お殿様のお忍び
いつもの朝がきたようです
だんだん、黒かった空が白んで、薄紫色へと変わった。その下から赤い帯を纏うように朝日が昇る。
夕霧は膝枕で眠る頭を起こさないように部屋を出た。
さ!仕事に取り掛かろう!
と支度して、道蔵と市場へ向かった。
帰ってくると、山の麓の茶店のおばちゃんが両手を振っておかえり〜と出迎えてくれた。
いつもの朝のいつもの風景。
おばちゃん、今日はこれあげるね!
なんだい?これは?
なんか唐物屋さんがくれたんだけど、よくわからないのよね。
人形みたいだね。
うん。
今日は食べられないじゃないかい。
うん。なんか、病気とかケガしたら、この人形が身代わりになってくれるらしいわ。
ふーん。貰ったんだよねぇ。
うん。高い値段で売っていたけれど、くれたのよね。
ふーん。私、食べ物のほうが良いわ。
じゃあ、こっちあげるよ。
夕霧が手渡したのは黄色いショウガみたいなものだった。
何?これ?
ウコンっていうんだって。
高麗人参の親戚かねぇ。炊いてみようかね。ありがとうね。
こっちはいらないの?
あんたが持っていた方が良いよ。何があるかもしれないし。
そんなものかなぁ。。
なんとなく、心当たりが出来たところだった夕霧はそれをウチに持って帰ることにした。
じゃあそろそろ行くわ。
鎌ちゃんは元気に相撲の稽古をしているのかねぇ?
おばちゃんが何げに言った。
旅籠も寂しくなったんじゃないの?
と聞くおばちゃんに、道蔵が、それがそうでもないのよね。いま、大変なのが来てるのよ。詳しくは言えないけどね。
そうなの?寂しくないならそれもいいじゃないの。またおばちゃんのところに寄ってね。
いつもありがとう。おばちゃん、また来るね。
手を振って、おばちゃんと別れた2人は帰る道すがらお殿様のことを話していた。
黙っていたら、本当に良い男よね。なんか拍子抜けしたわよ。私。打ち首になる覚悟してたけど良かったわ。
道蔵がホッとした顔をしてそう言った。
昨夜ね、言ってたわ。ここに置いて面倒を見てくれてありがとうって。酷く心に傷を負わせてしまったことをずっと後悔しているって。
ここでの鎌ちゃんのことを話してたら止まらなくなっちゃって、朝までずっと話してたのよ。
お殿様はそれずっと楽しそうに聞いてたんだけどね、なんかお父さんの顔してたよ。
あのお殿様と2人きりで、あなた大丈夫だった?
昨夜は何もなかったわよ。
そう言った夕霧はなんだかとても楽しそうだった。
打ち首にならなくて済みそうな2人。このまま無事にお殿様は屋敷へ戻ってくれるのか、、、。




