プロローグ クレマチス -策略-
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「ほのかさん!」
「咲、いってあげ」
「はい!」
朝乃宮の言葉に背中を押され、伊藤さんの後を追っていく上春さんを、僕は黙って見送った。
「黒井」
「……相変わらず手のかかる人ですわね」
御堂の言葉に、黒井さんがやれやれと肩をすくめた後、二人を追っていく。
ごめんね、上春さん、黒井さん。僕のせいで迷惑をかけて。そう心の中で謝る。伊藤さんの事は二人に任せれば大丈夫だろう。
問題はここにいる四人だ。四人の視線が僕に一斉に向けられている。
「橘、どういうつもりだ? 言いすぎだろ、あきらかに」
「ウチ、驚いたわ。伊藤はんに激アマの橘はんがあんなキツいこといいはるなんて」
「あ、それ、僕も思った。左近、伊藤氏を怒らせたの、わざとでしょ?」
「……いい加減、俺の名前を悪口に使うのは止めて欲しいんだが」
風紀委員室に残った各々の意見を、僕は笑って受け止める。
確かにちょっと意地悪が過ぎたかな? 獅子王先輩の件で少し意趣返しが過ぎたのかもしれない。
少し大人げなかったね。反省しないと。
「あれでも、穴だらけの意見なんだけどね。論破してほしかったよ。ねえ、みんな。今回の件は僕に一任してくれない?」
「それはいいけど、押水一郎のような事は勘弁してくれよ」
潤平の問いに、僕は頷く。もう、二度と無様な姿を見せるわけにはいかない。そろそろ名誉挽回しておかないと。
とはいえ、暴力沙汰なら何度も経験があるから勝手が分かるんだけど、同性愛は未知の領域だ。
何が起こるか分からないし、予測も難しい。いつも以上に注意深く行動しなければならないだろう。
それに獅子王先輩個人の問題も解決しなければならない。
獅子王一。
獅子王財閥の後継者であり、ボクシングのインターハイ三連覇の実力者。そして、現在学園一番の問題児でもある。
気に入らない者は男女関係なく暴力を振るい続け、先生方を困らせていた。
獅子王のビックネームと、多額の寄付金の関係で、先生方は獅子王先輩に注意できない。
そこで風紀委員にお鉢が回ってきたのだ。
大抵の問題児は正道一人で事足りていたのだけど、今回は僕自身が直接動かなければならないだろう。それほど厄介な問題だ。それに、借りは返さないとね。
獅子王先輩は、正道と伊藤さん、朝乃宮を傷つけた。特に、伊藤さんを泣かせたことは許せない。御堂を抑えるの、大変だったんだから。
気を引き締め、僕は正道に話しかける。
「正道、また手伝ってくれる?」
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