表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

ところにより、宣言をするでしょう

朝の白い光を感じ、ナオミは瞼をゆっくり開けた。

頭が覚醒してくると、自分の体調を確認する。


ん、今日はだるくない。大丈夫。


次に身体を動かそうとした。が、動けない。腰回りと身体の側面に重みを感じたため首を巡らし自分の隣を見る。


「またか……」


笑って、小さく息を吐く。

彼女の身体に腕を絡め、すぐ横に美しい少年がすやすやと眠っていた。



部屋を別にすべき!


そうコウタが主張したのは1週間前、盆の少し前のことだった。

スイの身長もぐんぐん伸び、160cmあるナオミに届きそうになった頃のことである。


たまたまスイとナオミがまだ一緒に寝ている事を知った幼馴染みが、声高らかに主張した。というか必死に説得してきた。


「龍の頃から一緒に寝てた。今更分ける意味などないだろう」

「お お あ り だ!普通人間の男女は一緒に寝ねえ!」

「スイは龍だ」

「お前その固定された認識まず改めろ!」


こんな調子で話し合いは平行線を辿った。

スイも隣でずっと拒否をしていたが、最終的にはナオミが折れた。「1人で寝ることは自立の精神を養う!」というコウタのセリフを聞いたからだった。

セリフのあと「……養う、はず」という小さな声が追加されたのは聞こえなかった。


スイにはたくましく育ってほしい。

すぐナオミはすぐさま2階の空き部屋を整え、彼の個室にした。

ちなみにしぶしぶ荷物運びを手伝ってきたスイが、大きな箪笥たんすを軽々と運ぶ姿には仰天した。


そしてスイのひとり寝が始まった。

…が、残念ながらスイは朝になると必ずナオミの隣に眠っていた。夜中に潜り込んできてしまっているようだった。


そして、同時期からナオミがの体が不調になった。何となくだが、ずっとだるく、眠い。

スイがナオミの気を多めに吸ってしまっているのではと思ったのは、スイの成長が急に早くなったことに気づいたからだ。


スイが人型をとって以来、ナオミが不調になるほど食事を採る(気を吸う)ことは無かった。

しかしスイが今までになく自分にしがみ付いて寝るのを見ていると、寂しくて食事の加減ができなくなっているのではとナオミは想像した。


お陰で長く睡眠を貪る羽目になってしまうが、別に死にはしないと分かっていたし、スイが嬉しそうに添い寝してくるので許してついつい許してしまった。


「背は伸びても、まだまだ子供だな」


幼馴染がここに居たら絶対に違うと否定しただろう結論をナオミは出した。


そっと、幸せそうに眠るきれな頬を撫でてやる。スイはくすぐったそうに身じろぎし、目を閉じたままナオミの首筋に顔を寄せた。

かわいい。

幸せな気分になった。


今朝はだるさはない。出掛ける予定があるので、スイは頑張って調整してくれたようだ。


ナオミは本格的に彼を起こすため、さらさらの茶髪の頭に手を伸ばした。



◆◆



「気持ち、いいーーっ!」


アヤの元気な声が響いた。


ここは、ナオミの家から車で約20分、徒歩で20分の山の中にある川辺。スイが生まれたと言う美しい河原であった。

ここで白銀の父龍と出会ったのも記憶に新しい。


「コウちゃん!こっち魚がいる!来て来て!」

「あまり下流に行くなよ。そっち、急に流れが速くなってっから」


スカートをめくりあげはしゃぐアヤに向かい、岩の上からコウタが注意した。

彼が注意した先は、実はナオミが過去に川に落ちた現場である。


ナオミは、そんな2人を離れた木陰の岩から眺める。隣には本を広げ読みふけるスイ。


今日はいつもより少し雲が多い青空が広がっている。

ときどき河原を走る雲の影がお盆明けの暑さを紛らわせる。

また両岸から川の淵に覆いかぶさるように茂る木々が、程よくナオミ達を直射日光から守っていた。目の前を流れる川の音が心地よい。


木漏れ日がスイの白い頬に陰を落とし、風が彼の絹のような茶髪をさらさらと踊らせていた。

ナオミは美しい龍人の横顔を眺める。


スイの身長はとうとうナオミを超えてしまった。


彼女の拳ひとつ分は高く、コウタに届く背丈になりつつある。人で言えば16、7歳だろうか。

天使のような美しさと清らかさはそのままに、少しだけ男らしさも加わった。


スイの成長は嬉しい。しかし彼が自分の手から離れていくような気がしてナオミは少し寂しさを感じるのだった。


