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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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サザンカの蕾

父上帰ってきました。

風が冷たい風を運ぶ、ここは湯本家の自慢の庭。


朝から雨が降って、ついさっきやんで、空は今は太陽が顔を出している。


旅立ってから1度も届かない兄からの手紙が、お雪には気にかかる。兄上は今どうしているのかな?無事にお相撲取りになっているのかしら?


不安になる。


しばらくの間、サザンカに灰を持って行ってはいない。枯れはしないだろうか。


心配になったお雪はサザンカの植わる庭に出てまた少し大きく太くなった幹を見た。植えた時から今までずっと太陽の光を浴びてまるで自分で光っているかのように葉っぱがキラキラと光っている。


元気そうね。とお雪はサザンカに声をかける。


あれ?


なんだこれ?


蕾?


よく見れば枝の先に葉っぱの間からいくつもいくつも蕾をたくさん付けている。


花が咲くのね。


とお雪は呟いてその蕾をそっと触った。


瞬間、蕾はその指でポロっと取れてしまった。


無闇に触ってしまったことを後悔し、ごめんなさいね、と小さな蕾に謝った。


花は儚い。


咲いても散る。


小さな蕾は少しの事で傷付いてしまう。

咲かないまま散る蕾だってある。


それでも立派に蕾を付けた小さなサザンカを、お雪はこれからも大切にしていくんだと心に誓うのだった。


兄上、どうかご無事でありますように。


お雪がサザンカに手を合わせていたその時。


お雪ー!ただいまー!


と父上の声が聞こえ、その方へ目を向けるとお殿様がラクダを連れて庭にいる。お殿様の横でラクダはずっと口をモゴモゴさせている。


ここ1週間ほど痔ろうの治療で家を空けていた父だったが、帰ってきた。


父上、そのラクダ、、、。


お土産、買っちゃった!


えー!お土産?


兄にも貰ったと聞く。ワシもお雪に何か買ってやりたくなったのじゃ。まだ子供だそうじゃ。走らぬらしい。


お雪はラクダに近づいてみた。


ラクダは少し嬉しそうな顔をして、聞いたことのない大きな声で鳴いた。


お殿様がその声に驚いてその場にコケた。


お雪はそれをみてアハハと笑った。


父上、ありがとうございます。立派に私が育てましょう。


お雪はラクダがなんだか気に入った。


名前は?


まだない。


お雪はジーっとラクダを見て、


ラクちゃんと呼んでみた。


ラクダはまた聞いたことないくらい大きな声で鳴いた。


ラクダのラクちゃんか。


良い名前じゃ。


そうこうしていると、飛脚がお雪宛ての手紙を持ってきてくれた。


おぉ、聡太郎からかのぅ。またワシにも聡太郎のこと、教えてくれ。


ワシは疲れたから部屋へ行く。お雪、しっかり頼むぞ。


お殿様は自分の部屋に帰っていった。


残されたお雪とラクちゃんの所へ伊助がきてくれた。


私がお預かりいたします。この子も山を越えて疲れたことと思いますので馬小屋へ連れて参ります。お雪様、ラクに会いたくなったらいつでも言ってくださいね。この場へ連れてきます。


お雪はうんと頷いて、ラクの首を撫でると伊助がラクを馬小屋へ連れて行った。


お雪は手紙を持って足早に部屋に戻った。


そういえば父上が兄上の事を何か言っていた。


どういう事かしら?


よくはわからないが、なんだか父上が兄の話をするのはとても嬉しいと思うのだった。







ここから少し、箸休めです。

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