虐殺
新年になりましたね。
平成も後5ヶ月(?)ですね、やっぱなんか不思議な感じがします。
シシド村より下流にある川沿いの村から黒煙の煙が立ち込めていた。
村では数十人の黒装束の集団が村人達を一方的に虐殺している。
村人達は猟で使うような雑多な弓や槍等で抵抗をするがそれも虚しく散っていく。
「一人でも逃がすのではないぞ‼」
血濡れの豹の隊長ジーク・ウェルダンは声をあらげる。
「隊長、フロイゼンらしき人物は見当たりませんでした」
一人の黒装束の表情すらわからぬ男がジークに話しかける。
「ここの村も外れか……他には可能性としては後は何処の村がある?」
「それでしたらここより更に川を下った所にダオレス村位しかないと思います。」
「ならフロイゼンはそこの村にいる可能性が高いと?」
「はい、その先はモンスターの群生地帯ですしそれ以上先には村はありませんから」
その時だった。
「うおぉぉぉ‼ 皆の仇きぃぃ‼」
近くにある半壊した家屋の中から一人の鉈を持った男がジークに飛びかかってくる。
「雷撃」
ジークが詠唱すると男の体に電撃が走る、男はその場に倒れ混む。
「ふっ雑魚め、この程度で俺を殺せるとでも?」
「こ……殺す……絶対……に……」
男は奇跡的にかろうじで生きてるようであった。
「ほぅ? 面白いやってみろよ、カスが」
男は這いつくばりながらも少しずつジークに向かい前進する。
ジークまで後一歩と言うところでジークは手に持つオリハルコンの剣で男の首筋に降り下ろす、男は血を吹き上げピクリとも動かなくなった。
「にしても俺は他人を無惨に殺しても何にも思わない、十年前の俺は人っ子一人殺せなかったというのに慣れとは恐ろしいものだ……」
ジークは死体になった男を眺めつつ過去を懐かしむようにぼやく。
「この村を制圧次第ダオレス村に向かうとしよう、今度こそはあの男を仕留めてやるさ……」
ジークは不適な笑みを浮かべる。
「貴方達随分と惨い事をするのね……」
何処からも無く若い少女の声が響き渡る、その声はジークも何度か聞いたことのあるものである。
空を見上げると一人の十代半ばの美しい顔立で童顔の少女が空を浮遊している。
少女の見た目は紫色のボブカットで金色の装飾が施された漆黒のローブに身を包んでいる。
「レイティアか……わざわざ皇国から何の様だ?」
彼女が四十代過ぎだと何も知らない他人に教えたらそれをすんなりと理解出来るのだろうか、とジークはふと思う。
彼女はレイティア・ハーパディアーーー。次期四大英雄候補の一人で魔導連隊の副隊長だ、彼女は最上位級の魔法を使うことができ皇国でも彼女より魔法が優れる者は一人くらいしかいない。
彼女はフワフワとゆっくり地面に降り立つとジークの元に駆け寄る。
「上層部からの命令で貴方達の動向を監視させて貰ったわ」
「嗚呼、そうか、それで?」
「いくらなんでも殺しすぎよ……あくまでここはラツァオ王国領、こんなことがバレたら戦争は免れ無いでしょうね」
「ラツァオ王国ごときに皇国が負けるとでも? 俺はそうは思わないが」
レイティアは溜め息をつき呆れ顔で言い放つ。
「そういう問題じゃないから……面倒ごとを持ち込むなって事よ、今皇国はラキュース神国との戦争で内政もごたついてるから余計なことはするなってこと」
ジークは舌打ちをする。
「そんくらい俺でもわかってるさ、隠蔽もしっかりとやってる……」
「まぁいいけど、それでもうひとつ渡したいものがあるの」
レイティアはローブの懐から水晶取りだしそれを渡す、水晶には何処かの家屋のベッドで手当てをされ眠るフロイゼンの姿が写し出されていた。
「私もフロイゼンの居場所を探してみたのだけどこの先のダオレス村辺りにいるみたいね」
「俺もそんくらい検討はついてたさ」
「嘘つけ、さっき隣の部下君にでも教えて貰ったんでしょ? てか辺りの村全部焼き払っちゃて……そりゃもうダオレス村しか無いでしょうね」
レイティアは蔑むような呆れた様な視線をジークに向ける。
「あー、あー、全部あんたの言うとうりだ、いちいち言わなくてもいい」
ジークは言い返すことすらできない自分に嫌気がさす。
その時一人の黒装束がジークの元に現れる。
「隊長、村の制圧が終了しましたがフロイゼンと思わしき人物は見当たりませんでした」
「嗚呼、フロイゼンの居場所がわかってる、総員を今すぐここに集めろ、集まり次第出発だ」
「了解しました」
男はそう言うとすかさずその場を離れていく。
「それで……レイティアはこのあとどうするんだ? ただでは帰らないのだろ?」
「ええ勿論ラツァオ王国を少し偵察して帰るつもりよ」
「そうか……なら俺達もさっさとやることやって酒でも飲むか」
「あっ、そうそう」
レイティアは思い出した様に喋る。
