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四話 自慢させてくれよな その六

「あんちゃん、お帰り」

「おう、ただいま」


 次の日の午後、俺が家に戻ると強が先に帰っていた。

 俺は強に話しかける。


「強、一緒にキャッチボールしないか?」

「……ごめんなさい」


 ピンポーン!


「おら、強! 誘いに来てやったぞ!」

「こら、剛! 近所迷惑でしょ!」

「雅ちゃんも声が大きいよ~」


 玄関先からやかましいガキ達の声が聞こえてくる。

 そっか……そうだよな。

 俺は強の頭を優しく撫でた。


「先約があるんだろ? だったら、行ってこい」

「……うん!」


 強はグローブとボール、バット一式を持ち、玄関へ向かっていく。強は友達に囲まれ、グラウンドへ走って行った。

 ただ、遊びにいっただけなのに、なぜだろうな。目頭が熱くなったのは。

 情けない。バカか、俺は。


「強ちゃん、とられちゃいましたね」


 楓さんは嬉しそうに強の後ろ姿を見送っている。


「……別に。あるべきところにかえっただけですよ」


 そうだ。小学生は友達と遊んでいればいい。いつまでも兄貴と遊んでいても仕方ないだろ?


「……シュナイダーの散歩に行ってきます」

「ああ、シュナイダーちゃんは強ちゃんが連れて行くって言ってましたよ。シュナイダーちゃんにも友達が出来たって」


 おのれ、プードル。

 やることがなくなってしまった。今日は晩ご飯の当番ではない。自由な時間があるのだが、もてあそびそうだ。

 受験勉強とバイクの整備でもするか。


「正道さんは強ちゃんのことになると、過保護になるわね」


 楓さんに笑われてしまった。

 いや、分かってますよ? けど……。


「……変ですか?」

「いえ、素敵なことだわ」


 俺はつい、楓さんから顔をそらした。

 俺はただ、強に問題があったから訂正しただけだ。見て見ぬ振りはもう嫌なんだ。


 俺はイジメにあっていた。

 誰もが俺を見て見ぬフリをして助けてくれなかった。俺が弱かったから、親友(けんじ)を失った。


 だから、強にはそんな目にあわせたくない。見て見ぬ振りをしたくなかった。

 強が抱える問題があるのなら、手助けをしたい。家族として……強と同じ境遇にある同士として……。


 ツヨシハスクワレタノニ、オマエハスクワレナインダナ? ナゼダ?


