六話 ハーレム男の落日 風紀委員編 その三
ピンポンパンポーン。
「風紀委員の藤堂正道君。風紀委員の藤堂正道君。至急、生徒指導室まで来てください。繰り返します……」
昼休み、伊藤と左近に合流した俺は、最後の仕上げをするために最終確認をしていた。
その途中で、この放送が流れてきた。
「この呼び出しって……」
「ああ、風紀委員長の仕業だな。余程俺が気に入らないみたいだな」
「ど、どうするんですか! これから最後の作戦を開始するのに!」
伊藤は不安そうに俺を見つめている。俺の呼び出しは、作戦の中には含まれていない、想定外の事だからだ。俺は生徒指導室の方角を睨みつける。
高城先輩との衝突は避けられない。ならばここで決着をつけるべきだ。
左近と伊藤の仇をここでとる。
決意をみなぎらせ、俺は伊藤を安心させるよう、口調を和らげて話す。
「こっちは俺に任せろ」
「でも……」
「分かったよ、正道。押水君は僕達二人で対応する」
俺は左近と軽く拳をあわせる。
左近と伊藤なら問題なく、作戦を実行できるだろう。伊藤はまだ不安そうな顔をしている。
「風紀委員長のことは任せてくれ。その代わり、押水の件は任せていいか、相棒?」
相棒という言葉に、伊藤はぽかんと口を開けて固まっていたが、すぐにとびっきりの笑顔になる。
「任せてください!」
伊藤とハイタッチを決め、三人はそれぞれの戦場へ歩き出した。
さあ、前哨戦だ。
「失礼します」
俺はノックをして、生徒指導室に入る。
中に入ると風紀委員の顧問と風紀委員長の高城先輩、生徒会長の三人が待っていた。何度かこの部屋に入ったことはあるが、まさか指導される側として入ることになるとは思ってもいなかった。
この部屋は問題が発覚した生徒を呼び出し、事情を訊くための部屋だ。部屋の中には机と椅子、後は棚とその中に書類があるだけだ。
俺が入ってきたことを確認した顧問が席に着くよう、促す。俺は頭を下げ、席に着いた。前方には顧問、左右に生徒会長と高城先輩がいる。
顧問がなぜ俺を呼び出したのか、説明が始まった。
「いきなり呼び出してすまない。藤堂、確認しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「藤堂の行動に問題があると風紀委員長から意見があった。そのことで話を聞きたい」
始まったか。ここで負けるわけにはいかない。高城先輩との決着をここでつける。
気を引き締め、顧問に問いかける。
「問題とは何でしょう?」
「藤堂のスタンドプレーが目に余るとのことだ。押水にしつこく付きまとい、迷惑をかけていること。押水がプロデュースするスクールアイドルの進行を風紀委員長の許可なく勝手に進めようとしていること。そうだな、高城」
「はい。何度も藤堂君に注意しましたが、耳を貸してはくれませんでした」
「だそうだ。藤堂の意見を聞かせてくれ」
顧問の問いに、俺ははっきりと答える。
「高城先輩の誤解です。最近はスクールアイドルの件が忙しくて、押水君に近づいていません。そこにいる生徒会長がご存じのはずです」
生徒会長に視線を向けるが、生徒会長は黙ったまま何も言わない。俺はかまわず説明を続ける。
「スクールアイドルの件は、風紀委員全員が独自で動いています。それぞれができることをする、それが風紀委員のスタイルです。大まかなことは風紀委員長から指示を受けますが、細かいことまで指示される覚えはありません」
この内容は半分が本当で、半分が嘘だ。独自で動いていては、組織そのものが成り立たない。だが、個々の能力には違いがある。
例えば喧嘩の強い者、弱い者、交渉能力が得意な者、苦手な者といった具合だ。
それを見極め、指示をするのが風紀委員長の役割だ。ただ、指示に関してはしてほしいことと注意事項だけ。どう解決するかは任された者の独自の判断となる。
現状、高城先輩の指示を受けて行動している者はほぼいない。信用がないからだ。
それを踏まえ、皮肉をこめて俺は理由を述べた。
これに高城先輩が反対意見を出す。
「嘘です! 押水君は今、いわれのない中傷を受けています。その原因が藤堂君の執拗な付きまといのせいです。藤堂君の行動に影響されて、他の生徒も押水君を傷つけるようなことをしてしまうのです。藤堂君の勝手な行動のせいで風紀委員はバラバラでまとまりません。そのせいでスクールアイドルの件がスムーズにいきません」
