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第七話 レーナ・ブランシュ(後)

「さっきも言った通り、僕は、《万象体系セレスチャル・レコーズ》という能力を与えられた。肉体的・精神的なパラメータに、その人が持つ技能を定量化して確認できる能力だね」

「ええと……?」

「これらを総称して、以後、ステータスと呼称しよう」

「それはいいけど、具体的にどういうものなの?」

「実際に、見てもらったほうが早いか」


 タクミは再びスクールバッグに手を入れると、ノートとボールペンを取り出し、《万象体系セレスチャル・レコーズ》を展開。

 左目に投影された自らの能力値やクラス、才覚(タレント)――ステータスを表にして書き記していく。


●固有情報

名前:宮代・巧 年齢:16歳 性別:男

属性:中立・中立


●能力値

筋力  耐久  器用  敏捷

 10  9/10    10   22

知力  直感  意思  外界

 13   10   16   10

魔力  精髄  信仰  調和

 10   10   ―   ―


加護

224


●ブレイヴクラス

なし


●メインクラス

なし


●ソシアルクラス

フォーリナー

・アビリティ

・アビリティ

青き星からの来訪者(ソウル・オブ・ガイア)》 Rank:Immortal

 ――魔を知らぬ自由なる魂が奇跡をもたらす。

異世界知識(イマジナリィ・イデア)》 Rank:Master

 ――無垢なる知識と発想は、異界にも通ず。

技芸(アーツ)

なし


才覚(タレント)

意思による自律(アイアンマインド)》 Rank:Master

 ――折れず、曲がらず、強靱な、鋼のごとき精神。

濫読家(ビブリオフェレス)》 Rank:Expert

 ――書なくば、人生に意味はなし。

万象体系(セレスチャルレコーズ)》 Rank:Master

 ――神の視座より、敵を知り、己を知る。

《女神の恩寵》 Rank:Immortal

 ――女神の慈愛が道を照らす。

《並列思考》 Rank:Immortal

 ――思考は力。知は鋼。


 それと同時に、複数の思考が展開する。


(レーナのお陰で、耐久がほぼ回復した。けど、これは、耐久がスタミナとダメージの双方を司っているということでいいんだろうか?)

(加護の増加が著しいね。それだけ、キマイラの攻撃を避けるのは難しいということなのだろうけど……)

(他人が見ていると、ちょっと書きにくいな)

(能力値が0になったらどうなるのか……。確認したいところだけど、簡単にはいきそうにないね)

(これは、他の能力値に割り振ってもいいのではないかな?)

(レーナが食い入るように見ているってことは、この世界でも能力値の表示は一般的ではないんだね。まあ、地球でも一般的ではなかったけど)


「うわ。線がまっすぐだ」

「まるで、僕の性格を表しているようだね」

「それはないかなー」


 ストレートなレーナの否定にも、タクミは揺らがない。大事なのは、自分が信じることだ。他人の評価など、二の次。

 ささっと書き終えると、指をさしながら説明を始める。


「これが、僕という人間を表した数値だ。左上が筋力で――」

「ん? 説明してもらわなくても、読めるよ」

「読めるんだ」


 言葉は通じたが、文字までとは思っていなかったのだろう。タクミは驚きに目を見開くが、すぐに納得へと変わる。


(そういえば、15分という単位も普通に通じていたね)


