日常
「ところでフレイアって戦闘系の魔法が使えるのでしょ?」
シルヴィは呟くようにフレイアに語りかける。
「まぁ使えるけどね?」
フレイアはベットからゆっくりと体を起こす。
「起きたばっかで悪いけど私と一緒に森についてきてくれない? 明日までにポーションを村に届けに行かないといけないのだけど、材料をきらしちゃて、ね?」
シルヴィは困ったように後ろに手を回し頭をかきむしる。
「森にはモンスターが出るから、戦闘系の魔法が使えない私一人じゃ行けないのよ、いつもなら知り合いの冒険者が来る予定なんだけど来なくてさ……」
モンスターはフレイアの前いた世界にも存在はしていた、でも所詮は野性動物だしフレイアはその辺のモンスター程度に負けるほど弱くはない。
「別にいいわ、ここに住まして貰うのだからそのくらいはさせてもらわないとね」
「ありがと、フレイア」
シルヴィは嬉しそうに微笑む。
*
シルヴィは背中に籠を背負い、二人は身支度をし家を出る。
シルヴィの家は小高い丘の上にたつ一階建ての木造の小さな家である。
丘の真下には川に沿って広がる木製の壁に囲まれた小さな村、更にその反対側には森が広がっている、シルヴィ曰くあの壁は森から現れるモンスター対策だそうだ。
シルヴィとフレイアは村を迂回する形で森へと向かう、遠目ではきずかなかったが森に生える木々はどれも30メートル程ある巨大なものであったが生えている間隔はある程度離れておりしっかりと太陽の光が行き渡っていた。
「ここがその森よ」
フレイアとシルヴィは巨大な木々を見上げる。
「所でポーションの材料って何をとるの?」
フレイアはふと疑問に思い問いかける。
「癒草とかヒカリダケとかだけど?」
癒草にヒカリダケーーー全くもって聞いたことすらない植物である、それにフレイアの知っているポーションは薬聖石と呼ばれる特殊な鉱石から抽出した液体にバフ効果のある魔法を宿らしたもので植物から作るなど聞いたこともない、シルヴィの反応からこの世界では当たり前なのだろう。
「ふーん、私の知ってるポーションとは大分違うみたいだけど…」
「シルヴィの知ってるポーションってどんなのなの?」
「薬聖石から絞り出した液とか?」
「薬聖石ってオリハルコンに匹敵する希少金属じゃん……そんなの使えるの一部の貴族だけだよ、普通は薬草とかから作ったりするのが基本なんだけど」
シルヴィは何いってんのこいつ?という表情であった。
オリハルコンーーーフレイアにとってはこれも大した価値はないと思うがこの世界ではよっぽど希少な物なのだろうか。
「そうなの、ね私はそう言う事には疎いからこれから色々と教えてよね?」
「まぁそれはいいのだけど……あれは何でも疎すぎな気が………」
その様な事を呟くシルヴィを尻目に森の中へと入っていく。
森の中は木が疎らに生えてるせいかあまりに森と言う感じはなくどちらかと言うと草原の様なイメージであった、数多の雑草が生え巡りあちらこちらに群生していた、フレイアには全くわからないがシルヴィは一瞬の内に見極め癒草を背中に背負う籠の中に入れていく。
一瞬懸命薬草を回収するシルヴィに何か手伝うことは無いかと聞くが、モンスターから守ってほしいから他の事はなにもしなくていい、との事であった。
しかしそれが予想以外に長かった、場所を替えては薬草を回収し、また移動しては薬草を回収する、それを何時間もである、フレイアは暇になり「暇だ等から手伝わして」とシルヴィに行ったが「初心者が変な毒草を入れたら大変だから……」との事で手伝わしてすらくれなかった。
フレイアは途中から完全に暇になり倒れた木の幹に座りボッーと空を眺めていた、モンスターでも襲って来てくれないかな等と思い出した頃合いであった。
フレイアが願ったからだろうか、何とも都合よくモンスターが現れる。
森の奥手の方から頭部はハイエナ、体は二足歩行の狼で鋭い鉤爪を持つモンスターが7体が迫ってきた。
それに一早く気づいたのはフレイアではなくシルヴィだ、モンスターにきずいたシルヴィはフレイアの座っている木の幹へと向かう。
「フレイア、モンスターが来たわ‼ しかもコボルトが7体も……」
コボルトーーーそれはフレイアは聞いたことすらない名前のモンスターだ、シルヴィの指差す方を見ると二足歩行の人狼の様な見てくれのモンスターであった、だが人狼の様な知的さは微塵もなくあるのは野生動物の本能的な物だけである。