「貴方国に帰ったら対ラキュース神国戦線の最高責任者に任命されるそうよ……のんびり酒何て飲んでる暇は無いかしらね」
「ああ? 何でまた俺なんだ? 適任は他にいるはずだろ……」
ジークは面倒臭そうにそしてまた何で自分なんだと疑問を含めて口に出す。
「ラキュース神国のエルフ達が森に潜んでゲリラ戦を仕掛けて来てるのよ、あいつ等全員が魔法使えるし、思いのほか被害が出て皇国が押しきれないの……そこで戦争を勝利に導く決定打に黒き邪龍を戦線に投下しようってわけ」
レイティアは説明口調に話す。
「なるほど……それで俺を最高責任者にするってわけか」
「まぁ貴方以外にあの化物を意のままに使役できる人が入ればそっちが任されただろうけどね?」
「それは俺に対する嫌みに聞こえるが?」
「まぁどう受けとるのもいいけど」
そういい残すとレイティアはフワリと空に浮かぶ。
「この任務も神国との戦争も終わったら久し振りに十二騎士の連中と飲みにでも行く?」
「嗚呼、それまで死ぬんじゃねぇぞ‼」
ジークは少しずつ高度をあげていくレイティアに怒鳴り付ける。
ある程度高さをとった後レイティアは上位級魔法ーーー転移を使い何処かへ消えていく。
「さてとーーー」
ジークは頭上から地上にに視線を切り替える。
辺りを見渡すと血濡れの豹の面々が既に集結していた。
「次の獲物を襲いに行こうじゃないか……」
*
時間を少し巻き戻るーーー。
早朝鳥達の鳴き声が響き渡る、常に黒雲が立ちこめるヘルヘイムでは有り得ないそんな光景。
フレイアはシルヴィ自室で抱きつかれる形でシルヴィと共にフレイアはベッドに横たわっていた。
シルヴィは昨日からぐっすりと眠っていたがフレイアは一睡も取ることができなかった。
というのもシルヴィに使えと言われた空き部屋が余りにも汚く使える状態では無かったのでシルヴィの自室で共に寝ることにしたのだが鼾は五月蝿いわだきついてくるわで落ち着いて眠ることすら出来たかった。
確かに魔族は睡眠も食事もとらずとも生きていける、だがお腹は空くし眠くもなる、魔族はそう言う者なのである。
「うーん、良く寝たぁ~」
シルヴィは気持ち良さそうにあくびをし起き上がる。
「あ、フレイアはもう起きてたんだ……」
あんたのせいで眠れなかったわ‼、等と思いながらとフレイアも起き上がる。
「朝御飯食べるでしょ?」
「あ、うん」
シルヴィとフレイアはポーションの調合室を兼ね備える台所へ向かいシルヴィは朝食の準備をし始めフレイアは椅子へと座る、机の上には昨日の内にシルヴィが完成させてた小瓶に入れられた緑色のポーションが並べられている。
しばらくしてシルヴィはパン2切れと干し魚の入ったスープが二人分の出される、フレイアにとっては質素な食事ではあるが食べさせてもらえる分だけ文句は言わない。
フレイアは一口食事を口に運ぶが余り美味しい物ではない、シルヴィは美味しそうに頬張ってはいるがフレイアはそんなに美味しいのか?と思う。
「私はこのあとすぐ村にポーションを売りに行くけどフレイアはどうするの?」
シルヴィはフレイアより先に食事を終えるとフレイアに話しかける。
「私も村の様子とか見てみたいし行ってみようかな?」
「なら決まりね」
フレイアは食事を再び口に運ぶ、シルヴィはその間に布製のバックにポーションをつめ出掛ける準備をする。
シルヴィの家から道なりに五分程度進んだ地点に木の壁に囲まれた村が見える。
門には誰もおらずあくまでも自由に行ききできるようであった、村の様子は一階建てのシルヴィの家よりみずぼらしい家屋が建ち並んでおり村人の姿もちらほらある、村の中心には二階建ての豪勢と迄は行かないがそれなりに立派な家が建っている。
シルヴィと村をしばらく歩いていると一人の10歳程度の男の子が話しかけてくる。
「なぁ‼ お姉ちゃんはサキュバス何だろ?」
その男の子はフレイアに向かいにこやかな笑みを浮かべ話しかけてくる。
「えーー……」
確かに悪魔に見えるのは百歩譲って分かる、確かにビキニアーマー……とまでは行かないが露出度が多い事も認める、只サキュバスと言われたのは傷つくというかなんというか不快というか複雑な感情が混み上がる。
「私はサキュバスなんかじゃなくてさ……」
フレイアは自分がサキュバスじゃないと訂正しようとしたときだった。
「シュラフ‼ 駄目でしょ⁉」
その男の子の母親と思わしき女性が飛び出してくる、その母親と思わしき女性はフレイアを睨み付ける。
「私の息子の魂を奪おうとしてたな⁉ この淫魔め‼」
その母親は怒りに身をまかせフレイアに罵声を浴びせる、その母親は次にシルヴィを睨み付ける。
「違うんです‼ フレイアは前々そんなつもりなくて……」
シルヴィは必死に訂正を仕様とするが母親は話を聞く理性も忘れているようだ。
