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ところにより、育児でしょう

ナオミ達の目の前に現れたモノ。


それは巨大な白銀の――――


「りゅ、う?」



濃い青の瞳、角度によって青にも見える白銀の鱗、薄い金のたてがみ、長い長い肢体。


ナオミが10日間共に過ごした小龍と同じ色をまとった、美しい生き物。


胴はナオミ達が2人で手を伸ばしても届かないほど太く、顔はナオミが手を広げてようやく鼻先が抱えらえる程度という大きさ。

スイと異なって耳元には見事なツノが生えていた。


彼らから5m程の距離から静かに2人を見下ろす姿はまさしく伝説の通り。神秘的な空気をまとった巨大な龍であった。



「うえぇぇぇぇ…」


息を飲んで伝説の存在を見るナオミとは対照的に、隣では幼馴染がすっかり腰を抜かしていた。


……情けない。


ちょっと頭が冷えた。

立ち上がって自分の尻の泥をはたく。


落ち着いて見上げて見れば、巨大龍のすぐ傍にはちょろちょろと忙しなく動く小龍スイが居た。


ナオミの胸が寂しさで満たされてしまう。


「……お父さんかお母さんに会えたってことか。もうお別れかな」


いつものように平坦なトーンだが、声はわずかに震えていた。


龍の大きな青い瞳がナオミを捉える。

何かを探るように小さな人間を見、わずかに逡巡したような様子を見せると、次にはぐっと首を持ち上げ身体を起こした。


その体が白い光に包まれる。


眩しさに思わず目を閉じるが、すぐに光は治まった。

そろ、と静かに目を開ける。


「………!」


巨大な龍は姿を消し、代わりにそこには美しい長髪の男性が存在していた。

流れる白銀の髪に青い瞳。切れ長の目に薄い唇。神社の神主が着ているような白い衣に、裾を絞った水色の袴を身に着けている。


ナオミ達が驚愕に声をなくしていると、その美しい人はやはり美しい声で2人に話しかけた。


「龍の口では言葉が発音しにくいのでね。この姿で話をさせてもらうよ」


……男性……ええと、お父様でしたか。


立て続けのびっくりショーにナオミの反応が斜め上にぶっ飛んだ。


その様子に男性がくすりと柔らかい笑みを浮かべる。

その顔も大変美しかった。


「まず、息子を世話してくれたことに感謝する」


龍人の横に、スイが長い身体を寄せ並んだ。


オスだったのね…、と隣の幼馴染が呟くのが聞こえた。

彼の思考もほどよくぶっ飛んでいるようだ。


スイの頭を撫でて男性は続ける。


「この子はここで生まれた直後、ちょうど通りかかった雨に流されてしまってね。ずっと探していたんだ。だが小さすぎて気配を辿れなくて……食事もできずに消えてしまったのではないかと思っていた。さっき雨雲と移動してきた私を追ってここまで来れるくらい成長していて、ほっとしたよ」


つとつとと話続ける父親に向け、スイが何かを訴えるように身体を動かす。


「うん?ああ慌てるな…そうか。井戸か。……ナオミ?……なるほど」


どうやら会話をしているようだが、人間2人は置いてきぼりだ。

話の中で名前を呼ばれてナオミの肩が跳ね上がる。

緊張はしていたが、思い切ってこのタイミングで彼女は言葉をねじ込んだ。


「あ、あの。話にちょっと着いていけてないんですが……。いいでしょうか」

「ああ、すまないね、何?」


なんだかこの龍はフレンドリーだ。会話が軽い。

龍って神様だと聞いていたがこんなノリでいいのだろうか。

勇気を出して一番聞きたいことを問う。


「スイ…息子さんと私たちは…ここでお別れとなるのでしょうか」

「……君はそれを望んでる?」

「いいえ!!……おぶッ!」

「ナオミぃ!?」


回答を聞いて、子龍が感極まったようにナオミの胸に飛び込んできた。

余りの力にナオミは軽く吹っ飛ぶ。

コウタが慌ててスイの胴体を引っ張り、ナオミから引きはがす。


2人と1匹の様子に父龍は目を細めた。


「できたら、これからも息子と居てやってほしい。彼の気が済むまで」

「!!……いいんですか?」


こくりと迷いなく父龍が頷く。


「ああ。彼もそれを望んでいるし、何より君の気は息子と相性がいいようだから」

「気…ですか?」

「そう。気。精気のことだよ。君たちに分かり易く言えば生命エネルギー、かな。我々はそれを食べて生きている。君の精気は息子の体に合う食事だったみたいだ。ああ、大丈夫。死にはしないよ。でも疲れやすくなったりはするかな?」