 この辺は、フォルトゥナが上手いことやってくれたのだろう。害はないので、軽く流す。


「恐らく、一般的な能力値の平均は10になるのだと思う」

「タクミくんの敏捷は、倍ぐらいあるんだけど?」

「全力で上げたからね」

「そうなんだ……って。それって、ボクを助けるため?」

「そうだよ。お礼は?」

「あ、ありがとうございます……」

「どういたしまして。こちらこそ、ありがとう。レーナは命の恩人だよ」

「そんな。タクミくんに比べたら大したことじゃ……って、なんか今のやりとり、変じゃない!?」

「気にするなって言っても気にするだろうから、先手を打って虐げてみただけだよ」

「ふ、複雑ぅ……」


 命を助け合ったという意味ではまさにお互い様だが、レーナのほうが負債は大きいように思える。だが、なにを言ってもタクミには敵わないだろう。

 そう判断したレーナは、話を変えることにした。


「そういえば、タクミくんって16歳なんだね。同い年とは思わなかったよ」

「そうかな? まあ、日本人は若く見えるっていうから、それと同じことかな……」

「いや、外見の話じゃないんだけど……?」

「内面も、単なる学生なんだけど」

「えぇ……。ほんとにぃ?」


 タクミのある意味で非常識な適応力は、《意思による自律(アイアンマインド)》が関係しているように思える。

 けれど、本人に自覚がないようで、なにを言っても納得しそうにない。


 どうやら、話の選択を間違えたようだ。


「でも、ランク:イモータルってぐらいだから神の領域! みたいな感じのが一杯並んでいるけど、具体的な内容がちょっと分かりにくくない?」

「恐らく、神々にはそれで通じるんだろうね」

「なんでそこに、神さまが?」

「僕が見ているステータスは、神々がアクセスする台帳みたいなのをのぞき見しているだけだからさ」

「……え?」


 すごい能力だとは思っていたが、そこまでとは考えていなかったようだ。手入れされていない機械のように、レーナが固まる。


「さて。約束通り、レーナの情報を拝見させてもらおうか」

「ちょっ、心の準備が崩壊直後なんだけど!?」

「《万象体系セレスチャル・レコーズ》」


●固有情報

名前:レーナ・ブランシュ 年齢:16歳 性別:女

属性:秩序・善


●能力値

    筋力   耐久   器用  敏捷

   14(12)  14(12)  13(11)  11

加護   2     4     0    1

   知力    直感   意思  外界

    11     10    11   13

加護  5      9     7    6

   魔力   精髄   信仰  調和

    7    26(16)   ―   ―

加護  0     31


●ブレイヴクラス

キャリバー

・アビリティ

操気術(エッセンスクラフト)》 Rank:Expert

 ――精髄の理、手中にありて。

光気会得(フォトンエッセンス)》 Rank:Expert

 ――勇者の力は魔と生の天秤を超越す。

技芸(アーツ)

光子武器(フォトンアームズ)》、《光子外装(フォトンアーマー)》、《光化(フォトンクラスト)》、《光子治癒(フォトンヒール)

身体強化(エンハンス)》、《無欠乃躯(ホーネス)


●メインクラス

ヴァンガード

・アビリティ

武器の匠(ウェポンマスタリー)》 Rank:Basic

 ――意思なき刃に、意味を与う。

戦士の体(トレインドボディ)》 Rank:Basic

 ――心技体は相互関連し、単に一方のみを研鑽すべきものに非ず。

技芸(アーツ)

強打(パワーアタック)》、《受け流し(パリィ)


●サブクラス

ノーブル

・アビリティ

魅力(カリスマ)

 ――自然と余人の注意を引く。良きにつけ悪しきにつけ。

技芸(アーツ)

高貴なる魂(ノーブルソウル)》、《礼儀作法(エチケット)


才覚(タレント)

神の恩寵(グレース)》 Rank:Expert

 ――美は祝福。

《運命の導き》 Rank:???

 ――???????


(加護の扱いが僕と違うのは、《女神の恩寵》の有無だろうね。僕が加護の値を自由に消費できるのに対し、レーナは能力値ごとに加護が蓄積するというわけだ)

(能力に修正があるのは、クラスを取得していることに起因しているのかな?)

(僕の社会的なクラス……階級がフォーリナーなのに対し、レーナはノーブル。つまり貴族か)

(恐らく、能力値が伸びるのに必要な値まで給ったら自動的に上がるんだろうけど……その割には、精髄の値が伸びていないのが謎だね。必要な加護の量も違うのかな?)

(ブレイヴクラス……勇者にならなくちゃいけないのだから、能力に修正があるのは好都合だね)

(育ちが良さそうだとは思ったけど、貴族。貴族なのにあれか……。心配になるなぁ)


 ノートへ書き写しながら思考を簡単に整理し、タクミは判明した事実をレーナへ語る。


「どうやら、クラスのアビリティや才覚(タレント)のランクは、ベーシック、エキスパート、マスター、イモータルの順に希少、あるいは強力と定義されているようだね」

「それに異論はないけど、ボクの才覚(タレント)がひとつ、『???』ってなっているのはなんなの……?」


 不安そうに言うレーナ。

 自然となんとかしてあげたくなり、タクミは推論をひねり出す。


「未だフィックスしていないのか。それとも、検閲でも受けているのか……かなぁ。所詮、僕はゲストユーザだからね」

「えぇ……。ああ、でも、この《運命の導き》のお陰で、ボクらは出会えたのかもしれないよ」

「口説かれてしまった。レーナ、結婚しよう」

「そういうんじゃないから! ボクがキマイラに挑んだのは、キマイラの下に赴けという啓示を受けたからなんだよって、言いたかったの!」

「なるほど。異世界からやってくる僕の案内役……英雄の介添人として呼ばれたのではないか。そう言いたいんだね?」

「そう。かっこいいね! 英雄の介添人!」

「となると、僕が来るのを待っていれば良かったのに、キマイラに戦いを仕掛けてピンチに陥ったと間抜けいうことにならないかい?」

「あうっ。タクミくん、そうやって冷静に急所をえぐるの止めない?」

「困ったな。止めろと言われても、意識してやってるわけではないんだよねぇ」

「悪質だっ!?」


 白い髪をきらめかせ、大げさにのけぞるレーナ。それを目の当たりにして、タクミは心の中で微笑んだ。

 なんとも、和む。異世界で最初に会えたのがレーナで良かったと、心の底から思っていた。


「すべてが解決できたわけではないけれど、レーナの秘密をのぞかせてもらったお陰で、キマイラに勝つ目途は立ったよ」

「ほ、ほんとに? どうやって勝つつもりか、聞いてもいい?」

「キマイラに聞かれたら困るからすべては話せないけど……そうだね」


 レーナから視線を足下に移動させ、タクミは例のバッグからトランプを取り出した。


「カード?」

「ああ。まずは、一眠りしてからだけどね。明日は、ゲームでモンスター退治といこう」


 封の切られていない新品のトランプをもてあそびながら、タクミは丸くなって眠るキマイラを見つめる。


 レーナは今まで遭遇したことなどなかったが、それは詐欺師の微笑みだった。

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