出発
本日も何とか間に合いました。
「待て~!」
僕は右も左も解らない草原の中、僕は幼児の神サマを追いかける。この前世35年と今世16年の中で初めてできた彼女とキスができるか否かの分かれ目に転移させられたのだ。
捕まえてやらないと気が済まない。
僕が追いかけると、神サマはきゃははははははと笑いながら逃げる。右へ走ると左に逃げ、左に追いかけると右に逃げる。
だがしかし!
神サマはバカだった。
僕は左右に振りつつその振り幅を少しずつ小さくして、とうとう草原の端の崖っぷちへと追い込んだ。
「覚悟~!」
神サマめがけて飛び込む僕。
「あらよっと!」
ヒラリと上に飛んでかわす神サマ。
結果、僕は空中に飛び出して、
「あ~れ~!」
真っ逆さまに下に落ちる。
崖の下には僕の人型の大穴が出来てしまった。
「きゃはははははは!」
それを見て神サマがまた大笑いをする。
ゆ・る・せ・ん!!
僕は走って崖をよじ登り、再び神サマを追いかけた。
草原を突っ切り、森を抜け、街道まで追いかけた。
そこで神サマが止まった。どうやら疲れたようだ。僕もはっきり言って辛い。呼吸は荒れ、汗も滝のように流れてる。だが、僕の方が体力があったようだ。
「覚悟~!」
再び僕がタックルをすると、神サマはひらりとかわす。
そう言えば思い出す。この神サマはかけっこ大好き女神だったと。
そして僕は街道に出てしまい、そこに運悪く馬車が通って僕は轢かれてしまった。
「もう、『道路は右、左を確認してから渡りましょう』だよ!」
神サマは馬車に轢かれてせんべいになってしまった僕に可愛く注意するのだった。
とりあえず、街道沿いにブルーシートを敷いてお茶を用意する。3人で一服して心の高ぶりを鎮めてから僕らは話を始めた。
「実は神サマは、異世界転生を失敗してから頑張って練習して、今日とうとう成功させたのですじゃ」
付き人のおさるが胸を張っていう。
成功させるのは明日でも良かっただろう?
「あてし、えらい!あてし、最高!」
かけっこ大好き神サマは僕をすりすりしながら叫んでる。
「とりあえずここはどこだよ?」
「ここはおっさんも想像した通り、異世界セーリアですじゃ。この道をまっすぐ行くとグランディア王国のタムシ村に着きますですじゃ」
「ちょっと、おっさんて何だよ!確かにトータルすると50才になるけど、今は『カケル』って名前があるんだ!」
「かけっこ大好きカケル……いい名前だね!」
「神サマがお気に召すとは、いい名前ですじゃ。ワシもその名前で呼ばしてもらいますじゃ。所でカケルよ。お前にはこの世界を旅してもらいたいですじゃ」
「旅って、何か目的でもあるの?」
「無いですじゃ」
「無いんかい!じゃあ何でわざわざ転移とかさせるんだよ!」
「それは神サマがお前の魂を選んだ時点でカケルはこの世界に来る事は決まっておったのですじゃ。後はこの世界で何をやるかはカケルの自由ですじゃ。まあ、人生他人にこれやれと決められてる人生ほどつまらんとワシは思うのですじゃ」
「ああ、そう……」
異世界に来た目的なんてない、何でもしていいと言われてしまった。
まあ、僕もこれをやれと言われて素直にやるタイプではないし、まあいいか。
「じゃあとりあえず近くの村まで行こうと思うけどいい?」
「カケルの自由ですじゃ」
尻尾をブラブラさせて歩き始めるおさる。
「カケル、次の村までかけっこか?」
僕の周りを走り出す神サマ。
「歩いて行くよ」
歩き出す僕。
何をしてもいい。じゃあテンプレ全部やっちゃおうじゃないか!
そんな事を思いながら僕はタムシ村に足を向けた。