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ところにより、ライバルでしょう

「息子が人語を離せないのは、ナオミ、君が原因だね」


うん、と自分で納得するように美しい龍人は言った。


突然のことにナオミは戸惑う。

コウタも困惑してナオミと龍人を交互に眺めた。


「ああ、責めているわけじゃない。そんな大した問題でないよ」


ひらひらと手を振って白銀の龍は軽い調子で続ける。


「君の気はなぜかこの川と繋がっている。過去に混ざったのかな?それがどうやら息子に影響しているらしい」


過去に川と混ざった。その言葉に2人が反応する。

心当たりは1つしかない。


「息子はここの気から生まれて、君の気で育ったから強く影響を受けたみたいだね。君、"言葉"について何か抵抗でもある?」


―――言葉への抵抗。


"言葉"と龍は言ったが、それはおそらく人間的には会話やコミュニケーションに当たるのだろう。


ナオミの中に暗い感情が膨れたが、溢れる前にすぐ蓋をした。


何を感じたのか、龍人は肩をすくめた。

人外の美形なのに、しぐさはいちいち人くさい。


「あるみたいだね。ああ、いいよ話さなくて。私が聞いても仕方ないから。ま、原因はそれだってことだね」

「……なあ、その原因とやらは解決しないといけないもんか?」


黙ったナオミの代わりにコウタが聞いた。


「いや?人語が離せないことで我々に不利益はないよ。私と息子の間ではちゃんと通じているし。あるとしたら君たちと息子の間かな。困るなら君たちで何とかしたらいい」


どうやら龍にとってこれは些事らしい。


コウタは少し肩の力を抜いた。


「わーった。じゃあこの問題はこちら任せってことで。んでナオミ、スイはお前が預かるんでいいんだな?」


ナオミは子龍の身体を固い表情で抱えたまま頷いた。

スイの顔がぱあっと明るくなる。

その笑顔に、彼女の表情がほぐれた。


そんな1人と1匹を見て、しゃあないな、とコウタは顔を崩す。


「おし、じゃあちゃんと覚悟しろよ。ばあさん説得しないとだし」

「……説得……そうか。そうだな、考えないと」


さすがに1人で隠れての育児は難しい。

ナオミは再び黙った。


「ああ、大丈夫だよ?サエさんに白龍がよろしく言ってたって伝えてもらえれば」

「は?」


サエはナオミの祖母の名だ。


「井戸のある家、サエさんだよね。昔行き倒れてたのを助けてもらってね。彼女の畑の野菜、おいしいよねえ」


のほほん、と龍が衝撃発言をした。


「ええええええええええ――――!?」


夜の森に2人の声が響き渡った。


本日最後の爆弾投下だった。




◆◆




「というわけで、ばあちゃんから許可貰えました」

「あっさり解決したね!?」


翌日。ナオミの部屋。


部屋の主のナオミ、コウタ、そして人型のスイが床に座り机を囲む。


スイはナオミの隣でこくこくと井戸水を飲んでいた。

小さな手でグラスを抱えて一生懸命だ。顔にくっつくくらいグラスを傾けているのがたまらなく可愛い。


「で、ばあさんは何か言ってた?」

「白龍さんに野菜持って行って、って」

「ご近所づきあいか!」


…いやもしくはお供え物か?

龍の立ち位置が分からず、コウタはちょっと悩んだ。



昨夜、あのあと帰ろうとするナオミたちに父龍は「育児のお礼に」とどこからか取り出した幼児服一式を渡してくれた。


ちなみになかなかオシャレな服がそろっている。


本日のスイは、その服の中からナオミが選んだチェックの半袖木綿シャツと短パンを着用していた。

ちょっと大人びたファッションは、幼児らしい丸みを帯びた愛らしさと対照的だ。ナオミ曰く「ギャップ萌えファッション」らしい。


コウタにはちょっと理解できない。


しかし彼女がとても満足しているようなので、別にいいか、と考えた。


龍の子を育てるなんて途方もない話だと思っているが、幼馴染がいいならそれでいい。

昨日自分に電話をしてきたときのようなあの悲痛な声はもう聞きたくなかった。


スイは一応人型になったが龍に変わりはない。今後どんなことが待ち受けてるか分からないが、そのときはそのときだ。

昨日のように、自分が助けてやればいい。


「?コウタ、どうした?」

「ん?ああ」


黙った幼馴染に、ナオミが怪訝な顔をする。

コウタは笑ってナオミを見た。


「ナオミ」

「なんだ」

「……よかったな」


ちょっと目を大きくしてからすぐ、彼女は小さく、幸せそうに微笑んだ。


「……ああ」


その笑顔だけでコウタは満足した。


しばらく優しい沈黙が部屋を包む。


そんな2人の様子をきょと、と見上げていたスイが、机の上に持っていたコップを落としてしまった。


「うお!?」

「ああっ、スイ大丈夫か!?」


コップの中身は向かいのコウタに全部流れたが、ナオミは慌ててタオルを掴み、スイの無事をだけを確認する。


心配するナオミに、こく、と子龍は頷いた。


そして次には大丈夫と言わんばかりに、にこーっと満面の笑顔を向ける。

たまらずナオミはスイを抱きしめた。


「ああスイ、可愛いなあ!」

「ちょっと待て、俺濡れてんだけど!?」


自分を指さしながら自己主張するも、コウタの声は完全に無視された。


冷たい!!


それは水のことか幼馴染のことか。


コウタが涙目で濡れたズボンを拭いていると、視線が自分に向いていることに気づいた。


見ると、頭をナオミの胸に埋めたスイが顔を半分だけこちらに向けている。


目が合うと可愛い子龍は彼に向かってニヤリと笑った。

まさしく「ざまみろ」と言わんばかりに。



……!コイツぜってー性格悪ぃ!!!!



コウタのライバルが現れた瞬間だった。

次話は本日11/20 21:00頃投稿予定です。

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