寄り道
熱がでた太郎
初夏の陽気だった日々から一転して曇り空が続いていた。季節は梅雨の時期に入ろうとしていた。
太陽の光が届かないせいか、少し肌寒くなった。
朝稽古にいく時間に目を覚ました鎌ちゃんは、付き人になった太郎の様子がおかしい事にすぐに気がついた。
でこを触ると熱がある。
太郎はこの日、稽古を休むことになった。
鎌ちゃんはいつもの稽古を終えると、太郎を連れて町医者に診せにいった。
町医者はただの風邪じゃ。3日もすれば治る。腹でも出して寝ていたのじゃろう。
と言って、飲み薬を処方した。
ありがとうございます。
鎌ちゃんがお礼を言うと、町医者は、ジーっと鎌ちゃんの顔を見て、
ありゃ?もしや、御幸山かな?
はい。
なんと!少し頼みがあるのじゃが。
はい。なんでしょう?
娘をもらってはくれぬか?
あ、いや、それは、、、。
誰かおるのか?
いや、私はまだ幕下の力士です。まだまだ稽古をしたいのです。
そうか。残念だ。ま、考えておくれ。
はい。。。
太郎が横で鎌ちゃんを見てニヤニヤしている。鎌ちゃんはバツが悪そうに頭を掻いて太郎を小突いた。
医者に診せるほどの病ではなかったな。とは思うけれど鏡山親方も、鳳翔山も、自分が何があるとすぐに気にかけてくれる。
そんな少しの事だけど、その事が嬉しい。土俵の上では1人で戦うけれど、決して1人ではなかった。いろんな人が背中を押してくれる。
だから自分は前へ前へと進んていけた。
ほんの小さなことだけど、それはいつか自分の力になる。日々の積み重ねが大切なことでもある。
太郎を見ていると鎌ちゃんはいろんなことに気づかされる。
太郎と部屋に帰ってくると女将さんが手紙を預かっていてくれた。
差し出し人はお雪だった。
鎌ちゃんは自分の部屋にいくと、手紙を読み始めた。
拝啓、兄上様、元気にお暮らしでしょうか。
私も伊助も女中たちも元気にしていますよ。
今日は兄上にご報告があります。
お雪は伊助の子を身ごもりましたよ。
生まれるのは私と同じように寒い日になると思います。
兄上、春には3人でお待ちしておりますので顔を見せにきてくださいね。
兄上、会いたいです。
お雪からの手紙には。




