お殿様のお忍び
市場へ到着です
山道をうだうだと話しながら3人は朝市の場所へ着いた。お殿様と鎌ちゃんが通って来た道とはまた別の方へ登って降りると、大きな琵琶湖が見えてくる。
その湖の周りはひらけていた。室町時代からこの土地は四方八方からなんでも集まってきている。外国からの珍しいものも、ここには揃っている。楽市楽座は幕末になっても名前を変えてその地に残っている。
初めて来たお殿様は目をキラキラさせてその光景を見ていた。
ワシの街にもこのような所があればもっと民たちも喜んでくれるだろうのう。しかし、運ぶのが一苦労じゃのぅ。
湖があれば。川があれば、こんなにもひらけていくとは。と、お殿様は少し口惜しく思うのだった。
何か土産でも買うかのう。お殿様は急に軽くなった足取りでスタスタ歩いていった。
買い物を済ませた夕霧と道蔵は、お殿様が近くに居なくなっている事に気がついた。
でっかい子供みたいだね。
鎌ちゃんより子供みたいだね。
2人はお殿様ーと探す事もできず、どうしたものかと辺りを歩いていると、夕霧ーっ。
とお殿様の声がして、そちらの方をみると、何故か、船の上にその姿をみつけた。
何してるんですー。帰りますよー。
わかったー。
お殿様はそういうと、船から何やら太い手綱を握って引っ張ってきた。
その先に、フタコブラクダを連れていた。口をもごもごさせながら、お殿様に引かれて付いてくる。
買っちゃった!
えーーー!
馬と同じ物を食べるって。ワシのところにも馬はおる。このラクダというものは走らぬらしい。
ニコニコしているお殿様に、もう何も言えない。
お殿様だし、怒られないだろうし。
夕霧と道蔵の荷物をラクダに吊るしてお殿様は手綱を引いて、麓のおばちゃんのお店まで降りてきた。
おばちゃんは初めて見たお殿様とラクダを見て、
何かを察したのか、夕霧と道蔵に、大変だったねえ。とお茶を出してくれ、お殿様にもお茶を出してくれた。
長い間、男手一つで育てたのかい?
おばちゃんが鎌ちゃんを育てたであろうお殿様だとは知らずお殿様に、聞いた。
あ、いや、ワシはただ物珍しいから連れて帰ろうと、今日が初対面じゃ。まだ子供らしい。
と、ラクダの首を撫でながら答えている。
夕霧と道蔵は、この2人の会話は成立しそうにないと思い、助け船を出してみる。
えっと、それは、ラクダの話かなぁ。
違うのか?
おばちゃんは鎌ちゃんの事を言ったみたいよ?
あー、そうかそうか。
お殿様はおばちゃんに、倅が世話になり、ありがたく思っておる。かたじけない。
お侍?でも町人の格好をしている。
なんだか訳ありね。
おばちゃんの頭のなかで、どんどんどんどん妄想が膨らんでいく。
その妄想はあながち外れてはいなかった。
今日もウコンをもらったおばちゃんは、ありがとね。とまた見送ってくれた。
夕霧の旅籠につくと、駕籠屋がもう到着していた。
役人はラクダを見て驚いたが、良いお土産ができたと喜んでいるお殿様に、何も言えない。
よく買えましたな。本当に売っていたのですか?
うん。そうじゃ。買っちゃった。
伊助、
どこからか着いてきている伊助はお殿様からラクダを預かり夕霧と道蔵に一礼すると、先に歩き出していく。
ラクダは口をムニャムニャしながら伊助のあとをシッポを振りながら着いていく。
夕霧、世話になった。近いうちにまたくる。
そう言うと籠に乗り、颯爽と今降ってきた山をまた登っていった。
では、私も失礼します。
気をつけてー。と、夕霧と道蔵は手を振って見送った。
ねえ、道蔵、今度あたしもラクダ買おうかしら。
アタシも今同じこと考えてたのー!
運ぶのが楽よね!
馬でもいいんじゃない?
そうね。
2人はお殿様が買ったラクダが思いのほか役に立ったので、本気で買うことを考えていたのだった。
ラクダは買えるのか、どうなのか。




