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継続はアイなり

<プロフィール>

商業では粟生慧で執筆しています。

おもに電子書籍ではBL中心です。

商業の内容はほぼエロです。

好きだと気づいたのは、あの事件以来。市原ははっきりとあの時のことを覚えている。

嵯峨が忘れようとして、市原を煙たく思っていることも分かっている。でも、きっと市原同様、嵯峨もあの事を忘れることはできないのだ。

小学生のころ、市原はただ憧れと羨望を持って嵯峨の後ろをついて回っていた。嵯峨にしても、ひ弱で内気な市原を子分にしたい気はなかったはずだ。

対等に付き合える、自分同様強い相手を欲していたことだろう。けれど、嵯峨は市原を突き放すことはしなかった。子供らしい無関心と気まぐれな仲間意識で二人はつながっていたのだ。

どんなに市原が嵯峨に対して、仲間ではなく、親友としてのステータスを望んでいたとしても、それは嵯峨に届かない願いだった。

つかず離れず。そんなあいまいな仲間意識が、中学に進学した時に災いした。


上級生に絡まれた市原の仲間として、市原の身代わりに嵯峨が犠牲になった。暴力とかましてや強姦じみた事などではない。市原に代わって、上級生に囲まれ、無理やり自分自身を慰めることを強要されたのだ。まだ十二歳の少年には十分すぎるほどの屈辱だった。それを携帯のカメラに撮られ、嵯峨は長いこと上級生からいびられ続けた。

本来ならそれは最初に因縁をつけられた市原が受けるべき屈辱だったのだ。

けれど、嵯峨をねたんでいた上級生の仲間の一人から、市原よりも嵯峨がその屈辱を受けるべきだと判断されたのだ。


目立っていた。それだけのことだ。嵯峨は喧嘩が強かった。十二歳でありながら、中学二年の少年たちより腕っ節があった。背も高く、身体もがっしりしていたせいで、入学当初から目をつけられていたことは確かだった。

その反面、市原は小柄で細く少女のように華奢だった。上級生の女子に人気があったせいで、これもまた目をつけられていたことは確かだった。

放課後、体育館裏で半裸にされた市原の前に立たされた嵯峨に、上級生は言った。

仲間を助けたかったらお前が代わりになれよ。

仲間じゃないといえば、それで済むことだったのに、嵯峨はとうとうその言葉を発しなかった。顔を真っ赤にして市原がさらされるべきだった恥辱を全身に浴びることになったのだ。


一部始終を市原は見ていた。見ているしかできなかった。その時に、市原は悟ったのだ。嵯峨が好きなのだと。

嵯峨が感じている屈辱を市原も感じ取りながら、何故かある種の悦びも感じていた。

市原に醜い部分があるとしたら、その部分かもしれない。市原になり変わり、一生消えないトラウマを負った嵯峨に対して、市原は嵯峨との断ち切ることのできない深い結びつきを感じたのだ。


嵯峨はもう二度と自分と無関係ではいられない。心の奥底で、くすぶるような忌々しさや屈折した感情を抱きながら、市原のことを想うようになる。


そのことを感じて、市原は至福を感じたのだ。


けれど、同時に痛みも感じた。嵯峨の癒やすことのできないトラウマ。誇り高い嵯峨の精神が歪んでしぼんでいく様は見るに堪えなかった。だから、市原は自分を変容させることにした。弱々しい自分に殻をかぶせ、違う形になり、市原の傷をぼやけさせたかった。ひどい人間になることもできる。けれど、それはつらすぎる。嵯峨のことを好きだという気持ちを偽らず、嵯峨に自分を憎むことを許しながら、その懐に入り込む方法を模索した。


ひょうきんでふざけた自分は偽りの姿でしかない。嵯峨の深い傷を深刻に見せないようにするカムフラージュだ。

きっと、市原に受け入れられなくとも、ずっとそばにいられる限り続ける。止めることはないだろう。


これは愛なのか? 愛とは言えない、未完成なものだろう。一方的な、幼いアイ。嵯峨が心を開き、市原を許す時が来るまで、続けられる一途で健気なパフォーマンスなのかもしれない。


ご感想お待ちしております。

なお商業収録作品は除外しております。

「キミイロ、オレイロ」

「悪徳は美徳」

「不確かな愛を抱いて」

「甘い蕾を貫いて」

「山神様といっしょ!」

関連作品のみ。


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