで。
そこから清吉は、1番になって和尚に褒めてもらうことが生きがいのように思ったらしい。
それからみんな大きくなり、清吉と定吉は同じ年で同じように吉が付いたので、いつの間にか仲良くなっていたけれど、
大きくなって、和尚に1番可愛いがられたいということはもうなくなっていた。
でも1番になる事は好きなままだった。
ただ、相撲だけは定吉には勝てず、清吉はよく、お前、相撲取りになったらいい。強くて勝てないわ。
と言って笑ったそう。
それからまた何年かして、定吉は本当に相撲取りになる為、鏡山部屋へいき、
清吉は、この寺で1番頭が良かったので、大きなお店へ奉公へいくことになった。
お雪、そろそろ寝なさい。
兄も今日はここまでで眠るから。
また続きは今度読むんだよ。
おやすみ。
、、、。
兄上、、、。
眠くなったのね。
風の音がゴオゴオと庭の木々を揺らす音がする。
サザンカの木は大丈夫かしら。もしかすると蕾はダメかもしれない。
けれど負けずに残っていてくれたならとお雪はおもうのだった。
これからどうなっていくのか。