「やっと私の出番が来たって事ね」
フレイアは座っていた木の幹からゆっくりと腰を上げる。
「フレイア大丈夫……? さすがに敵が多すぎなきが……」
シルヴィは敵の多さにフレイアの身の心配をする。
「大丈夫、あのくらい何ともないから」
フレイアは正直あの程度のモンスターが100集まろうと1000集まろうと負ける気がしない。
見た目があまりにも貧弱そうであるし、知能も低そうなので魔法の類いと使えない筈である、フレイアのイメージしていたモンスターはドラゴンやキングオーガー等で前の世界ならこの程度ではモンスターとすら呼ばれていなかった、だがフレイアは手加減はしないつもりであった。
フレイアは目の前までジリジリと迫っていたコボルトの一体に最上位級魔法ーーー。
完全凍結を唱える。
フレイアの手から放たれた煌めく水色の球体はコボルトに当たるや否やコボルトのその周辺を巻き込み凍らせる、というよりは氷塊に代える様に氷の結晶になる。
「魔法に対する耐性も無さそうね、最上位級を使ったのは少し勿体無かったかな……」
フレイアはポツリと呟く。
だが無能か勇敢かコボルト達は恐れることなく迫ってくる。
フレイアはコボルト達へと小走りで近づき、上位級魔法ーーー爆発を唱えると辺りの地面一帯が跡形もなく吹き飛ぶ、フレイアの目の前には巨大なクレーターができコボルトを4、5匹吹き飛ばした。
「グガアァァァ‼」
フレイアの一瞬の隙をつき後ろに回り込んだ一体のコボルトがフレイアの首筋に噛みつく、首筋からは血液が溢れ出すがフレイアは動じない、フレイアはコボルトの顔を掴み強引にも首筋から引き剥がし地面に叩きつける、引き剥がす時に首筋の肉を引きちぎられ、尋常じゃない量の血が吹き出す、だがそれも一瞬の出来事でみるみると傷が回復していく。
フレイアは地面に叩きつけられ怯んでいるコボルトに即死を唱えるとピクリとも動かなくなる。
「痛……少し油断した……」
フレイアは首筋を触る、その頃にはフレイアの首筋の傷は傷痕すら無くなり完全に治癒していた。
最後の一体のコボルトは形勢が不利だとわかるとその場から逃げようとする。
「逃がさない……大火球」
フレイアの掲げられた掌から放たれた巨大な火の玉は森の奥へと疾走するコボルトを追従する、コボルトにそれが当たると爆発し辺り一面が火の海になり辺りには肉が焦げる香ばしい臭いが立ち込める。
フレイアは燃え盛る炎を背景にシルヴィの元へと戻る。
シルヴィは唖然として口をポカリと開けていた。
「どうしたの? そんな驚いた顔して……?」
「い、今のって……最上位魔法クラスよ、よね?」
「まぁそうだけども……」
フレイアは最初はこの世界に位という単位の魔法がないと思っていたがどうやらあるようだ。
「ふ、フレイアってさ、どっかの国の大魔導士かなんかだったの?」
シルヴィは震え口調で問いかける。
「記憶がないから何とも、もしかしたらそうだったのかもね」
フレイアはごまかくようにさらっといいながす、それに最上位魔法が使えるのはそんなに珍しいのか等と頭の中で考える。
「フレイアってすごいのね……さらって行ってるけど最上位魔法って使えるの大陸でも数える数しかいないんだからね」
「そうなのね、それはすごいのね」
前の世界なら最上位級魔法を使えるものはざらにいたしその凄さはフレイアには良くはわからない。
「て言うか、あんな凄いの見せられたら疲れちゃた……それなりにポーションの材料とれたし帰ろうか」
相変わらずシルヴィの声はブルブルと震えていた、籠の中を見てみると3分の1程度の癒草と数本の発光するキノコが入っていてそれなりの量である。
「シルヴィが言うならそれでいいんじゃない?」
そして二人は家へと帰る。
とシルヴィは家の半分程度の面積を占める調合室兼台所に向かう。
ボロボロの石窯と中心にテーブル、その上には調合台等が置かれている。
シルヴィは籠をテーブルの上におき錆びた鍋を石窯におき、水と癒草と少量のヒカリダケを入れ火をつける。
その頃フレイアは「私の部屋の向かいの空き部屋を使ってほしい」との事だったのでその部屋に向かっていた。
フレイアは部屋の扉を開ける。
「え?ーーー」
部屋を開けるとごみ溜め同然の汚ならしい部屋が広がっていた。
誤字などがあれば教えてくだされば幸いです。