スキル
チュートリアルイベントを終了させた。
名前についてだが、本名の、龍一郎で登録した。
ゲームでいつも使ってる名前や、女の子の名前、女でも男でも通る名前、いろいろ考えたが、やはり自分の体である以上、本名を使うのが無難に思えたのだ。
それにあれだ。可愛い女の子なのに、明らかに男の名前って言うのも、ギャップがあっていいんじゃないかと思うんだ。
まあ、それが他人なら素直に萌えれるのだが、あいにく自分だから、微妙な気持ちではあるが。
結局オッサンを倒すのはやめた。
説明を聞いたところ、初期状態では、娼婦と盗賊の職業にあまり差はないようだった。
だが、娼婦の場合は、あることをすることでその能力が伸びていくようだ。
具体的にどのように強化されていくのかを理解するには、まずこのヒーローアブセンスのシステムを理解する必要がある。
俺はこのゲームを知り尽くしているという自負がある。しかし、それは、もう5年以上前の記憶であるうえ、いま、俺が体験しているこの状況は、ゲームではなく、現実となっている。
それに、俺の娼婦という職業や、オッサンの行動の変化などに見て取れるように、俺の知っているヒーローアブセンスから変わっている部分もあるようだ。
復習と状況の整理の意味も兼ねて、ヒーローアブセンスのシステムを確認しよう。
まずは職業についてだ。
ヒーローアブセンスにある職業は、剣士、弓使い、魔法使い、盗賊だった。今は娼婦もあるが、この内の盗賊と娼婦は後で説明しよう。
まず、剣士、弓使い、魔法使いの三職だが、これはそれぞれ、剣士は近接攻撃、弓使いは遠距離攻撃、魔法使いは魔法攻撃に特化しているということを指す。
特化していると言っても、剣士が近接攻撃しかできず、魔法や遠距離攻撃ができないのかといえばそうではない。剣士は魔法や遠距離攻撃もできる。あくまで特化しているというだけだ。
しかし、この剣士、弓使い、魔法使いの3つの特化と言うのは、選択肢が少ないと思うかもしれない。
確かに少ないと思うが、これには理由があるのだ。その理由が、ヒーローアブセンスの目玉とも言えるシステム、『スキル編集システム』にある。
これを説明するには実際に例を見せたほうが早いと思う。
近接攻撃特性スキルの『突き』というスキルを編集するとする。
スキルには、一つ一つのスキルごとにスキル編集ポイントが設定されている。今回この突きというスキルの編集ポイントを100だと仮定しよう。
スキル編集・制作システムでは、この100ポイントを使って突きのスキルの特色を変更できるのだ。
スピードにポイントを使うと、突きのスピードを上げることができ、威力にポイントを使えば、突きの威力が、攻撃範囲にポイントを使えば攻撃範囲を広げることができる。
クリティカル確率にポイントを振って、改心の一撃が出る確率を伸ばしたり、毒などの状態異常効果をつけることにポイントを振ることも可能だ。
自分の好みにあったポイント振りをすることで、自分の好みにあったスキルの特性にできるのが、このスキル編集システムである。
剣士、弓使い、魔法使いの三職は、各々、自分の特性と同じ属性のスキルのスキル編集ポイントにボーナスが付く。
他の属性のスキルよりも同じ属性のスキルのほうが、より特色を持たせることができるのだ。
この、スキル編集ポイントを、増やす方法もいくつかある。
その方法がというのが、条件付けだ。代表的な条件付けとしては、スキルを使うために消費するMPの消費量を大きくすることで、ポイントを増やしたり、一度使って再度使うまでに必要な再利用可能時間を増やすことでもポイントは増える。
この、条件付けによるスキル強化によって、プレイヤーごとに特色が出てくることが多い。
条件付けの方法として、突きのスキルを行える装備を限定する事で、ポイントを増やすという方法がある。
片手剣属性武器以外で突きスキルを行えなくすることにより、突きのスキル編集ポイントを増やす。といった感じだ。
突きのみにこだわらず、他の近接攻撃のスキルも全て片手剣に限定したスキルで固めれば、そのプレイヤーは片手剣に特化したプレイヤーになるのだ。
装備の限定のみではなく、状況の限定でもスキルポイントを上げることができる。相手の背後からの攻撃の時にしか威力が出ないスキルを作ったり、体力が残り30%を切った時に威力が上がるスキルを作ったりといった具合だ。
各々のプレイスタイルに合った条件付けでスキルを編集することにより、よりそのプレイスタイルに特化されたキャラが出来上がる。
このシステムがあるから、ヒーローアブセンスは職業をあえて、剣士、弓使い、魔法使いの三職に限定していたのだろう。
スキルの編集はかなり奥が深い。
詳細を考えるときりがないので、スキル編集の確認は今回はこのくらいでやめておこう。
しかしどうするべきだろうか。
今回俺が選んでしまった娼婦という職業は、初期状態ではスキル編集ポイントにボーナスはつかない。
ボーナスを付ける方法はある。あるのだが、できればそれは遠慮したい。
最後の手段として取っておこう。
初期の娼婦の職業は、盗賊の職業と同じく、ボーナスの付く属性スキルはない。
その代わり盗賊と娼婦には、他の職業に使えない特殊スキルがいくつかあるのだが、これらは戦闘が優位になるタイプのスキルではない。それらのスキルの詳細については、またあとで考えるとしよう。
なので俺は、メニューを開き、スキルの編集をとりあえず、ちゃちゃっとゲーム時代に盗賊を使っていた時のスタイルと同じように設定して完了した。すると、スキルは再編集ができなくなる。
各スキルの編集は、基本的に一日に一回しかできない。これは、モンスターごとやプレイヤーごとで何度もスキルを編集して、優位なスキルばかりを使うというのの対策らしい。
つまり、今日一日俺はこのスキルを変えることはできなくなった。
そこで俺はあることに気づく。
「そういえば、スキルってここではどうやって使うんだろう?」
ゲームだった時代は、スキルをスキルトレイにセットして、対応するキーを押すことで、発動していた。しかし、メニューの時にもそうだったが、今この世界には、キーボードなんてものはない。
それにだ、再編集可能になるまでの時間が一日というのは、ゲーム時代の話で、この世界でもそうだとは限らない。
「もしかして早まったか?」
俺はすでに、現在持っているスキルを、すべて編集してしまった。
下手にゲーム時代の知識があるせいで、不用意な行動を取ってしまう。
スキルについてはもう編集してしまったので仕方ないが、今後はもっと慎重に動くべきだろう。
俺は一度ゲームのシステムの確認をやめて、まず先に、この世界の情報を集めることを優先することにする。
果たして俺はこの調子で、この世界でうまく生きていけるのだろうか・・・。