「…そういやお前、最近ずっと眠い眠い言ってたっけな」


そういえばそうだ。寝ても寝ても足りなかった。

思い返してみればスイが来てからだったかもしれない。


「本当はそこまで人から取ることはないんだけど、息子も育ち盛りだから加減できずに吸っちゃったかもしれないね」


ごめんね?と美しい人は首を横にちょっと倒した。

美形のかわいいしぐさとか威力半端ない。


イケメン好きでもないナオミだったが、ちょっとくらっとした。


コウタが少しイラついているのは、同性だからかもしれない。


「けどそれじゃあナオミの身体がもたないだろ。大丈夫なのかよ」

「心配ないよ。ここまで大きくなれば別のものから食事できる。新鮮な野菜とかきれいな水とか」

「…なるほど、スイが野菜から吸おうとしてたのは精気だったというわけか…」


本当は小さい間は親から気を分けてもらうんだけどね、と父龍は息子を見た。


「あと水は、ええと、ナオミ?君の家の井戸水でお願いね。ここの川の水とつながっているし一番いいみたいだから」

「?この川と?」

「そう。地下水脈がこの川の下にあるようだね。浸みた水が井戸に繋がっている」

「なるほど。心得た」

「ちょっと待てナオミ!なぜか育児の引継ぎみたいになってっぞ!」


1人と2匹は揃ってきょと、とコウタを見た。


「?もちろんそのつもりだが」

「うん、そのつもりだね」

「待て待て待てぇ!!よく考えろ!このままデカくなる龍、どうやって育てんだよっ!」


ぽんと父龍が両手を打った。


「そうそう、忘れてた。…息子よ、そろそろ出来るんじゃないか?やってみなさい」


ナオミにまとわりついていた子龍が顔を上げた。

見つめるナオミに対しちょっと悩んだような様子を見せるが、覚悟を決めたように目を閉じる。


むーん、と力を込めている様子が数秒続いた後、身体が光に包まれる。


父龍が人型になったときと同じ光だった。


次の瞬間。

ぽむっ、と現れたのは、2歳くらいの男児だった。


服は父龍と同じ、白い衣に水色の袴の神主風。

茶色の髪は直毛で短く、瞳も茶色。

顔立ちは美しい父龍の息子らしくよく似て整っているが、さらにまるっとした幼児の愛らしさも漂わせている。


「ああ、うまくできたね。髪と目の色も調整できてる。これなら違和感ないだろう」


これでどうだい?と父親はナオミとコウタに目を向けた。


「……問題ない」

「待てナオミ、目をキラキラさせてんじゃねえ!何か面倒ごと押し付けられてるぞ!」

「何が問題かね、少年」

「自分で子育てしろよ!育児放棄か!?」

「ひどいなあ、子の望みを叶えるのが親の役目だと心を鬼にして託しているのに」

「顔笑ってんぞ!?」

「いや、やはり自由はいいよね」

「本音出た!?おいナオミ、スイ抱きしめてないで何とか言えよ!」


ぎゅうぎゅうと抱きしめているので、スイは苦しそうだ。

ロープロープ、とばかりにナオミの腕をぽむぽむ叩いている。


父龍は息子の様子を見て首を傾げた。


「息子よ、人語が話せないのかい?」


ようやく解放された子龍は、ふらつきながらもこくこくと頷く。


ふむ、と父はあごに手を当てる。


「……変化へんげができれば普通は人の言葉を話せるのだが…。理解はしているようだから成長には問題ない…では他の要因か?」


息子をじっと見つめる。しばらくして得心した、という表情をした父龍はナオミを指さした。


「原因は君だね、ナオミ」

コウタ、今回はガヤ要員。

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