一話 伊藤ほのかの挑戦 落ちてきた男編 その七
「すまない。危ない目にあったのに配慮が欠けてたな。もし、怖いならやめるか?」
「……いえ、大丈夫です! やっつけちゃいましょう、先輩!」
先輩は私の肩を優しく叩いて前衛に戻る。
……ふふふっ。
笑いが止まらない。ヤバイ、私、チョロすぎでしょ。肩を触られて、叩かれただけなのに、嬉しくてドキドキが止まらない。
力が湧いてくる。
ツイストサーブはもう、島津君には通じない。
だったら……。
「はぁ!」
トスを上げながら膝を曲げ、ジャンプをしてボールをラケットに叩きつける。
もちろん、私のジャンピングサーブは島津君に軽く返されてしまうけど、私だって負けてない。
島津君と打ち合いが続く。でも、負ける気がしない! だって、先輩に力、もらったから! 負けたくない!
「チャンス!」
私は全力でスマッシュを放つ!
「!」
島津君がまるで弾丸のように、ボールの落下地点に飛び込んできた。
足を大きく前後に開き、ラケットを上から下、上にまるでゴルフのスイングのような軌道を描き、ラケットを振りぬく。
「はあっ!」
あんな大振り、普通なら場外ホームラン(フェンスを越えて飛ぶボール)だけど、きっとコートに入る!
直感で私はボールに飛びついた。
届け! 私は必死に手をのばす。
絶対に届く! 先輩に発破をかけられたんだ。絶対に打ち返してみせるんだから!
ラケットにボールが……当たった! 奇跡的にラケットに当てることができて、相手のコートに入った。
「デュース!」
私はガッツポーズをとる! 先輩も喜んでくれている! やった!
勝ちますよ~先輩!
あれ? 島津君が跪き頭を垂れてる。もしかして、必殺ショットを返されて、ショックとか。
「し……」
「「「島津のアックスキャノンが返された!」」」
テニス部員全員が驚いているけど、そこまで驚くようなことなの? 偶然だよ? 次返せって言われても返せないよ?
あとね、みんなして必殺ショットを返されたっていう事実確認は、島津君の傷口に塩をぬるような行為だと思うな……。
仲間でしょ? 気を遣おうよ。
スポ根漫画でよく必殺技があるけど、破られたくらいで落ち込み過ぎだと思うのは変なのかな?
特に野球なんて打たれてナンボだと思うんだけど……三振の続く試合なんて野球ファンは納得いかないよね?
喜ぶとしたら、テレビ中継が早く終わって、ドラマやアニメを楽しみにしている視聴者か、時間をつなぐためにCMを放送しまくるスポンサーくらいじゃない?
肥後君は……あっ、先程の先輩の睨みで泡吹いて倒れてた。
精神力、ヨワッ!
もしかして、ゲームセット? えっ? うそ?
ま、まさか、私達の勝ち……。
「立て! 島津! 肥後!」
な、何?
声がした方を見てみると、青島高等学校と書かれた旗が空高く掲げられ、応援団と演奏部、吹奏楽部、テニス部員が勢ぞろいしていた。
「ここで終わる気か、島津君、肥後君! あきらめたら試合終了だぞ!」
「島津! お前は青学の柱になれ!」
「「「青学! 青学! 青学! 青学! 青学!」」」
「~~~♪ ~~~~~♪」
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
テニス部員のみんなが島津君と肥後君を叱咤激励してるし!
しかも、吹奏楽部がテンションあがるBGMを演奏しているよ!
あ、あれは!
応援団の中に元スクールアイドル、ヒューズのメンバー全員がいる! しかも、旗を持っているのはFLCの近藤先輩だ!
近藤先輩と目が合う。少しテレたように笑ってくれた。
見つけたんですね、居場所を。
ううっ、ちょっとほっこりしちゃいました。近藤先輩の苦労が報われたんですね。本当に良かった。
でも、アウェイ感がハンパないんだけど。やっぱり、近藤先輩、ヒューズを解散させる原因を作った私達の事、恨んでます?
ちなみにサッキーは状況についていけないのか、おろおろしていて、黒井さんはドン引きしてます。
その時だった。
「きゃ!」
島津君と肥後君の体が銀色に光ったと思うと、全身から細かい粒子のようなものが体に巻きつくように発生している。
あ、あれは、まさか!
「さ、悟りの境地ですよ! 先輩!」
「い、伊藤、何を言ってるんだ? 何からツッコめばいいかわからん」
先輩! ここはツッコむところじゃありませんよ! 空気読んでください!
「もう、先輩! 何寝ぼけてるんですか! この展開はスポ根だけでなく、少年漫画の王道じゃないですか! ピンチになったら覚醒してチート級の強さになるんですよ!」
「今までの努力をあざ笑うかのような展開だな」
そこが面白いんですよ!
クイズ番組でいえば、最終問題、正解した人に百万ポイント与えられちゃうみたいな展開。今まで積み重ねてきた成果もへったくれもない。
私達、完全に島津君達の引き立て役っぽい。
でもね、やられ役もね、モブもね、必死で努力して強くなっている人もいるんですよ? その努力は認めてね。
「だ、だが光ってるぞ?」
「それは大人の事情です」
「いい加減にしろよ」
「ナイスツッコミです」
なんだかんだで試合が再開される。
どうでもいいけど、吹奏楽部が処刑BGMを流しているのはなぜ?
私のサーブがあっけなく打ち返されて……ちょ! リターンが早い! 返すのが精一杯!
ロブでボールが肥後君の前に飛んでいく。スマッシュ? おかしい、構えが変だ。ラケットを両手で握って、ジャンプした。でも、何もしない。そのままボールは落ちて、バウンドした高いボールを……ああっ!
「おおぅ!」
ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
すごい音がした。あれは! エアー○イ!
異常なほど、長い滞空時間で放つフォアハンドのジャックナイフショット。
大気を貫く金色の軌道を描いて飛んでくるボール……あれって今回問題になった、男の子が降ってきた原因のショットだ!
あれが当たると、最悪、観客席の最上部までその体が吹き飛ばされちゃう!
当たれば刑務所行き間違いなしの殺人級のボールが先輩に向かっている。
よけて~先輩!
「ハッ!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
あれを、打ち返した……打ち返したよ! 流石は先輩! ボールはコートから大きく出ちゃったけど、打ち返せるんだ……。
空気読めずに打ち返しちゃうところはマジ尊敬できます、先輩!
その名の通り、必殺ショット打ち返されたのに、肥後君は笑っていた。
「ふっ、調子に乗るなよ、俺のエアーストロング砲は佰九式まであるぞ」
「なぜ最初から本気で打たないんだ?」
「先輩、空気読んで。格闘ゲーム的なゲージが増えないと強いのが打てないんですよ、きっと」
後、ツッコむところが違います。それにしても、エアーストロング砲って……超電磁砲の親戚なの?
血なまぐさいことより、爽やかな青春しましょうよ。しかも、応援、うるさいし!




