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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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お殿様のお忍び

中秋の満月。綺麗でした。

お殿様が来てから雨は1度も降る事がなかった。この日はちょうどお月見で、中秋の満月が美しく見えていた。


もう長い間ずっと一緒にいたように感じるのぅ。


お殿様は月を見上げ、夕霧に言った。


お殿様はお忙しいから、こんな風にゆっくりすることなんてなかったんじゃないですか?短い時でも長く感じるのかもしれない。


そうじゃな。


お殿様はいつものように夕霧の膝に頭を乗せた。


そなたと過ごすのも今宵が最後か。


お殿様は明日の朝にはカゴに乗って屋敷へ帰る。


寂しくなりますね。


本当に寂しそうに夕霧が呟いた。


このまま連れて帰りたい。


そう言ったお殿様の心が痛いくらいに重なって付いて行きたい思いに乗せてこの日夕霧は帯の紐を解いていた。



月夜が白々と淡い薄紫に変わる頃


別れを惜しみつつ、部屋を出ていこうとした夕霧を、行くでない。あと半時、ワシの女でいておくれ。


夕霧の腕を掴むお殿様の指は力なく優しかった。


それをそっと振り払い、買い出しへ行ってきますね。と泣きそうな笑顔で部屋から出ていった。


お殿様は寝間に座り力なく笑った。


そして着替えを済ませると、夕霧の後を追ってきた。


ワシも市場へ連れてってー!


夕霧と道蔵のあとを追って走ってきたお殿様の顔が一瞬、鎌ちゃんに見えた。夕霧と道蔵は、その無邪気なお殿様に、


早く来ないと置いてくよー。あと、帰れなくなっても知らないからねー!


と夕霧が大きな声で鎌ちゃんに言ってたみたいにお殿様に言った。


大丈夫ー!歩けなくなったらアタシが背負ったげるー!


と道蔵が鎌ちゃんに言ってたみたいにお殿様に言った。


お殿様は、2人に追いつくと、ただただ後を付いて歩いてくる。


そういえば、お殿様が来てから雨が1度も降らなかったわね。お雪ちゃんが来たときは、ずーっと雨が降ってたわよ。


ああ、お雪は小さな頃から何かあるたびに雨が降っていたわ。雨に好かれるタチみたいじゃな。ハハハっ。


そうなんだー。お雪ちゃん、雨女なのねー。


お殿様はそれに比べて晴れ男ねー。


そうじゃ。ワシとお雪が出かけると変な天気になる。雨が降ったり晴れたり、忙しいのじゃ。


じゃあ、今度お雪ちゃんと一緒に来てくださいな。


ね!


あ、いや〜、お雪とか?


そんなことをしたら、ワシゃ、夕霧と一緒に眠れないではないか?


えっ?


道蔵の顔が一瞬、怖いオッさんのようになり、夕霧をキッと鋭い瞳で睨んでいる。それは、まるでアタシのよ!と言っているようにも見えて、夕霧は何故かワハハと豪快に笑っていた。


そうこうしている間に市場に着いた。


お殿様はその初めて見る光景を愉しんでいた。





さ、今度はおばちゃんと初対面です。

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