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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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付人太郎

鎌ちゃんは初土俵で幕下優勝を果たした。

季節は春をひと回りして、もうすぐ初夏が訪れる。鎌ちゃんが秋に初土俵を迎え、幕下ながら優勝を果たした。


鏡山親方も女将さんも、鳳翔山も、そして清吉も清花も、みんながそれに驚き、喜んだ。


鎌ちゃんの四股名である御幸山の名前はあっという間に世間に知られていった。


初土俵で幕下優勝を果たすことなど今まで誰も成し遂げてはいない。それに鎌ちゃんは鼻筋の通ったキリッとした男前。そのことも人気に拍車をかけていた。


それでも鎌ちゃんは、自分が優勝できたのは鏡山親方、そして皆さまのお陰です。といつも謙虚で誠実な心を持っていた。


そんな鎌ちゃんを贔屓したいと申し出る人々が大勢集まって、とうとう鎌ちゃんにも1人付人が付いた。


その子は鳳翔山の育ったお寺にいた親無し子で、名前を太郎と言った。今年15になったからここへ来たという。体格がよく、礼儀正しい。笑顔の可愛らしい人懐っこい性格をしている。


この先誰からも好かれる鳳翔山のようになりそうな子だなぁと鎌ちゃんは思ったのだった。


朝稽古を終えると太郎は鎌ちゃんのあとをついてくる。付人だから付いてくるけれど、鎌ちゃんも付人が付くのは初めてで、何をどうしたらいいのか全然わからない。


ただ鳳翔山のことを思い出してみると、鳳翔山は、自分の事は自分でしていて、鎌ちゃんはそれを見て、相撲取りとはどんなものなのかを知った。


つまり、付人にあれこれ教えるのではなく、見て学んでもらうのが一番いいということか。


教えてもらわないと出来ない事だけ教えればいい。ただそれだけのこと。てことは、自分がお手本となる行動をとらなければいけないってことか。


付人をつけるという事は悪いことは出来ないってことでもある。自分の鏡のような存在だなぁ。鎌ちゃんは太郎をジーッと見て大変だなぁと心の中で思っていた。


外を歩く時も一緒。清吉の鍼灸院に行くのも一緒。清花のお腹がだんだんと大きくなってきた。


鎌ちゃん、お腹触ってみて!


清花に言われた鎌ちゃんはそーっと清花のお腹に触れた。お腹がポコポコと動いているのが手に伝わって、目を大きく見開いてびっくりしている鎌ちゃんの顔を見て、清花もまた目を大きくして言った。


なんかすごいでしょ?


鎌ちゃんはうん!と力強く頷いてみせた。


太郎もお腹を触って同じような反応をしている。


いつ生まれるんですか?


もうすぐよ。


お腹を触りながら嬉しそうに清花は言う。


きっと可愛らしい赤ちゃんが生まれてきますね。


鎌ちゃんがそう言うと、清花と清吉は目を合わせて嬉しそうに笑っていた。


おい、太郎。ちゃんと兄弟子を見習って頑張るんだぞ!


はい!


太郎の小気味良い声が店に響き渡った。


鎌ちゃん、よろしく頼むね。


そう言いながら清吉は太郎の頭をポンポンと撫でている。清吉にとって太郎は弟みたいなものだった。2人の父は血は繋がっていなくとも、和尚だった。


こちらこそ!いつもここへ来て身体を見てもらっていたお陰です。これからもよろしくお願いしますね。では私はこれから父の墓参りに行ってきますね。


もう習慣になった墓参り。


鎌ちゃんは父が生きていることを、まだ知らない。知らないというか、生きていると聞いても冗談だろうと思い、信じていない。


墓参りしていると、和尚が声をかけてくる。


鎌ちゃん、今日も来たんだね。来てくれてありがとうね。太郎、鎌ちゃんに付いてしっかり頑張れ!


鎌ちゃん、この子が悪いことしたら遠慮なく叱ってやってくれていいからね。


はい!わかりましたよ。


鎌ちゃんは墓参りをすませると寺を後にした。


帰る道すがら太郎に言った。


太郎はみんなから愛されて育ったんだな。頑張らないといけないな。


はい。俺も兄弟子みたいに頑張ります!


おう!


じゃあ稽古場まで走って帰るか!


はい!


よーい!どん!


2人は夕暮れ空の下、走って稽古場に向かっていったのだった。







稽古場に帰るとお雪から手紙が届いていた。

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