黒き邪龍
フロイゼンの目の前に現れたのは漆黒の禍々しい鱗に覆われた巨大な大龍、体格はほっそりとはしているが重厚感があり凄まじい威圧を感じさせる、背中には通常の龍種のものより遥かに大きい黒一色の翼が生えている。
「この化物がいるから俺が倒せると?」
「嗚呼、そうだ、千人の兵士に匹敵するお前でもこいつを倒すのには無理がある、悪いことは言わないからおとなしく殺される事だな」
「ふざけるな‼ 俺がこの程度のことで諦める理由にはならん‼」
フロイゼンはそう吐き捨てると邪龍へと斬りかかる。
「陣滅豪波‼」
剣から放たれた衝撃波は黒き邪龍に命中する、それどころか衝撃波は後ろのジーク一行、血濡れの豹達へも届く。
「防御壁」
ジークが呟くと血濡れの豹の辺り周辺に透明の膜状の結界が張られる。
衝撃波が結界に当たると凄まじい爆音と共に結界にヒビが入る。
だが黒き邪龍は無傷であった、傷一つ処か鱗にヒビすら入らない。
フロイゼンは攻撃が効いていないか効いてるかすら確認せずにすかさず黒き邪龍の足を斬りつける。
だが黒き邪龍の強靭な鱗に阻まれ倒れない、それどころかフロイゼンの持つオリハルコンの剣に寧ろ傷が入ってしまっている。
フロイゼンは息をつく暇もなく黒き邪龍の背後に回り込む、フロイゼンは尻尾から背中にかけあがり巨大な翼の付け根の間、龍種の中で最も柔らかいとされる部位、フロイゼンは「鉄板断絶」を唱え切り裂く。
黒き邪龍の背中に浅いながらも剣が入る。
背中からは薄いながらも以上な強度をもつ鱗が引き裂かれたかのように裂け紫色の体液が少量ながら溢れ出している。
だが黒き邪龍は咆哮をあげることも動くこともなくただ微動だとせず立ち尽くしていた、まるで一切ダメージが入っていないかの様に。
「さすがだなフロイゼン、かつてこの俺が憧れた男だ‼ この化物に血を流させるとは英雄と言われただけはあるな」
ジークはどこか嬉しそうにそしてどこか憎んでいるかのような複雑な笑みを浮かべる。
「お前に言われても嬉しくもなんともねぇよ……」
「ふふっそれも過去の話……だがな? なら此方も行かせて貰おうか、黒き邪龍よ‼ この愚者を焼き払うがいい‼」
ジークがそう叫ぶと今まで一斉の動きが無かった黒き邪龍は突如咆哮を上げる。
黒き邪龍は尻尾でなぎはらおうとする。
フロイゼンはそれを難なく避けるがすかさず黒き邪龍は鉤爪を降り下ろす。
フロイゼンは避けようとしたがギリギリで避けきれず腹部に掠り傷を負う。
腹部からは赤い血液が滴り凄まじい激痛が襲う、鉤爪でひっかかれたとは言え所詮は掠り傷、それがこれほどの痛みを伴う事はあり得ない、そこでフロイゼンは黒き邪龍につけられた傷は痛みを強く感じるという自分とは別の四大英雄の大魔導士の老人の話を思い出す。
フロイゼンは腹部の激痛を押さえながらも再び降り下ろされた鉤爪をよける。
「鉄板断絶‼」
フロイゼンは再び黒き邪龍の背後に回り込こみ切り込もうとする。
しかし二度目はうまく行かない、黒き邪龍はその巨体からは想像すら出来ない素早い動きで動き回り込む事は出来ない。
「ちょこまかちょこまかと……」
フロイゼンは小刻みに動く黒き邪龍に歯がゆさを覚える。
フロイゼンが森を背後に距離を詰めた時であった。
「黒き邪龍よ、黒炎だ……黒炎を放て‼」
ジークがそう叫ぶと黒き邪龍が口を開け、その口腔から黒色の火炎を吹き出す。
その口腔から吹き出させた黒炎はフロイゼン目掛けて放出される。
フロイゼンは防御魔法、防御壁を唱えた直後フロイゼンは黒色の炎を包まれる、黒色の炎は背後にある森にも引火する。
灯りを灯さない黒色の炎は普通の山火事の非にならない速度で燃え広がる、黒色に燃え盛る森は登りだした太陽の朝日を受け入れず、まるでそこだけ夜のような異様な光景が広がる。
フロイゼンは防御壁に守られ何とか生きていが無傷ではない、所々に皮膚がただれ落ちる様な火傷が出来ている。
「さすがだな、地獄の炎を食らってその程度の怪我とは本当に恐ろしい男だ……フロイゼン……」
「ジーク、交渉だ‼ 俺は大人しく命を差し出す‼ だがその子だけは助けてやれ‼」
この化物に勝てないことを悟ったフロイゼンは満身創痍の体でジークに怒鳴り付ける。
「それもさっきまでなら考えだろう……だがもう遅い、お前はどのみちこいつには勝てない交渉する意味もない」
「貴様等は人の心がないのか⁉……‼‼」
「俺たちは哀れみの感情を殺してここまで来た今更同情する感性など等の昔に死んでいる」
ジークは不適な笑みを浮かべる。
「糞がぁぁぁ‼」
フロイゼンは剣をかまえ黒き邪龍に飛び掛かる。
「馬鹿め‼ その様なことで黒き邪龍が仕留められるはずが無かろう? ついには頭が可笑しくなったか?」
フロイゼンは黒き邪龍に斬りかかると誰もが思っていた。
だがフロイゼンは黒き邪龍の頭を踏み台にジーク達一行へと斬りかかってきたのである。
「なん……だと⁉ まさか、お前……この餓鬼ごと吹き飛ばすつもりか⁉」
「死ねぇぇぇぇ‼ 陣滅豪波‼」
フロイゼンの剣から衝撃波が放たれようとしたときだった。
「…………グフゥァ‼⁉」
横から凄まじい勢いで現れた黒き邪龍の尻尾になぎ倒される。
フロイゼンは口から血を吐き出し崖の方に数十メートル吹き飛ばされる。
フロイゼンは宙を舞い崖へと落ちていく、フロイゼンはどこか辺りの掴めそうな所がないか見渡すが何処にもない、フロイゼンただただ崖底にある、川に落ちていく。
「やったか……?」
一人の血濡れの豹が崖底に流れる激しい濁流の川を眺める。
「奴はあれでも元四大英雄……この程度では死なんさ」
ジークは独り言を呟くように言い放つ。
「この餓鬼はどうしましょう? 殺しましょうか?」
「まだ利用価値があるかもしれないからまだ殺すなよ?」
「言いか? お前等、恐らくフロイゼンは生きてれば下流の村々の何処かに行くはずだ、なら我々は下流の村を蹂躙して回る、異論はあるものはいるか?」
ジークは辺りを見渡す、意見があるような者は居ないようである。
「なら、即時に行動を開始せよ‼ フロイゼン……次こそは殺してやるよ」
ジークは崖の底を流れる川を睨み付ける。
平成ももうすぐ終わりですね
何か新しい年号になるのは不思議な感じがする……。