ぱら、っとスイの白く長い指が本をめくる。


近頃、彼は図書館通いを止めていた。どうやら複数の女性から言い寄られたようだ。

本は読みたいけど、と悲しそうな彼が可哀想で。ナオミは図書を借りに行く役目を買って出た。スイは相当遠慮したが押し切った。

今彼の手元にあるのは本はナオミの仕事によるものである。


「何よ、あんた達は遊ばないの?」


気づくと目の前に、腰に手を当て前かがみに自分の顔を覗き込むアヤが居た。猫目がくりくりとこちらを見つめている。

今日、この川に来てみたいと言い出した張本人だ。


「…動く水は苦手だ」

「何言ってんの。死にはしないわよ」


昔死にかけたがな。


嫌がるナオミの腕を引っ張り、アヤは川に向かって行く。後ろでスイがいってらっしゃい、と口を動かし微笑んだ。



◆◆



ナオミと入れ違いにコウタが休憩に入った。

スイの座る岩の近く、木陰に置いていたペットボトルの水を立ったまま飲む。


コウタは眩しそうにナオミを見た。

彼女は水辺でアヤと何事かを話し込んでいるようだ。仲良くできているようで安心する。


このきれいな場所に、またこうして彼女と来れるとは思っていなかった。

…まあ数名おまけが着いてきているがそれは今回仕方ないと思おう。


昔のことは謝っても謝っても償えるとは思っていない。大切な幼馴染を命の危険に晒し、心に傷をつけてしまった。

それでも当時のコウタは、元気になってもらいたい一心でここにナオミを連れてきていた。表情を全く消し、暗い影を背負って祖母の家に長期滞在を始めた幼馴染。詳しい事情は知らなかったが、コウタはとにかく彼女を喜ばせたかった。


幼いコウタは事故の後も毎日ナオミの元に通った。川に落とされたことをナオミ本人からもしっかり怒られたが、怒るという感情を自分に向けてくれたことは嬉しかった。

喧嘩では負け無し、近所で悪ガキと言われていたコウタの熱心な姿に、母親も呆れながらも笑っていた。騎士みたいねと息子をからかった。

何を言われても気にしなかった。少しずつ元気になっていくナオミを見て、彼は心に誓ったのだ。


彼女はずっと自分が護る。


そうして努力だってしてきた。

なのにこいつは―――


コウタは隣に座る人物を横目で見る。


美しい少年。そしてその本性は龍。


今、朝から晩まで彼女の側にいるこの存在にコウタは警戒をしていた。


幼い姿で庇護欲を掻き立てるに始まり、今は純真を装って信頼を得ている。

彼女の一番近い立ち位置を取られたことは悔しい。けれど何よりも心配なことがあった。


彼の世話に夢中になっているナオミは気付いていない。


―――この龍のナオミへの気持ちは偏りすぎている。


人外の、理解できない感情とその生態。ナオミを幸せにできるとはどうにも思えなかった。


もちろん今だって。




水の入ったペットボトルの蓋を閉めながら、コウタはスイを睨んだ。


「お前またナオミの気、無理に食ってんだろ」


スイは無視し、平然と本を読み続ける。


「見てりゃ分かるんだよ。あいつ顔色悪い…。そういうのやめろ、ナオミに負担がかかる。本当は調整できるくせに何やってんだ」


自分に話しかけていると分かっているのに視線すら向けない。

普段からこうだ。

この龍は、ナオミ以外へは笑顔も見せず、コミュニケーションを取ろうともしない。まるでナオミ以外は要らないというように。


これはナオミのためにならない、とコウタは思う。


「ナオミをどうする気だ。事と次第によっちゃ許さねーぞ」


すると、スイが本から静かに目を上げた。

冷ややかな目だったが、それでも普段コウタを無視する彼にしては珍しいことだった。


そしてコウタを向き、ゆっくりと口を動かす。彼に分かるように。


 ぼくが、まもる。


間違いなくそう口が動いた。

コウタが目を丸くすると、冷たい目のままスイはふっと口元を緩め、もうひとつ口にした。


 なおみは、ぼくのもの。


「……っ、テメ何を勝手に……!」


コウタは声を上げかけたが、女性陣のはしゃぐ声が大きく聞こえて遮られる。

ここで争ってもナオミに心配をかけるだけだ。

顔をしかめ、ちっと舌打ちしてコウタは前に向き直った。


勝手に、取らせてたまるか。



次回は女性陣のやりとり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