 胸の中にある痛みを我慢し、俺は部屋に戻っていった。




 次の日。

 俺はゴミトングとゴミ袋を手に、町内の清掃活動に勤しんでいた。当たり前だが、風紀委員は不良を取り締まるのがメインの仕事ではない。

 町内会の手伝い、清掃も含まれている。去年は隣に相棒(いとう)がいたが、今は誰もいない。

 俺は黙々と清掃活動を続ける。


 寒風に身が縮むが、終わった後に支給される温かいミルクティーは格別だ。

 疲れた体に甘くて暖かい飲み物は疲労を和らげてくれる。

 俺は自分の担当地域を全て回り、ゴミの集積場に戻った。


「お疲れ様、藤堂君」

「お疲れ様です、田島先生」


 強の小学校の体育教師、田島先生に挨拶する。

 青島の町内清掃は近くの小、中、高の学生と先生方が協力して活動しているので田島先生とはよく顔を合わせる。

 俺は手袋を後ろのポケットに突っこみ、手を洗った後、田島先生から缶ジュースを受け取った。


「寒いね」

「寒いですね」


 お決まりの言葉を交わし、真冬の寒空の下、清掃がどれだけ大変か、お互い(ねぎら)っていると。


「「「田島先生」」」


 田島先生に話しかけてきたのは、強達だった。

 野球の帰りなのか、服が少し汚れている。けれども、強達の顔は笑顔だ。

 強達は田島先生とおしゃべりしたあと、そのまま帰ると思ったが、意外にも俺に話しかけてきた。


「ご苦労ご苦労! あんちゃん!」

「お疲れ様です、お兄さん!」

「お掃除、お疲れ様です、お兄さん」

「……あんちゃん言うな」


 剛、雅、奏が俺に元気よく挨拶をしてきた、強だけが不満げに強にツッコミを入れている。

 相変わらず騒がしいヤツらだ。まあ、小学生だし、これくらい元気があったほうがいいか。


「おう。今日も野球か?」


 俺の問いに、剛はあからさまに顔をしかめてみせる。


「何が悲しくてこんな寒い時に野球しなきゃならんのかね~」

「アンタは下手くそなんだから、練習しておきなさいよ。今日も打てなかったでしょ」

「うるせえ、ブス! お前だって打てなかっただろうが!」

「なによ!」

「んだよ!」


 お前ら、よく飽きないよな、そのテンプレ。微笑ましくなるわ。


「亀の方が才能ある」


 強がぼそっとした声で雅をフォローする。

 眉毛が逆ハの字につり上がっていた雅の表情が一気にしおらしくなる。


「えっ? そ、そうかな?」

「てめえ! いつからそんな軟弱な性格になった! 女の肩なんて持つなよな!」


 いや、お前、朝乃宮に尻尾振りまくりだろうが。清々しいほど自分の事は棚に上げるな、剛は。


 俺は目を細め、三人のやりとりを見守る。

 俺が知る限り、強はいつも一人だった。

 一人で壁にボールを当て、野球選手を目指していた強。

 けど、シュナイダーが我が家にやってきて、剛達が現れた。

 少しずつだが、強の周りに人が集まっている。孤独でなくなっていく。

 そのことが嬉しくて、胸に熱い想いがこみ上げてくる。

 よかったな、強……。


「ありがとうございます、お兄さん」


 いつの間にか奏が俺の隣に立っていた。もう、いちいち驚かないからな。


「なにがだ?」

「蔵屋敷君のことです。お兄さんですよね? リトルに呼び戻したのは?」


 ほんと、奏は(さと)い子だ。この子は一歩下がったところで強達を見守っている。

 もしかすると、強がみんなから離れていた後、彼女が剛と雅に強の復帰を諦めないよう説得していたのかもしれない。

 でなきゃ、剛が強を気にかける理由が説明つかない。

 俺は目を閉じ、淡々と告げる。


「強が決めたことだ」

「けど、お兄さんが蔵屋敷君の背中、押したんじゃないんですか?」


 俺は何も答えない。黙秘権くらい許されていいだろ?

 大切な事は今、強があそこにいることだ。友達の輪にいるあの場所に。


「一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうして、そこまで蔵屋敷君の事、気に掛けるんですか? 蔵屋敷君、言っていました。お兄さんに救われたって。血のつながりがないのに、どうして強君を助けるんですか?」


 救われたか……。

 その一言でこっちが救われた気分だ。

 俺の行動は間違っていなかったんだな。俺みたいなヤツでも誰かの救いになれるんだな。

 俺が強の事を助ける理由か……。

 そんなこと……。


「だから、どうした」

「はい?」

「強は藤堂家で預かっている。だから、面倒を見る。それだけだ」


 血のつながりとか、そんな面倒な事じゃないんだ。

 助けたいから助けた。強に自分の姿を重ねていたとしても、強の事を助けたい気持ちに嘘はない。嘘はないんだ。

 だから、行動する。

 だよな、相棒(いとう)


「……少し、お兄さんの事、分かった気がします」

「そうか?」

「ええっ」


 奏はこれ以上、俺に尋ねることはなかった。

 俺は奏に礼を言う。


「ありがとな、奏」

「何がですか?」

「最初に俺のこと、強の兄貴だって認めてくれただろ?」

「さあ? なんのことでしょう」


 今度は奏がすっとぼけている。けど、俺は忘れてない。

 俺が強を連れて、三人にグラウンドへ行こうと提案したときだ。

 雅が何言っているんだコイツって顔をしていたとき、奏が。



「雅ちゃん、お兄さんが言っているのは、強君とみんなで野球で遊ぼうって言ってるだけだよ」



 そう言ってくれた。

 奏は朝乃宮に似ていると思った。人をからかうが、いざってときは正しい道へと修正してくれる。

 本当に厄介なヤツだよ。


「おい、奏! 行くぞ!」

「奏! いくわよ!」

「うん!」


 奏は剛と雅に呼ばれ、強達と合流する。


「あんちゃん。また後で。シュナイダーの散歩は俺がいくから」

「ああっ。頼む」

「あんちゃん、またな!」

「さよなら、お兄さん!」

「失礼します、お兄さん」


 強達は去って行った。俺は四人の姿が見えなくなるまでずっと見送った。

 本当によかったな、強。


「いい兄貴なんだな、藤堂君」


 田島先生の言葉に、俺は目を閉じ、答えた。


「……最高の褒め言葉です、田島先生」




 強とのエピソードはこれで終わり……かと思っていた。だが、違った。

 この一件があらたな二つの試練の幕開けとなる。その名の通り、俺は強を巻き込んで事件に発展するのだが……。

 それと、もう一つの試練は……どうでもいいな。バカバカしいが、面倒な事に巻き込まれるのは確かだ。

 それはもう少し先になって判明するのだが、このときは想像すらしていなかった。


「……」

 ここまでお読みいただきました読者様、今年一年、ありがとうございました。

 今年の投稿はこれにて終了です。

 次の投稿は未定です。

 よいお年を。 恵鉄

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[良い点] 続編待ってまぁす!
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