「おい‼ 丘の上の魔法使い‼ 村に悪魔を呼び込んで何するつもり? 信じられない‼……」
母親は息子を抱き抱えブツブツ言いながら何処かへ消えていく。
「フレイア……あの、そのごめん、ね?」
シルヴィはフレイアをこの場に連れてきたこと申し訳なく思い静かにフレイアのほうを見る
「何だよ……あいつ等」
フレイアは激しい殺意に揺さぶられていた、サキュバスだと罵られた挙げ句友好的に接しようとしたら罵声を吐き捨てられる
フレイアは今までに感じたことないくらいの焦燥感、殺意、悔しさ等が心の奥底から込み上げてくる。
更に耳を澄ましてみると村人達が「何で悪魔と人間の混血が村に?」「ちかずくなよ?……命とられるぞ」「やっぱりあの魔法使いは邪神教の手先じゃないのか?」等と自分どころかシルヴィに対しての暴言、軽蔑の視線が送られていた。
「流石にいくらなんでも不快……この村消してしまっても問題ないよね?」
フレイアは怒りに身を任せ口から殺意を込めてその言葉が出る、これがこの世界の前に来るフレイアであったら即座に皆殺しにしていただろうが今のフレイアはグッと怒りを堪える、それでも抑えられない怒りが口から漏れてしまう。
「フレイア⁉ ごめんね……私が無神経なせいで嫌な思いをさせちゃて、本当にごめん……」
シルヴィは申し訳なさとフレイアがその気になればこの程度の村を意図も容易く滅ぼせる事を知ってかフレイアにしがみつき懸命に宥める。
フレイアはシルヴィのお陰もありある程度怒りは引いてきた。
「まぁいいけど、悪いけど先に帰らしてもらうから……」
フレイアがそう言うと転移を唱えふっと消える。
シルヴィはその後申し訳なさに苛まれながらもポーションを目的の場所へと持っていく。
そこは村の中心にある一際大きな家屋ーーー村長の家だ。
シルヴィは村長の家の扉をノックする、しばらくすると顔中にシワが刻まれた70過ぎの老人が出てくる。
「カタルさん、今月分のポーションです……」
シルヴィはカタルにポーションを渡す。
「シルヴィよ……ポーションを持ってきてくれるのはありがたいのだが村に厄介者を入れるのはやめてくれないかね」
どうやら情報は村長のもとえも届いていたようだ。
「いや、でもフレイアは本当にいい娘何です……昨日だってポーションの材料を採集に行くときコボルトの群れから守ってくれましたしフレイアを悪魔との混血だからと行って差別するのは私は善くないと思うんです……だから今度皆と話す機会をどうかお願いし……」
「シルヴィ‼ お前でさえ村の者達から煙たがられてるのは知ってるはずだ‼ まずは自分の身をどうにかしたらどうだ?」
カタルは強めの口調で語りかける。
元々シルヴィは丘ではなく村の中で両親と生活していた、母親は若くして病死、父親は国の戦争に行って戦死した、その後は村人の家をたらい回しにされ虐待をされる毎日が続いた、シルヴィの身体にはその虐待の名残が現在も多々ある、更に彼女には魔法の素質が会ったせいで気味悪がられていた、確かに町などの都市部に行けば魔法が使えるからといって差別はされない、只シルヴィはこの両親と過ごした故郷を捨てたくはなかった、だからわざわざ村から少し離れた丘の上で生活を送っていた。
カルタのこの一言フレイアの事もあってか幼少期のトラウマが混み上がり涙が溢れる
「……これは悪いことを行ってしまった様だな……すまぬ」
カルタはそう言うと涙を流し無口になったシルヴィに少し多めの報酬を渡し、シルヴィが立ち去るのを確認してから扉を閉める。
「村長ーーー‼村長ーーー‼」
しばらくして扉をたたく音が聞こえる。
「ん、? なんじゃ……」
扉を開けると村の若者がいた。
「それがよぉ、川に傷だらけのそれはもう屈強な男が流れ着いてたんだよ」
「ほぅ……」
「とりあえず俺らじゃどうにも出来ないし、村長に相談にしに来たってわけだよ」
「どれどれ、少し見に行って来るかの」
*
幅20メートル程度の広さの川の淵に立派な剣を確りと握りしめた白髪混じりの屈強な男が倒れていた。
既に何人かの村人が集まっており男を取り囲んでいた。
「おぉ‼ やっときましたか、村長」
先に行っていた村の若者が話しかけてくる。
「ふーむ、気絶してるのかのぉ?」
「はい、息はあるようですが……この男どうしましょうか?」
「ふーむ」
カルタはしばらく考え答えを出す。
「村で保護することにしよう」
「しかしこの男何かと曰く付きの可能性もあります、村に厄介事を運んでくるやもしれませぬぞ‼」
「しかし見捨てるわけにはいかぬ、わしの家でいいから保護をするぞ‼」
村長がそう言えば反対できる者はいない、この男を村で看病することになった。
誤字などがあればご指摘してくだされば幸いです。