まるで俺がこの騒動を先導しているかのような高城先輩の抗議に、俺は反論する。
「それこそ誤解です。押水君と話す場合は生徒会長を通してくれと言われていますので、それを守っています。彼と話をするときは生徒会長が立ち会っています。それ以外は会っていませんし、付きまとっていません。嫌がらせを受けているのは、彼自身の問題です。彼の女性関係については風紀委員長も先生もご存じのはずです」
押水の女性関係を指摘すると、風紀委員長は顔をしかめている。顧問は俺の意見に頷いてくれる。
「風紀委員がバラバラなのは、私のせいではありません。申し訳ありませんが、高城先輩が信頼されていないからです。高城先輩はまだ風紀委員長になって日が浅いです。他の風紀委員と信頼関係を築くには、一緒にいる時間を増やして、少しずつ信頼を得ればいいことです。その努力もせずにすぐに人の信頼を得ようだなんて、虫が良すぎませんか?」
「高城、この意見についてどう思う?」
俺の挑発に高城先輩は歯を食いしばり、怒りをのみ込む。それでも、高城先輩は顧問に食い下がる。
「スクールアイドルの件は私の実力不足を認めます。他の風紀委員に信頼されるよう、努力します。ですが、押水君の件は別です。藤堂君は押水君に私怨があります。『受けた仕打しうちは必ず返す。覚えておけ』と言い残しています。それは生徒会長も聞いています。そうですよね?」
「はい。実力行使に出るとも言われました」
生徒会長は高城先輩の意見に同意する。高城先輩は痛いところを突いてくる。私怨と受けとられても仕方のない発言だ。
形勢が高城先輩にむいていく。
「押水君の件は、藤堂君では冷静に対応できません」
「その件についてはどうだ、藤堂」
ここで引くわけにはいかない。今、風紀委員を辞めさせられたら、押水をとめる者がいなくなる。
ここは我慢時だ。あせる必要はない。反撃のチャンスを待つんだ。
「押水君のことで少し感情的になっていたことは認めます。しかし、押水君のことを調べあげ、誰よりも真剣に対応しているのは自分です。自分こそが適任だと思います」
「待ってください」
俺の問いに、高城先輩は笑顔で断言する。
「そうでしょうか? 適任者は第三者である私のほうが適任だと思います。私なら冷静に対応できます」
「冷静にですか?」
俺の問いに瞳は笑顔で断言する。
「はい。必ずこの問題を解決してみせます。そもそも、押水君を問題児として扱うのは間違いではありませんか? 少し女性関係の問題が多いですが、私の注意を受けて、押水君は大人しくしています。下手に刺激すれば、問題が発生すると思いますが、違いますか?」
高城先輩の問いに、俺は質問で返す。
「押水君を注意したのですか?」
「はい。生徒会長の立ち合いのもとで注意しました。そのとき、押水君は自分の軽はずみな行動を反省して、これからは自重すると約束してくれました。そうですよね、生徒会長?」
「はい、間違いありません」
生徒会長の同意を得て、高城先輩は自分こそが適任者だと顧問にアピールする。
「彼は反省しています。なのに、藤堂君が勝手な行動を続けるので、トラブルが発生しています。私の苦労が水の泡です。これ以上、邪魔するのであれば、藤堂君には風紀委員を辞めて頂きたいと思っています」
生徒会長と高城先輩はグルだ。二人は協力して、押水を守ろうとしている。
二対一か……不利だな。
だが、ここで押水の対応を高城先輩に譲るわけにはいかない。
「押水君の対応に必要なのは物事を正しく理解し、判断できる冷静さです。感情的では偏った思いこみで判断力を鈍らせます。その結果、余計なトラブルを作ってしまいます。感情的になりやすい藤堂君には向いていません」
確かに、俺は押水のことになると感情的になってしまう。
感情的になってしまうのは、押水のせいで苦しんでいる被害者達を見てきたからだ。被害者達の気持ちに入れ込んでしまい、冷静になるのは難しい。それでも、途中でやめるわけにはいかない。
ここでやめてしまったら、今までの行動が全て無駄になる。押水の行動で迷惑を受け、今も苦しんでいる者がいる。
押水がはっきりしないせいで、押水を好きな女の子達は報われない想いを抱えたまま苦しんでいる。
押水のせいで苦しんでいる人が増えていくことを、俺は見過ごすことができない。納得できない。
俺の風紀委員生命をかけてでも、必ず、押水には報いを受けてもらう。




